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59話 密室密着系ラッキースケベ
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「ん? 何か奥が騒がしい?」
事情を把握できていないカーリーが小首を傾げる。
だめだ、ここにいたら被害が拡大する。ここにいたら、エフィと取り巻きの女性陣を見てたら心落ち着かせられない。
会場の外へ出ようと踵を返した。
「姉様?」
「ごめん、カーリー。ちょっと席外すね」
「え、姉様?」
ごめん、カーリー。私がここから離れないとラッキースケベの被害が拡大するんだよ。ただでさえテロ起こしてる状況だから。
王城全体にラッキースケベがかからないように、気持ちを落ち着けないと。
前は簡単にできてたんだから、人がいないとこに行けば大丈夫のはず。
というか、技術屋さんとこ行った時もそうだけど、ラッキースケベがある限り外に出られないんじゃないの?
会場から離れた人気のない城の奥へ走った。
「……最悪」
やらかした。
あんな大勢いる場所で。
そりゃ人数的に二個師団にラッキースケベでスライム被害をやらかした時よりは人数少ないけど。
「なんてことを……もうやだ……」
「イリニ」
「ひえ」
逃げ込んだ掃除用具置き場で息を潜めていたら、なんなくエフィは私に到達した。早すぎるよ。
「なんでこんな狭い所に隠れるんだ」
「……ばれないかと思って」
溜め息を吐かれる。
見えるところを逃げてたら追い付かれるし、隠れるってなると場所を選ぶ。
掃除用具置き場の奥にある長物をしまう背の高いロッカー的な物置の中に隠れた。私一人なら割りと余裕があるし、汚れとかも気を遣ったからドレスは一切汚してない。
それ以前に落ち着くまで一人になりたかったわけで。
「まあ俺も小さい頃はここに隠れたりしたな」
「エフィが?」
小さいエフィてどんな感じだろ。聖女になったばかりの頃、初めての外交ではどこの王太子殿下もそれなりの格好だったし、振る舞いも大人と遜色なかった。
いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。
「んん?」
「ああしつこいな」
カツカツ響く靴の音と諌める女性の声がだんだん近づいてくる。
思い当たるのはエフィの周りにいた、ラッキースケベの原因たちだ。
「さっきの女性陣?」
「の内の誰かだろうな」
お嬢様さすがにこんなとこにはいらっしゃいませんよ、あんまり王城の奥に入るのは、と止めようとする侍女らしき人の声が聞こえる。
足音がさらに近づいた。このままだと掃除用具置き場のここに辿り着いてしまう。
「エフィ」
「え?」
思わず腕を引っ張って、長物用ロッカーに引き入れて戸を閉めた。
やば、二人だと狭い。
「何をっ」
「しっ」
奥の扉が開く音がした。侍女がいませんよおと情けない声をあげている。
どこぞのご令嬢は侍女に指示を出し侍女だけ部屋に押し入れた。カツカツ響く音とは別の音が近づき、私とエフィは二人して息を止めた。
隠れる必要なんて本当はない。
けど取り巻きのお嬢様がまたエフィの隣を陣取ってエフィも笑顔を向けて対応するのを見たくなかった。王太子としてしなきゃいけないことでも。
すっかり我儘になったと思う。隠せもしないんだから困ったもの。
「……行ったな」
「そう」
考えていたら、侍女の声とカツカツ音が遠ざかっていた。
侍女にはばれなかったらしい。よかったよかったと雰囲気も安堵の色を見せ、そこから出ようという時。
「ん?」
エフィが戸を開けようとするとがちゃがちゃ言うだけで開かない。
「なんだ? 開かないな」
「…………まさか」
そんな厳重な鍵でもないし、おんぼろすぎて立て付けが悪いわけでもない物置が開かないなんて。
もしかして……もしかしなくても、ラッキースケベ?
やめてよ、この狭い空間で密着したまま過ごせって?
服越しでもエフィの鼓動が聞こえるのに?
恥ずかしいでしょ、この距離。今まで抱きしめられてた中でも一・二を争うぐらい近いのに。
自分の心臓がばくんと一際大きく跳ねるような気がした。ああだめ、エフィに聞こえちゃう。
「ラッキースケベか」
「ごめん」
冷静なエフィの指摘にしょんぼりするしかない。密着系のラッキースケベかあ。裸にならないだけマシなのかな? でもこの距離はなあ。
恥ずかしさに悶えるしかない私に対して、エフィは思いの外弾んだ声で囁いた。
「いや、嬉しい」
「はい?」
思いがけない言葉だった。
ラッキースケベの被害に遭うのが嬉しいってこと? どれだけ被虐体質になってしまったの。まだ間に合う、早く体質を戻そう。全てはラッキースケベが原因のはずだもの。
「……焼きもち、だろ?」
「え?」
「さっきの。イリニを放って女性と話していた。良くなかったな」
「そ、そんなことは」
「会場でも今さっきもご令嬢がいて、そこでラッキースケベが起きたなら俺でも分かる」
「ぐぐぐ」
恥ずかしくて逃れようと距離をとる。うん、距離とれないや、ここ。
こら、とエフィが窘める。
「動くな、まずい」
「だって」
「動くと、あた、る」
もう一度みじろいだら私の太股がエフィの足の間に入ってしまった。挙げ句、長物の掃除用具が傾いてエフィの服を引っ掻けたせいで腹筋が丸見えになる。
目線、目線逸らそう。
事情を把握できていないカーリーが小首を傾げる。
だめだ、ここにいたら被害が拡大する。ここにいたら、エフィと取り巻きの女性陣を見てたら心落ち着かせられない。
会場の外へ出ようと踵を返した。
「姉様?」
「ごめん、カーリー。ちょっと席外すね」
「え、姉様?」
ごめん、カーリー。私がここから離れないとラッキースケベの被害が拡大するんだよ。ただでさえテロ起こしてる状況だから。
王城全体にラッキースケベがかからないように、気持ちを落ち着けないと。
前は簡単にできてたんだから、人がいないとこに行けば大丈夫のはず。
というか、技術屋さんとこ行った時もそうだけど、ラッキースケベがある限り外に出られないんじゃないの?
会場から離れた人気のない城の奥へ走った。
「……最悪」
やらかした。
あんな大勢いる場所で。
そりゃ人数的に二個師団にラッキースケベでスライム被害をやらかした時よりは人数少ないけど。
「なんてことを……もうやだ……」
「イリニ」
「ひえ」
逃げ込んだ掃除用具置き場で息を潜めていたら、なんなくエフィは私に到達した。早すぎるよ。
「なんでこんな狭い所に隠れるんだ」
「……ばれないかと思って」
溜め息を吐かれる。
見えるところを逃げてたら追い付かれるし、隠れるってなると場所を選ぶ。
掃除用具置き場の奥にある長物をしまう背の高いロッカー的な物置の中に隠れた。私一人なら割りと余裕があるし、汚れとかも気を遣ったからドレスは一切汚してない。
それ以前に落ち着くまで一人になりたかったわけで。
「まあ俺も小さい頃はここに隠れたりしたな」
「エフィが?」
小さいエフィてどんな感じだろ。聖女になったばかりの頃、初めての外交ではどこの王太子殿下もそれなりの格好だったし、振る舞いも大人と遜色なかった。
いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。
「んん?」
「ああしつこいな」
カツカツ響く靴の音と諌める女性の声がだんだん近づいてくる。
思い当たるのはエフィの周りにいた、ラッキースケベの原因たちだ。
「さっきの女性陣?」
「の内の誰かだろうな」
お嬢様さすがにこんなとこにはいらっしゃいませんよ、あんまり王城の奥に入るのは、と止めようとする侍女らしき人の声が聞こえる。
足音がさらに近づいた。このままだと掃除用具置き場のここに辿り着いてしまう。
「エフィ」
「え?」
思わず腕を引っ張って、長物用ロッカーに引き入れて戸を閉めた。
やば、二人だと狭い。
「何をっ」
「しっ」
奥の扉が開く音がした。侍女がいませんよおと情けない声をあげている。
どこぞのご令嬢は侍女に指示を出し侍女だけ部屋に押し入れた。カツカツ響く音とは別の音が近づき、私とエフィは二人して息を止めた。
隠れる必要なんて本当はない。
けど取り巻きのお嬢様がまたエフィの隣を陣取ってエフィも笑顔を向けて対応するのを見たくなかった。王太子としてしなきゃいけないことでも。
すっかり我儘になったと思う。隠せもしないんだから困ったもの。
「……行ったな」
「そう」
考えていたら、侍女の声とカツカツ音が遠ざかっていた。
侍女にはばれなかったらしい。よかったよかったと雰囲気も安堵の色を見せ、そこから出ようという時。
「ん?」
エフィが戸を開けようとするとがちゃがちゃ言うだけで開かない。
「なんだ? 開かないな」
「…………まさか」
そんな厳重な鍵でもないし、おんぼろすぎて立て付けが悪いわけでもない物置が開かないなんて。
もしかして……もしかしなくても、ラッキースケベ?
やめてよ、この狭い空間で密着したまま過ごせって?
服越しでもエフィの鼓動が聞こえるのに?
恥ずかしいでしょ、この距離。今まで抱きしめられてた中でも一・二を争うぐらい近いのに。
自分の心臓がばくんと一際大きく跳ねるような気がした。ああだめ、エフィに聞こえちゃう。
「ラッキースケベか」
「ごめん」
冷静なエフィの指摘にしょんぼりするしかない。密着系のラッキースケベかあ。裸にならないだけマシなのかな? でもこの距離はなあ。
恥ずかしさに悶えるしかない私に対して、エフィは思いの外弾んだ声で囁いた。
「いや、嬉しい」
「はい?」
思いがけない言葉だった。
ラッキースケベの被害に遭うのが嬉しいってこと? どれだけ被虐体質になってしまったの。まだ間に合う、早く体質を戻そう。全てはラッキースケベが原因のはずだもの。
「……焼きもち、だろ?」
「え?」
「さっきの。イリニを放って女性と話していた。良くなかったな」
「そ、そんなことは」
「会場でも今さっきもご令嬢がいて、そこでラッキースケベが起きたなら俺でも分かる」
「ぐぐぐ」
恥ずかしくて逃れようと距離をとる。うん、距離とれないや、ここ。
こら、とエフィが窘める。
「動くな、まずい」
「だって」
「動くと、あた、る」
もう一度みじろいだら私の太股がエフィの足の間に入ってしまった。挙げ句、長物の掃除用具が傾いてエフィの服を引っ掻けたせいで腹筋が丸見えになる。
目線、目線逸らそう。
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