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17話 テンプレ過去回想、聖女は魔王になる

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 祝福のパワーアップ効果に思わず息を飲んだ。
 やばすぎでしょ。湖割ったよ? どこぞの神々も真っ青だよ?
 そして、ひじりの命名通り。
 軽く下ろしただけでこの強さ。チートなんじゃないの。いや俺つえええモードって、そこからきてるんだろうけど。

「ひ、怯むな!」

 騎士の中の誰かが叫び、我に返る騎士。
 ええ、これで帰ってくれないの?
 ならもっとこうボス感出せば帰ってくれるかな。

「まだモードぽいし続きやる?」
「おい、イリニ」

 軽く止めようとするアステリを視線だけで抑えて、私は騎士団に向き合った。
 風の属性なら、直撃しないようにしてれば吹っ飛ぶだけで死人は出ない。
 私の命中率次第って感じ。それならばっちりやれる自信がある。

「どうぞ俺つえええモードをお楽しみ下さい」

 騎士団の一部から悲鳴が上がる中、もう一度剣を振りかぶった。
 結果、私の圧勝で終了。
 もちろん怪我はさせない。動けなくしてそのまま。
 騎士団長が退避と叫んで動ける騎士が動けない騎士を庇いながら去っていく。
 よし、想像通り退いてくれたわ。

「俺つえええモード気持ちいいな~」
「ば、化け物……」
「失礼ね、私人間だし」
「魔王だ……聖女なんかじゃない……」

 動けない騎士が譫言うわごとのように言っている。
 まあなんと言おうと知ったことじゃない。
 今、私はとても気持ちがいい。爽やかだ。
 大振りの攻撃にすっきりというところ。
 あれか、鬱々とした気持ちの解消、イライラからすっきりできるモード。これこそ俺つえええの神髄ってやつね。

「……おい、イリニ」
「どうしたの、アステリ」

 振り向くとこめかみをピクピクさせながら、怒り心頭の世界最強の魔法使いが立っていた。
 あれ、私アステリになにかした記憶ないけどな?

「お前、少しは自重しろ!」
「え?」
「こっちはこの有様だぞ?!」

 手を挙げたアステリの先にある私たちの拠点。
 城が八割ほど壊れていた。

「あらら」
「無差別に振り回しすぎだ! この馬鹿!」
「ええと……初めてだったもので」

 うまく扱えなかったね。
 正面の騎士たちに配慮はしていたけど、振りかぶり直した時の背後とかなにも考えてなかったわ。

「俺の結界易々と突破しやがって!」
「パワーアップしたからねえ」

 アステリってば気を使って城に結界張ってくれてたらしい。
 それも全部私の俺つえええモードで突破されたと。
 見守っていたドラゴンもフェンリルも呆れた様子で見ていた。

「いいじゃん、あの子たち守れたんだから」
「あんなやり方しなくてもいいだろが」

 自分から悪役になる必要ないだろ? とアステリが言う。
 確かにそう。
 騎士たちの私に対する視線が元婚約者と被ってしまい無性に腹が立った。その前から魔物をだしにして傷つけてきた騎士が許せなかったのもある。
 魔物たちは、この子たちは私がここに城を構えてやってきた。僅かな時間でも私の淋しさは紛れたし、大事にしたいと思えた。
 だから、この城とこの子たちを守れるなら悪役もいいかなと思った。
 勝手に思い込んだのは騎士たちで、私自ら自己紹介したわけじゃない。

「構わないよ、どう思われても。私は思った通りに生きると決めた」
「にしたってよ」
「魔王でもかまわない。聖女やめたかったし」
「屁理屈だぞ」
「私は聖女の力さよならして、長生きする。その為の障害は全排除に決まってるでしょ」

 そんな感じで、私の魔王デビューは果たされた。
 翌日以降の各国の新聞記事に取り上げられ、私は聖女から魔王になったという内容が出回った。
 噂を聞き付け取り寄せた新聞の内容に笑いしかでない。シコフォーナクセーとエクセロスレヴォはまだしも、パノキカトの記事は魔物を従えた悪の象徴みたく謡われていた。

「ますます神殿にいけないじゃん」
「自業自得だ、阿保」

 それが私が魔王と呼ばれるに至った話。
 まさにテンプレ。
 自己犠牲の末に罪を被る的な。

「……成程」
「ちょっと、今ボケたからつっこんでよ」

 自己犠牲ちゃうやろぐらい言ってほしかった。
 だめだ、エフィはただエピソードの深堀というか考察してる感。
 全然私のコメント入ってない。

「俺がラッキースケベのハグ係をするのは間違いじゃなかったな」
「え、そこ? 全然関係なくない?」
「関係あるさ」
「ええ?」

 テンプレ通りの過去話。エフィは納得したからいいけど、出た答えはよく分からない。
 できれば専属解除したかったのに。
 いたく満足そうなのは構わないけど、このテンプレ話なら新聞読めば事足りた気もする。
 今更だけど、数話跨って語る必要あった?
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