19 / 82
19話 魔王モード、雷落ちる
しおりを挟む
「以前セーゴリアー騎士団長が来た時、魔物が襲ってきたではないか」
「はあ?」
「魔物はそもそも人にとって害獣でしいない。奴らが人に手を貸すなどありえない。つまり、アギオス侯爵令嬢が悪用した力で魔物を操り従えている」
あ、ちょっとだめね、これ。
「なにそれ。笑えない」
「おい、イリニ」
モードが入った私にアステリが制止をいれる。遅いよ。
「え?」
室内に風が舞う。どこからともなく雷鳴が轟いた。
「魔法?」
「室内で魔王モードはやめとけって」
私の感情が魔法となって現れている。
俺つえええが私個人の内容に反応するのに対して、この魔王モードは私の周囲、主に魔物たちに関することでスイッチが入るって感じかな。
振り幅は魔法に偏るみたい。
「きちんと理解してもらいたいんだけど」
「アギオス侯爵令嬢」
「魔物は害獣ではない」
「なにを」
雷が宰相補佐の足元に落ちる。
宰相補佐は魔王だと囁いてへたり込んだ。
根性ないな、エウプロ見習えばいいのに。顔を強張らせながらもきちんと立ってる。
「従える従えないはこの際どうでもいいわ。今日一つだけきちんと覚えて帰って」
「え?」
「魔物は悪ではないのよ。人を攻撃するのは、なにかしら人が魔物に刺激を与えたとき」
「アギオス侯爵令嬢」
「というわけ。帰ってくれる?」
雷鳴轟き、暴風が吹き荒れる。
腹が立つことへの言及はしない、ただ今は帰ってくれればいいのに。
宰相補佐が腰を抜かしたまま、苦し紛れに抵抗する。
「恩赦を捨てるのか?! たかだか祈りを捧げ、今までと同じように公務をこなすだけなのに!」
あ、これは俺つえええに移行かな。
この人私を煽るの上手。
すると室内の雷が私に呼応するように轟いて落ち、宰相補佐に直撃した。
「あ、やば」
「……生きてます」
「ほんと?」
エウプロが気まずそうにしながらも、宰相補佐の無事を報告する。
文官といえど結構頑丈なのね。
にしても。
「口から煙吐くとか、いつの時代のギャグ漫画」
笑いをこらえていると、アステリに「お前緊張感ねえのかよ」と窘められた。
雷まともにくらって、黒い煙口から吐いて意識飛んでるとか、古い少年ギャグ漫画であるやつじゃん。
笑わずにはいられない。
「ん、じゃエウプロ、宰相補佐起こして?」
エウプロが戸惑いながらも、宰相補佐を呼び身体を何度かゆすれば、ばふんと黒い煙をもう一度吐いて意識を取り戻した。
やっば、存在がギャグ漫画ね。雷の影響か、ただ単にびびってるのか分からないけど、腰を抜かしてその場に座り込んでいる。
宰相補佐の方がよっぽど失礼な態度だよねえ。
「……魔王だ」
自分の状況を把握した宰相補佐が震えながら私を見上げた。
また煽ってくるのかな?
「恐ろしい……そんなに力を誇示したいのか」
「どうしてそうなるの」
「恩赦が与えられるとなれば、自国に戻り尽くすのが国民だろう。それをここまで王太子殿下の、国の名誉を汚す等考えられない」
やっぱこの人と馬が合わないなあ、剣だそうかなあと思った時だった。
「僭越ながら、イペリファーニア宰相補佐、セーゴリアー騎士団長殿」
エフィが私の隣まで足を進めた。
見上げれば、目線だけこちらに下ろしているので、軽く頷いて続きを促した。
「シコフォーナクセー第三王太子殿下」
エウプロが改めて正しく挨拶しようとするのをエフィは制した。
「アギオス侯爵令嬢は現在シコフォーナクセー国内にいらっしゃる賓客である」
「え?」
私の反応を無視してエフィは続ける。
いつお客様になったの?
「パノキカト国王太子殿下との婚約も正式に破棄されている以上、そちらに強い拘束力はない」
「それは、」
「現在シコフォーナクセー国の正式な賓客であるアギオス侯爵令嬢を、パノキカト国への帰国を求める場合、シコフォーナクセー国の法律に乗っ取って手続きを願いたい」
驚いた。
エフィが私を庇ってくれている。
「し、しかし、彼女はパノキカト国の民であって」
「シコフォーナクセー国王太子である私の賓客であれば、この国への滞在継続は何も問題なく、また他国の干渉を受け付けない。王族の意志は国の意志。パノキカトが国として彼女を求めるのであれば、王陛下もしくは王太子殿下が直接我が国に申し出をすべきだ」
それは三国間で決めた外交措置だ。簡単にいえば横取り禁止ってやつ。
その措置を掲げて使われることはなかった。こんな時に使うなんてね。
にしても、この状況。
「テンプレだなあ」
「呑気なこと言ってんなよ」
アステリに窘められた。
隣国が拒否して、ひどい目に遭わずに済むなんてテンプレでしょ。
そう思っていたら、あちらから返事があった。
「委細承知致しました」
エウプロが頭を下げた。
「シコフォーナクセー王太子殿下に大変無礼を」
「気にしなくていい。ただ今日のところは」
「はい。失礼致します」
「ま、まてセーゴリアー騎士団長! これは王太子殿下の命だ! 反逆者になりたいのか!」
腰を抜かした宰相補佐を抱え、再度こちらに礼をした騎士団長が去っていく。
いつの間にか魔法の嵐はおさまっていた。
魔王モード解除されてるや。
「はあ?」
「魔物はそもそも人にとって害獣でしいない。奴らが人に手を貸すなどありえない。つまり、アギオス侯爵令嬢が悪用した力で魔物を操り従えている」
あ、ちょっとだめね、これ。
「なにそれ。笑えない」
「おい、イリニ」
モードが入った私にアステリが制止をいれる。遅いよ。
「え?」
室内に風が舞う。どこからともなく雷鳴が轟いた。
「魔法?」
「室内で魔王モードはやめとけって」
私の感情が魔法となって現れている。
俺つえええが私個人の内容に反応するのに対して、この魔王モードは私の周囲、主に魔物たちに関することでスイッチが入るって感じかな。
振り幅は魔法に偏るみたい。
「きちんと理解してもらいたいんだけど」
「アギオス侯爵令嬢」
「魔物は害獣ではない」
「なにを」
雷が宰相補佐の足元に落ちる。
宰相補佐は魔王だと囁いてへたり込んだ。
根性ないな、エウプロ見習えばいいのに。顔を強張らせながらもきちんと立ってる。
「従える従えないはこの際どうでもいいわ。今日一つだけきちんと覚えて帰って」
「え?」
「魔物は悪ではないのよ。人を攻撃するのは、なにかしら人が魔物に刺激を与えたとき」
「アギオス侯爵令嬢」
「というわけ。帰ってくれる?」
雷鳴轟き、暴風が吹き荒れる。
腹が立つことへの言及はしない、ただ今は帰ってくれればいいのに。
宰相補佐が腰を抜かしたまま、苦し紛れに抵抗する。
「恩赦を捨てるのか?! たかだか祈りを捧げ、今までと同じように公務をこなすだけなのに!」
あ、これは俺つえええに移行かな。
この人私を煽るの上手。
すると室内の雷が私に呼応するように轟いて落ち、宰相補佐に直撃した。
「あ、やば」
「……生きてます」
「ほんと?」
エウプロが気まずそうにしながらも、宰相補佐の無事を報告する。
文官といえど結構頑丈なのね。
にしても。
「口から煙吐くとか、いつの時代のギャグ漫画」
笑いをこらえていると、アステリに「お前緊張感ねえのかよ」と窘められた。
雷まともにくらって、黒い煙口から吐いて意識飛んでるとか、古い少年ギャグ漫画であるやつじゃん。
笑わずにはいられない。
「ん、じゃエウプロ、宰相補佐起こして?」
エウプロが戸惑いながらも、宰相補佐を呼び身体を何度かゆすれば、ばふんと黒い煙をもう一度吐いて意識を取り戻した。
やっば、存在がギャグ漫画ね。雷の影響か、ただ単にびびってるのか分からないけど、腰を抜かしてその場に座り込んでいる。
宰相補佐の方がよっぽど失礼な態度だよねえ。
「……魔王だ」
自分の状況を把握した宰相補佐が震えながら私を見上げた。
また煽ってくるのかな?
「恐ろしい……そんなに力を誇示したいのか」
「どうしてそうなるの」
「恩赦が与えられるとなれば、自国に戻り尽くすのが国民だろう。それをここまで王太子殿下の、国の名誉を汚す等考えられない」
やっぱこの人と馬が合わないなあ、剣だそうかなあと思った時だった。
「僭越ながら、イペリファーニア宰相補佐、セーゴリアー騎士団長殿」
エフィが私の隣まで足を進めた。
見上げれば、目線だけこちらに下ろしているので、軽く頷いて続きを促した。
「シコフォーナクセー第三王太子殿下」
エウプロが改めて正しく挨拶しようとするのをエフィは制した。
「アギオス侯爵令嬢は現在シコフォーナクセー国内にいらっしゃる賓客である」
「え?」
私の反応を無視してエフィは続ける。
いつお客様になったの?
「パノキカト国王太子殿下との婚約も正式に破棄されている以上、そちらに強い拘束力はない」
「それは、」
「現在シコフォーナクセー国の正式な賓客であるアギオス侯爵令嬢を、パノキカト国への帰国を求める場合、シコフォーナクセー国の法律に乗っ取って手続きを願いたい」
驚いた。
エフィが私を庇ってくれている。
「し、しかし、彼女はパノキカト国の民であって」
「シコフォーナクセー国王太子である私の賓客であれば、この国への滞在継続は何も問題なく、また他国の干渉を受け付けない。王族の意志は国の意志。パノキカトが国として彼女を求めるのであれば、王陛下もしくは王太子殿下が直接我が国に申し出をすべきだ」
それは三国間で決めた外交措置だ。簡単にいえば横取り禁止ってやつ。
その措置を掲げて使われることはなかった。こんな時に使うなんてね。
にしても、この状況。
「テンプレだなあ」
「呑気なこと言ってんなよ」
アステリに窘められた。
隣国が拒否して、ひどい目に遭わずに済むなんてテンプレでしょ。
そう思っていたら、あちらから返事があった。
「委細承知致しました」
エウプロが頭を下げた。
「シコフォーナクセー王太子殿下に大変無礼を」
「気にしなくていい。ただ今日のところは」
「はい。失礼致します」
「ま、まてセーゴリアー騎士団長! これは王太子殿下の命だ! 反逆者になりたいのか!」
腰を抜かした宰相補佐を抱え、再度こちらに礼をした騎士団長が去っていく。
いつの間にか魔法の嵐はおさまっていた。
魔王モード解除されてるや。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜
三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。
「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」
ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。
「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」
メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。
そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。
「頑張りますね、魔王さま!」
「……」(かわいい……)
一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。
「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」
国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……?
即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。
※小説家になろうさんにも掲載
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる