魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ（旧題：婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした）

18話 二度目の来訪、魔王モード手前

「俺が君の淋しさを解消すれば、ラッキースケベは起きないんだろ？」
「うん、まあそうだけどさ」
「なら俺が抱きしめ続ければいいだろ？」
「その理屈……」
「イリニが淋しくないようにここにいるのは正解だった」
「そう……」

　この人余程のお人よしなの？
　シコフォーナクセーでどうしても聖女を保護したいのかと思っていたけど、そんなに真っ直ぐ見られても妙な感じ。

「イリニ」
「ディアボロス」

　もふもふがいなくなって、その代わりにディアボロスが神妙な顔をして降り立った。

「前来た奴がまた来たぞ」
「前？」
「イリニの国の騎士」
「ああ、エウプロね」

　しょうがない、懲りずにまた来たのは元婚約者の差し金だろう。
　本当なら来たくないだろうな。

「戻るか」
「俺も一緒に行こう」
「え、いいよ。エフィはお客様でしょ」
「違う、イリニの側近だ」
「それ、有効なの……」

　こだわりが強いな。
　ああでも、シコフォーナクセーの人間がいたら、パノキカトへの牽制にはなるかもしれない。
　それか揉めるかの二択かな。

「ディアボロス、数は」
「前と同じ」
「エウプロ以外の騎士たちは、謁見の間の一つ前に案内して。外はなし。魔物はそこから遠ざけて」
「誰もいなくていいのか？」

　あーそこねー。城にいれる以上監視は欲しいとこだけど。

「なら、カロを」
「え、いいの？」

　アステリにお願いしようとしてたら、エフィがカロをすすめてきた。ありがたい話ではある。魔物に見張りをさせていたら前と同じことが起きかねない。
　アステリが負けるわけないけど、パノキカトにとってアステリは処刑対象だから攻撃される恐れもあった。
　その点カロなら隣国の直轄騎士の副団長。迂闊に手を出せばパノキカトとシコフォーナクセーの外交に響くし、その責任が団長であるエウプロにのしかかる。少数はエウプロがどうなろうとかまわないだろうけど、多数は彼を支持してその下についているはずだ。エウプロが騎士の中で支持高いことは護衛をしてもらってる頃からよく知っている。
　だからカロが見張りをすれば、高確率で争いは起きない。

「カロに伝えよう」
「ありがと」

　素直に伝えると微笑んでエフィは返した。君の力になれるならと言って去る。
　なんだか不思議な感覚。友達がほしいと思っていたけど、こんな感じなのかな。

*　*　*

「此度も謁見お許し頂き」
「挨拶いいってば」
「な、こちらはパノキカト国王太子殿下、直々の命により伺っている。相応の対応をすべきでは」

　エウプロの隣にいる初老の男が抗議の声を上げた。
　イペリファーニア宰相補佐。がっちがちの王太子殿下派の一人だ。
　にしたってVIP待遇求むとかなんなの。

「魔法使長がいるのは分かるが、なぜシコフォーナクセーの王太子殿下が……」

　さすが宰相というべきか、それともさすがエフィと言うべきか、エフィの存在がきちんと認知されてる。割と外交関係は顔出ししてたものね。

「ここはシコフォーナクセー領土内だ。私がいてもおかしくはないかと」

　エフィが静かに応えた。王太子殿下の顔だ。
　ぐぐっと唸った宰相補佐をしり目に私はエウプロに話を促した。

「いいわ、騎士団長。用件を手短に」
「なんと不敬な」
「以前、こちらに攻撃をしたのを忘れているの？」

　睨み見下ろせば、宰相補佐は震えて黙り込んだ。
　きっかけと見なして、パノキカトに戦争をふっかけられる案件だからね、というのを含んでいるけど、きちんと分かっている。馬鹿じゃないらしい。

「では、申し上げる」
「はいはい」

　内容は二つ。
　内政の仕事を新聖女のかわりに私にやらせたいこと。
　平民エリアで起き始めている疫病や作物不作の改善。
　うん、よくもまあ言えたものね。
　というか、ゲームの流れだとピラズモス男爵令嬢が頑張ってステータスあげて、内政も取り纏めて聖女認定されてパワーアップの上で結界張るとこまでいくんだけどな。

「私を処刑したかったんじゃないの？」
「今回の件を承諾頂ければ、聖女を偽った罪は不問とし恩赦を与えると」
「矛盾してるねえ」

　不穏な声に宰相補佐が小さく悲鳴を上げた。

「偽りの聖女で処刑されそうになってるのに、その偽聖女の祈りの力で疫病と不作をどうにかさせる気？」
「……それ、は」
「まだピラズモス男爵令嬢は聖女になれないの？」
「それは……」
「まだなの」

　確かに精霊王の気配はない。
　ピラズモス男爵令嬢の為に出てきた所を取っ捕まえて、私の聖女の力を返すというプランが一番いい流れだけど、そううまくいかないか。

「まあ、軌道に乗れないからって取り戻そうとするのもテンプレかあ」
「え？」

　ヒロインはピラズモス男爵令嬢で私ではないけど、私が助かるルートがある場合、隣国でぬくぬくしてたら連れ帰ろうとするイベントが起こるのは高確率でありえる展開。
　でも私、そういうの好きじゃないんだよね。

「都合いいよね？」
「王太子殿下の恩赦を、なんて」

　宰相補佐黙っててくれないかな。エウプロと話してた方がまだ話が通る。

「恩赦もなにも、私は聖女であることに偽りないわよ」
「しかし、その力はもはや」
「パワーアップしただけだって」
「あ、悪意に満ちたやり方で魔物を従え、パノキカト国に危機を齎す魔王ではないか」
「はあ？」

　私が魔王であることはかまわない。
　勝手な被害妄想で被害者ぶるのも、この際どうでもいい。
　許せないとこが一つある。

「魔物を従えて？　あの子たちは何もしてないよね？」