魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

文字の大きさ
64 / 82

64話 パリピバーベキュー

しおりを挟む
 エフィが珍しく大きな声を上げ、回廊に響く。幸い誰も来てないけど、このまま話を続けていればいつ誰が通るかも分からない。
 念の為エフィの腕に自分の腕を絡ませると、まだ感情おさまりきらないエフィが私を見る。納得がいかないという顔だ。このままだとエフィが元婚約者を殴りかねない。それはさすがにだめ。
 瞳を閉じる。
 いつになったら理解するのかは分からないけど、一応会話というものは形だけでもしておくべきかな。

「お断りだと言ったはずです」
「は?」
「なんで貴方の一存で私が死ぬのか理解できません」
「なんだと」
「というか、私にかまってないでピラズモス男爵令嬢のとこへさっさと戻ったらどうです」
「貴様」

 元婚約者が身構えた。手出してくるの?
 私もエフィも規格外だから余裕で防げるだろうけど、問題にしたくないのに。
 そう思った途端、足元がずんと大きく突き上げられた。

「!」
「なん、」
「きゃっ」

 縦に一度揺れただけ。
 また地震。それ以上揺れないからまあいいとしても、最後に聞こえた可愛いらしい声を探すと、元婚約者の向こうからこちらに駆け寄る女性の姿が見えた。

「バシラス!」
「リズ!」
「ピラズモス男爵令嬢」

 よし、いいタイミングだ。元婚約者押し付けてさよならするチャンス。

「リズ、待っていろと」
「どうしても気になって……イリニさんとご一緒だったのですか?」
「ゾンダースタイン王太子殿下が直々にご挨拶をと我々に声をかけて下さった」

 エフィがピラズモス男爵令嬢に語りかける。あれだけ怒り心頭だったのに、今はとても冷静にこの場を収めようとしてくれていた。すごいな、エフィ。

「まあ。それなら私も一緒に伺いましたのに」
「リズ、それは」
「まー、そういうわけだから、ピラズモス男爵令嬢、後はよろしく」
「え? あ、はい」
「いこ、エフィ」
「な、」
「それではさようなら、ゾンダースタイン王太子殿下。こちらで私たちは失礼します」

 そうしてエフィに腕を通したまま、彼らに背を向ける。
 ピラズモス男爵令嬢がいる手前、動けないのか元婚約者が開きかけた口を閉じて不服そうに唸った。
 その後、心配そうに元婚約者に触れるピラズモス男爵令嬢を見て、すぐに手を取り会場の方へ向かっていく。
 歩きながらこっそり後ろを確認していた私はやっと前を向いて歩けた。
 ほっと肩の力が抜け、一息つく。

「……すまなかった」
「なにが?」
「感情的になった」

 気まずそうに前を向いたまま歩くエフィが可愛くて笑ってしまう。

「嬉しかったよ」
「イリニ?」
「エフィが庇ってくれて」
「……」
「ありがとね」

 見上げて笑うとエフィが何かを堪えたように眉根を寄せた。あいてる手を口元に添えて反則だと囁いた。

* * *

 お呼び出し指定の場所は王陛下が主に使う私用の庭らしい。人避けもして私たちしか呼ばないあたり、パリピで来るのは明白だった。
 挙げ句庭にいく手前で着替えまで用意されてたし。コットンパーカーにパンツをだされてなにやるか悟った。

「いっちゃあああん!」

 うぇーい! と手を上げるので、こちらも合わせて手を上げる。
 両手にそれぞれ王陛下と王妃殿下の手が合わされパチンといい音がなる。

「今日はこれ!」
「焚き火ですか」
「と! バーベ」
「キュー!」

 二人とも楽しそう。
 そしてこの短期間でよく作ってくれた技術屋さん。お礼の手紙書こう。

「まあ服変えた時点で分かってたと言いますか」

 ドレスだと燃えたり穴あく危険があるし、焚き火の匂いもつくしね。そうしたとこに配慮して服を用意するあたり、向こうの世界で二人は割ときっちりしたパリピに知り合ったのかもしれない。

「肉焼こ! 肉!」
「いいね~」
「イリニ、これは」
「陛下たちが言ってた通り、バーベキューだよ」

 これがとバーベキューコンロをしげしげと眺めるエフィ。パリピがきちんと仕組みについて教えていた。パリピのノリで技術の仕組みを教えるものじゃないと思うけど。

「お酒!」
「かんぱーい!」
「うぇーい!」

 両陛下はビール、私たちはハイボールで乾杯だった。
 二人しかパリピいないのに随分な盛り上がり。どうやらバーベキュー後は花火もあるらしい。この国に花火作る文化あったっけ?

「いっちゃん見て見てー!」
「え、それ、え?」

 いえー言いながらこちらにガラガラ持ってきたのは明らかにモニタとタッチパネルがついた音声機器。見たことあるやつ。

「カ・ラ・オ・ケ!」
「嘘でしょ」
「いっちゃん驚きすぎ、うける」
「いや驚くでしょ?」

 この世界にポップカルチャーな音楽あった? クラシックしか知らないし。
 本体だけじゃなくマイクもタンバリンもマラカスもある。なんなの、ここだけ日本だよ。野外だけどカラオケルームにいるよ。

「じゃ一曲!」

 あー選曲が聖と同じ年代だ、遠い目しちゃう。エフィはタンバリン、私はマラカス持たされてシャンシャンやらされる始末。この絶叫、社交場の方に漏れてないよね? 心配だよ。

「うぇーい!」
「わー無駄に美声ー」
「もう一曲!」
「うぇーい!」

 夫婦で賄える気がする。私とエフィ必要?
 うぇいうぇいしてんの両陛下だけじゃん。

「あ、いけない肉こげる」
「イリニ、俺がやろう」
「ありがと」

 用意されたお皿にエフィが取り分けてくれる。
 バーベキューコンロには興味があるみたいで中の炭の具合とか色々見てくれるのは助かる限り。
 私はひとまずうぇいうぇい二人分のお酒ついどくか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!

葵 すみれ
恋愛
今宵の舞踏会は、聖女シルヴィアが二人の王子のどちらに薔薇を捧げるのかで盛り上がっていた。 薔薇を捧げるのは求婚の証。彼女が選んだ王子が、王位争いの勝者となるだろうと人々は囁き交わす。 しかし、シルヴィアは薔薇を持ったまま、自信満々な第一王子も、気取った第二王子も素通りしてしまう。 彼女が薔薇を捧げたのは、呪われ大公と恐れられ、蔑まれるマテウスだった。 拒絶されるも、シルヴィアはめげない。 壁ドンで追い詰めると、強引に薔薇を握らせて宣言する。 「わたくし、絶対にあなたさまを幸せにしてみせますわ! 絶対に、絶対にです!」 ぐいぐい押していくシルヴィアと、たじたじなマテウス。 二人のラブコメディが始まる。 ※他サイトにも投稿しています

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...