16 / 82
16話 テンプレ過去回想、ボスに対して言うテンプレ台詞
しおりを挟む
生き物の声が二つ。
「ドラゴンとフェンリル?」
「まさか」
騎士団長が青い顔をした。
それだけで、何が起きたか分かるわ。
「アステリ」
「ああ、見えてる。待てない兵が魔物に手を出したな~ドラゴンとフェンリルが出てきた」
「二人は」
「まだ何もしてないな? 威嚇で吠えただけだ」
ということは、これ以上あったら自ら出てくる気ね。
「フェンリル? ドラゴン?」
噂には聞いていたがと青褪めた顔を今度は白くする騎士団長。
伝説級の魔物だものね。強すぎて太刀打ちできる人間がいないから、この山はずっと魔物の住処なわけだし。
ま、さておき。逆鱗に触れる前にさっさと終わらせてしまおう。
「出ましょ」
「あいよ」
「せ、聖女様、しかし!」
「私の仲間に手を出したんだから、私が出ておかしくはないわね?」
ぐっと声を詰まらせ、彼は私とアステリが向かうのを見送った。
「!」
「聖女だ! な、なんだあの姿は」
「裏切り者の魔法使いもいるぞ!」
「あら~アステリ裏切り者扱い」
笑えると指差すと、うっせえと短く返された。
私のパンツスタイルにも物申しが入ったし。
いいじゃん。リーサも聖もパンツ好きだったから、こっち来てからスタイル変えたけど、それが周囲には驚きになると。
聖女様様な衣装はもう着る気ないし。
「それよりもだ」
「ん」
傷ついた魔物が足元で泣いている。
膝をついて癒してあげれば傷はなくなった。聖女の治癒魔法は精度が高いんだから。
「せ、聖女だ……」
「待て、魔物を癒すなんておかしいだろ!」
「やはり国を滅ぼす気か」
「団長はどうした? まさかすでに聖女が?」
「恐ろしい……早く俺達でやるんだ、団長の弔い合戦だ」
アステリがへえと笑う。
目は全然笑ってなくて冷ややかに騎士たちを見据えている。
「わざとやったな」
「どういうこと?」
アステリの言うことはこう。
魔物が襲ってきたと嘘をついて反撃する。
当然、傷ついた仲間の為に他の魔物は怒って集まり、互いに臨戦態勢となる。
そこをさらに誰かが煽る。
嘘を重ね、魔物を悪だと思い込ませる。
そして仕上げにその魔物を従えているのは聖女とする。
その聖女こそ諸悪の根源、今ここで倒すべきだという共通意識に持ってこさせ、その末に私を殺す。
「清々しいぐらい目的がはっきりしてるわね」
「魔物といざこざを起こせば、お前が出てくると踏んでだな」
分かってんじゃん。
私がここにいることを許してくれた皆。淋しくないよう城にいてくれる皆。
国の城の中とは大違いだもの。
奪われたくない場所。そしてテンプレな目標である長生きを掲げている私には当然飲めないあちらの希望。
「騎士団の中にそういう方向に持ってこうとする輩がいるわけ」
「ああ。さすが今回の為に編成された遣いだな? 優秀だぜ」
ゆらりと立ち上がる。
私を不安そうに見上げる魔物に城に戻るよう伝えた。
集まってきた他の子にも。
「イリニ」
「下がってて。私が目的なら、私がお相手すべきでしょ?」
「聖女様!」
遅れてやってきた騎士団長が私の背に声をかける。
同時、煽り役であろう騎士が声を上げた。
「団長が生きているぞ! さあみんなで聖女を倒すんだ!」
「なにそのボスに対して言うテンプレ台詞」
一瞬で怯ませて、絶望して頂いてお帰り頂きたい。
その思いが力になるのが分かった。
「お、何かきたか?」
「……俺つえええモードだ」
何もないところから剣が現れる。
周囲の騎士が息を飲んで一気に緊張感が増した。
アステリも初めて見る私のモード。その力が純粋に気になるのだろう。
興味をのぞかせる瞳で、軽く私に譲った。
「じゃお前に任せるわ」
「オッケー」
「聖女様、なにを」
エウプロの心配を無視して、大きな剣を両手で握り掲げる。
さあて、振りかぶっていこう。
「貴方たちが私を悪と見なすなら、それでもいいわ」
わ、すっごい。少年漫画のテンプレのごとく、身体に力が溢れてくるのが分かる。
これが祝福の重ね掛け。
「っ! 総員退避だ!」
「団長? なんで」
魔力が少しでもある人間なら分かるのね。さすが騎士団長。
なら、誰でもわかる形で出せばいいかな?
「お帰り下さい」
風が舞う。剣の属性だろうか、すべての風が剣に集約し、立てないぐらいの風を起こしている。
規模の違いに、さすがに目の前の一個師団もやばいものを目の前にしていると理解したよう。
まあ、皆さんには笑顔でさよならだ。
俺つえええだから念の為、手加減はするよ? ちょっとだけど。
「よっと」
剣を振り下ろす。
途端起きる暴風。
すぱんと綺麗に大地が割れ、眼下の湖まで到達し、水すらも割って見せた。
幸いなことは、付近の町や村まで届かなかったことだろうか。
「すごすぎ……」
「ドラゴンとフェンリル?」
「まさか」
騎士団長が青い顔をした。
それだけで、何が起きたか分かるわ。
「アステリ」
「ああ、見えてる。待てない兵が魔物に手を出したな~ドラゴンとフェンリルが出てきた」
「二人は」
「まだ何もしてないな? 威嚇で吠えただけだ」
ということは、これ以上あったら自ら出てくる気ね。
「フェンリル? ドラゴン?」
噂には聞いていたがと青褪めた顔を今度は白くする騎士団長。
伝説級の魔物だものね。強すぎて太刀打ちできる人間がいないから、この山はずっと魔物の住処なわけだし。
ま、さておき。逆鱗に触れる前にさっさと終わらせてしまおう。
「出ましょ」
「あいよ」
「せ、聖女様、しかし!」
「私の仲間に手を出したんだから、私が出ておかしくはないわね?」
ぐっと声を詰まらせ、彼は私とアステリが向かうのを見送った。
「!」
「聖女だ! な、なんだあの姿は」
「裏切り者の魔法使いもいるぞ!」
「あら~アステリ裏切り者扱い」
笑えると指差すと、うっせえと短く返された。
私のパンツスタイルにも物申しが入ったし。
いいじゃん。リーサも聖もパンツ好きだったから、こっち来てからスタイル変えたけど、それが周囲には驚きになると。
聖女様様な衣装はもう着る気ないし。
「それよりもだ」
「ん」
傷ついた魔物が足元で泣いている。
膝をついて癒してあげれば傷はなくなった。聖女の治癒魔法は精度が高いんだから。
「せ、聖女だ……」
「待て、魔物を癒すなんておかしいだろ!」
「やはり国を滅ぼす気か」
「団長はどうした? まさかすでに聖女が?」
「恐ろしい……早く俺達でやるんだ、団長の弔い合戦だ」
アステリがへえと笑う。
目は全然笑ってなくて冷ややかに騎士たちを見据えている。
「わざとやったな」
「どういうこと?」
アステリの言うことはこう。
魔物が襲ってきたと嘘をついて反撃する。
当然、傷ついた仲間の為に他の魔物は怒って集まり、互いに臨戦態勢となる。
そこをさらに誰かが煽る。
嘘を重ね、魔物を悪だと思い込ませる。
そして仕上げにその魔物を従えているのは聖女とする。
その聖女こそ諸悪の根源、今ここで倒すべきだという共通意識に持ってこさせ、その末に私を殺す。
「清々しいぐらい目的がはっきりしてるわね」
「魔物といざこざを起こせば、お前が出てくると踏んでだな」
分かってんじゃん。
私がここにいることを許してくれた皆。淋しくないよう城にいてくれる皆。
国の城の中とは大違いだもの。
奪われたくない場所。そしてテンプレな目標である長生きを掲げている私には当然飲めないあちらの希望。
「騎士団の中にそういう方向に持ってこうとする輩がいるわけ」
「ああ。さすが今回の為に編成された遣いだな? 優秀だぜ」
ゆらりと立ち上がる。
私を不安そうに見上げる魔物に城に戻るよう伝えた。
集まってきた他の子にも。
「イリニ」
「下がってて。私が目的なら、私がお相手すべきでしょ?」
「聖女様!」
遅れてやってきた騎士団長が私の背に声をかける。
同時、煽り役であろう騎士が声を上げた。
「団長が生きているぞ! さあみんなで聖女を倒すんだ!」
「なにそのボスに対して言うテンプレ台詞」
一瞬で怯ませて、絶望して頂いてお帰り頂きたい。
その思いが力になるのが分かった。
「お、何かきたか?」
「……俺つえええモードだ」
何もないところから剣が現れる。
周囲の騎士が息を飲んで一気に緊張感が増した。
アステリも初めて見る私のモード。その力が純粋に気になるのだろう。
興味をのぞかせる瞳で、軽く私に譲った。
「じゃお前に任せるわ」
「オッケー」
「聖女様、なにを」
エウプロの心配を無視して、大きな剣を両手で握り掲げる。
さあて、振りかぶっていこう。
「貴方たちが私を悪と見なすなら、それでもいいわ」
わ、すっごい。少年漫画のテンプレのごとく、身体に力が溢れてくるのが分かる。
これが祝福の重ね掛け。
「っ! 総員退避だ!」
「団長? なんで」
魔力が少しでもある人間なら分かるのね。さすが騎士団長。
なら、誰でもわかる形で出せばいいかな?
「お帰り下さい」
風が舞う。剣の属性だろうか、すべての風が剣に集約し、立てないぐらいの風を起こしている。
規模の違いに、さすがに目の前の一個師団もやばいものを目の前にしていると理解したよう。
まあ、皆さんには笑顔でさよならだ。
俺つえええだから念の為、手加減はするよ? ちょっとだけど。
「よっと」
剣を振り下ろす。
途端起きる暴風。
すぱんと綺麗に大地が割れ、眼下の湖まで到達し、水すらも割って見せた。
幸いなことは、付近の町や村まで届かなかったことだろうか。
「すごすぎ……」
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜
三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。
「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」
ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。
「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」
メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。
そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。
「頑張りますね、魔王さま!」
「……」(かわいい……)
一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。
「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」
国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……?
即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。
※小説家になろうさんにも掲載
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる