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最終話 ラッキースケベ大団円
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温泉があるだけで朝風呂が習慣化してしまった。
「お風呂いこっと」
結局、私はイディッソスコ山の城にいる。
今では魔王城と呼ばれ、勘違いした自称勇者たちがやってきては私に倒され去っていくを繰り返していた。
「俺つえええモードも魔王モードもそれなりに強いままだしなあ」
山の麓の湖の先まで真っ二つはないけど、現在自称勇者で私より強い人間はいない。
新聞記事には俺つえええモードで出る魔法の柱が見える度に魔王城攻略についてというよく分からない記事があがる。そしてその隣に女性のファッションでパンツブームがきたとか。色々ツッコみたくなったけど放っておいた。
「ふわあ、いいわあ」
お風呂に癒される。
告白の返事をしてからエフィの仕事は早かった。
イディッソスコ山の城を居住地にしてくれ、今は爵位を賜る為にシコフォーナクセー王城に一時的に滞在している。一週間程かかると言っていたかな。
「今日で三日目……」
終わり次第こちらに戻るとも。
でもエフィがいない城にいるのはやっぱり淋しい。
魔物も変わらずいるし、アステリやカロまで前と同じで城にいる。マリッサが堂々と私付きの侍女として公にいてくれてるけど、エフィがいないと意味がない。
「まさか本当に王位継承権を返上するなんて」
この城に戻ってから暫く婚約期間が長く続くのかなと思ってたけど、一ヶ月も経たない内にエフィは王城に向かった。
私もと言ったけど、断固としてついてくることを許されず城に待機だ。社交も外交もエフィがいるならと覚悟を決めたのに、エフィはそこから私を離したがる。
結婚のお許しもらう時は何が何でも連れてってもらわないと。
『これからは辺境伯になる』
告白の返事からこの城に戻って、あっさり告げられた。
元から考えていたことらしい。王位継承権を返上し王族を脱するなら、それ相応の爵位が与えられるけど、エフィはこの城で私と暮らしていくことを考えて辺境伯の話を提案したらしい。
国境の管理とイディッソスコ山の魔物たちの統制、ラレスニサト湖あたりまで管轄にして国に貢献する形をエフィは選んだ。民の近くで働いて国の為に尽力する形は損なわず、同時に私と一緒にいることまで叶えた。
「敵わないよなあ」
そういうことをあっさり決めてあっさりやるんだから。全部叶えるを実現してくる。
ああやっぱりエフィに会いたい。エフィのことを考えれば考える程、会いたい気持ちが募る。三日だけしか経ってないのに、私の心はすっかり淋しさを我慢しなくなってしまった。
「ん?」
露天風呂の湯が小刻みに揺れる。なんだろうと思ったら、男性用の露天風呂との間にある壁が壊れた。その先から大量のお湯が私を襲う。
「なん、ぶふっ」
大量のお湯に飲まれる。
新しくどこかで温泉沸いた? 大量にお湯が流れ込むなんて、そのぐらいしか理由ないよね?
「うえ……」
後で様子見に行かないと。
そう思って倒れてた身体を起こそうとした時、妙な違和感を感じた。
俯せになる形でお風呂に突っ伏してるから、お風呂の底の石の感触があるはずなのになにかが違う。
確かにかたいけど、弾力あるというか滑りというかハリがあるというか。
「え?」
大量の雨のように落ちてくる温泉が静まり、視界が明瞭になったところで、やっと見えたものに息を飲んだ。
「ぐっ……」
「う、うそ」
温泉に半分身体を沈めて、私が俯せになって下にしていたのはエフィだった。
裸のエフィが目の前にいる。
「ん……ああイリ、ニ?!」
「ひえ」
視界はまだ上半身しか見えないけど、触れてる感覚がきつい。
早く離れないとと思って、エフィの胸に手を置いて起き上がろうとした。
「待て」
するりと腰に腕が回り大きな手が直接私の肌に触れる。生々しい感触に身をよじった。
「やっ、待っ」
「っ」
起き上がろうにも腰に回された腕が離さない。
少し上半身をあげても胸を含めて全身密着してることには変わらない。これはさすがにだめでしょ。エフィだって唸っているんだから、今すぐこの状態を脱しないといけないやつでしょ。
「エフィ、離れて」
「ラッキースケベだな?」
それを言及するのは後にしてよ。今は離れることが先でしょ。
「先に離れて!」
「駄目だ。淋しかったんだろ?」
「そう、だけど」
無理だよ。まだ婚約段階なんだから、裸なんて結婚してからでしょ。前にもラッキースケベで裸見ちゃってるけど、それはいっそなかったことにして、婚前の男女が裸を見るのはよろしくないでいくべきだよ。
「三日も耐えられない?」
「うっ……」
図星だ。
バレバレなのは分かっていたけど、言葉にされると恥ずかしい。
「俺も一週間なんて耐えられなかったから、三日で終わらせてきた」
エフィが言うに、手続きをどうにか早めて辺境伯の爵位を得て速攻帰ってきたらしい。
「なんで服」
「ああ」
戻って私がいないから先に軽装に着替えたらしい。そのまま城の中を探していたら温泉のお湯を引いてる水路にスライムが密集していた。
いつぞやのスライムだ、間違いない。
エフィは温泉が詰まるからとどうにかしようと手を出したらタイミング悪く温泉が爆発、勢いでへばりついたスライムに服を溶かされながら女湯に到着したと。
「うわあ」
ラッキースケベ勘弁してよ。
早く距離とろう。
離れようと胸に置いた手に力をいれたら、お湯で滑ってよりエフィとより密着する羽目になった。
エフィの顔が赤く染まる。たぶん私も同じだ。顔を赤くしたままなのに、無言の後エフィがふわりと笑った。
「イリニが同じ気持ちで嬉しい」
そういう台詞は裸で密着してる時にする話じゃない。エフィの言うところの適切な場所と適切なタイミングを選ぶべきだ。
「次は一緒に行く」
「え?」
「今度は結婚の承認と登録で行くでしょ」
「ああ」
「一緒に行く」
エフィの喉がこくりと鳴った。
「エフィの側にいたいから一緒に行く。離れたくないの」
連れてってとお願いすれば、エフィは顔を赤くしたまま頷いた。
脇腹に触れているエフィの掌が熱い。
「なら、君が苦しくならないよう俺が守る」
「ん……」
よし、話が纏まった感があるから、いい加減離してもらおうとエフィにお願いすることにした。
「もうそろそろ離れても」
「イリニ」
少し色合いの違う声音だった。
エフィの胸に寄せていた顔を上げて目を合わせる。少し熱を帯びて揺らいでいた。
「口付けても?」
「え」
ここで? この格好で? この状態で?
三日ぶりのエフィに会えてたまらなく嬉しいけど、なぜだろう、今キスしたら取り返しがつかない気がした。
エフィが私を抱えたまま半分起き上がる。
「え、あ、」
あれ、待ってこの感触。触れちゃいけないやつじゃ?
「イリニ」
「待って」
エフィ順番あるって言ったじゃん。結婚してからじゃないの。もうやり直し含めて何度かキスしてるけど、いやそれ以前にお風呂で口付けするのも、あ、違うそこじゃなくて。
と、脱衣室の方から足音が響いた。
「おーい、すげー音したけ」
「入ってくるな!」
アステリの声にエフィが叫ぶ。
よかった。足音は止んで、扉の向こうに人影が見えるだけ。二人いる。アステリとカロかな?
エフィの腕が緩んだから、すぐさま距離をとって首から下を温泉の中にしっかりつかる。今日ばかりは濁り湯で心底よかったと思った日はない。
「あー、なんだラッキースケベかよ」
「そうだ」
「おー、いちゃついてるとこ悪かったな」
「いちゃついてない!」
「気にしないで~ごゆっくり~」
扉越しでも分かる生あたたかい空気と共に訪れてきた気配は消えた。
ぴちょんと滴が落ちる音を響かせ沈黙のち、エフィが顔を手で覆いながら長い息を吐いた。
「……危なかった」
なににかは聞かないでおこ。
「エフィ、その」
「ああ、大丈夫だ」
ひとまずあがろうと苦しそうに言う。なのに嬉しそうに顔を上げて蕩ける瞳でこちらを見やる。
「精霊王に感謝しないと」
「なんで?」
「ラッキースケベがあってよかった」
「な」
「イリニの気持ちがすぐに分かる」
「っ、もう!」
やっぱりラッキースケベは恥ずかしい。
「お風呂いこっと」
結局、私はイディッソスコ山の城にいる。
今では魔王城と呼ばれ、勘違いした自称勇者たちがやってきては私に倒され去っていくを繰り返していた。
「俺つえええモードも魔王モードもそれなりに強いままだしなあ」
山の麓の湖の先まで真っ二つはないけど、現在自称勇者で私より強い人間はいない。
新聞記事には俺つえええモードで出る魔法の柱が見える度に魔王城攻略についてというよく分からない記事があがる。そしてその隣に女性のファッションでパンツブームがきたとか。色々ツッコみたくなったけど放っておいた。
「ふわあ、いいわあ」
お風呂に癒される。
告白の返事をしてからエフィの仕事は早かった。
イディッソスコ山の城を居住地にしてくれ、今は爵位を賜る為にシコフォーナクセー王城に一時的に滞在している。一週間程かかると言っていたかな。
「今日で三日目……」
終わり次第こちらに戻るとも。
でもエフィがいない城にいるのはやっぱり淋しい。
魔物も変わらずいるし、アステリやカロまで前と同じで城にいる。マリッサが堂々と私付きの侍女として公にいてくれてるけど、エフィがいないと意味がない。
「まさか本当に王位継承権を返上するなんて」
この城に戻ってから暫く婚約期間が長く続くのかなと思ってたけど、一ヶ月も経たない内にエフィは王城に向かった。
私もと言ったけど、断固としてついてくることを許されず城に待機だ。社交も外交もエフィがいるならと覚悟を決めたのに、エフィはそこから私を離したがる。
結婚のお許しもらう時は何が何でも連れてってもらわないと。
『これからは辺境伯になる』
告白の返事からこの城に戻って、あっさり告げられた。
元から考えていたことらしい。王位継承権を返上し王族を脱するなら、それ相応の爵位が与えられるけど、エフィはこの城で私と暮らしていくことを考えて辺境伯の話を提案したらしい。
国境の管理とイディッソスコ山の魔物たちの統制、ラレスニサト湖あたりまで管轄にして国に貢献する形をエフィは選んだ。民の近くで働いて国の為に尽力する形は損なわず、同時に私と一緒にいることまで叶えた。
「敵わないよなあ」
そういうことをあっさり決めてあっさりやるんだから。全部叶えるを実現してくる。
ああやっぱりエフィに会いたい。エフィのことを考えれば考える程、会いたい気持ちが募る。三日だけしか経ってないのに、私の心はすっかり淋しさを我慢しなくなってしまった。
「ん?」
露天風呂の湯が小刻みに揺れる。なんだろうと思ったら、男性用の露天風呂との間にある壁が壊れた。その先から大量のお湯が私を襲う。
「なん、ぶふっ」
大量のお湯に飲まれる。
新しくどこかで温泉沸いた? 大量にお湯が流れ込むなんて、そのぐらいしか理由ないよね?
「うえ……」
後で様子見に行かないと。
そう思って倒れてた身体を起こそうとした時、妙な違和感を感じた。
俯せになる形でお風呂に突っ伏してるから、お風呂の底の石の感触があるはずなのになにかが違う。
確かにかたいけど、弾力あるというか滑りというかハリがあるというか。
「え?」
大量の雨のように落ちてくる温泉が静まり、視界が明瞭になったところで、やっと見えたものに息を飲んだ。
「ぐっ……」
「う、うそ」
温泉に半分身体を沈めて、私が俯せになって下にしていたのはエフィだった。
裸のエフィが目の前にいる。
「ん……ああイリ、ニ?!」
「ひえ」
視界はまだ上半身しか見えないけど、触れてる感覚がきつい。
早く離れないとと思って、エフィの胸に手を置いて起き上がろうとした。
「待て」
するりと腰に腕が回り大きな手が直接私の肌に触れる。生々しい感触に身をよじった。
「やっ、待っ」
「っ」
起き上がろうにも腰に回された腕が離さない。
少し上半身をあげても胸を含めて全身密着してることには変わらない。これはさすがにだめでしょ。エフィだって唸っているんだから、今すぐこの状態を脱しないといけないやつでしょ。
「エフィ、離れて」
「ラッキースケベだな?」
それを言及するのは後にしてよ。今は離れることが先でしょ。
「先に離れて!」
「駄目だ。淋しかったんだろ?」
「そう、だけど」
無理だよ。まだ婚約段階なんだから、裸なんて結婚してからでしょ。前にもラッキースケベで裸見ちゃってるけど、それはいっそなかったことにして、婚前の男女が裸を見るのはよろしくないでいくべきだよ。
「三日も耐えられない?」
「うっ……」
図星だ。
バレバレなのは分かっていたけど、言葉にされると恥ずかしい。
「俺も一週間なんて耐えられなかったから、三日で終わらせてきた」
エフィが言うに、手続きをどうにか早めて辺境伯の爵位を得て速攻帰ってきたらしい。
「なんで服」
「ああ」
戻って私がいないから先に軽装に着替えたらしい。そのまま城の中を探していたら温泉のお湯を引いてる水路にスライムが密集していた。
いつぞやのスライムだ、間違いない。
エフィは温泉が詰まるからとどうにかしようと手を出したらタイミング悪く温泉が爆発、勢いでへばりついたスライムに服を溶かされながら女湯に到着したと。
「うわあ」
ラッキースケベ勘弁してよ。
早く距離とろう。
離れようと胸に置いた手に力をいれたら、お湯で滑ってよりエフィとより密着する羽目になった。
エフィの顔が赤く染まる。たぶん私も同じだ。顔を赤くしたままなのに、無言の後エフィがふわりと笑った。
「イリニが同じ気持ちで嬉しい」
そういう台詞は裸で密着してる時にする話じゃない。エフィの言うところの適切な場所と適切なタイミングを選ぶべきだ。
「次は一緒に行く」
「え?」
「今度は結婚の承認と登録で行くでしょ」
「ああ」
「一緒に行く」
エフィの喉がこくりと鳴った。
「エフィの側にいたいから一緒に行く。離れたくないの」
連れてってとお願いすれば、エフィは顔を赤くしたまま頷いた。
脇腹に触れているエフィの掌が熱い。
「なら、君が苦しくならないよう俺が守る」
「ん……」
よし、話が纏まった感があるから、いい加減離してもらおうとエフィにお願いすることにした。
「もうそろそろ離れても」
「イリニ」
少し色合いの違う声音だった。
エフィの胸に寄せていた顔を上げて目を合わせる。少し熱を帯びて揺らいでいた。
「口付けても?」
「え」
ここで? この格好で? この状態で?
三日ぶりのエフィに会えてたまらなく嬉しいけど、なぜだろう、今キスしたら取り返しがつかない気がした。
エフィが私を抱えたまま半分起き上がる。
「え、あ、」
あれ、待ってこの感触。触れちゃいけないやつじゃ?
「イリニ」
「待って」
エフィ順番あるって言ったじゃん。結婚してからじゃないの。もうやり直し含めて何度かキスしてるけど、いやそれ以前にお風呂で口付けするのも、あ、違うそこじゃなくて。
と、脱衣室の方から足音が響いた。
「おーい、すげー音したけ」
「入ってくるな!」
アステリの声にエフィが叫ぶ。
よかった。足音は止んで、扉の向こうに人影が見えるだけ。二人いる。アステリとカロかな?
エフィの腕が緩んだから、すぐさま距離をとって首から下を温泉の中にしっかりつかる。今日ばかりは濁り湯で心底よかったと思った日はない。
「あー、なんだラッキースケベかよ」
「そうだ」
「おー、いちゃついてるとこ悪かったな」
「いちゃついてない!」
「気にしないで~ごゆっくり~」
扉越しでも分かる生あたたかい空気と共に訪れてきた気配は消えた。
ぴちょんと滴が落ちる音を響かせ沈黙のち、エフィが顔を手で覆いながら長い息を吐いた。
「……危なかった」
なににかは聞かないでおこ。
「エフィ、その」
「ああ、大丈夫だ」
ひとまずあがろうと苦しそうに言う。なのに嬉しそうに顔を上げて蕩ける瞳でこちらを見やる。
「精霊王に感謝しないと」
「なんで?」
「ラッキースケベがあってよかった」
「な」
「イリニの気持ちがすぐに分かる」
「っ、もう!」
やっぱりラッキースケベは恥ずかしい。
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