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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
69話 自棄
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「…ご存知でしたか?」
「いいえ、今さっきなんとなくそうかなと」
「ふふ、貴方は本当に変わりましたね」
「そ、そうですかね……」
「ええ、強くなられた」
眉根を寄せて笑うクラーレはオルネッラを見やった。
彼女は変わらず、静かに眠りについている。
「私は貴方の母君を自分のものにしたかった。だから魂だけ奪い移し、独占しようとしたのです。貴方方へは死亡したと言えばいいと思って」
けど、この様子からその魔法は失敗したことがわかる。
こんな懺悔みたいな形で話すクラーレを見れば一目瞭然だ。
「結果から言えば魔法は失敗しました…というよりは、奥様に拒否されました。奥様は私のものになるぐらいならと死を選んだのです」
実際魔法を生身で耐えられる事が出来るか疑問ではあったけど、この世界ではそれは可能で、母は出来る人間だったようだ。
魔法の抵抗力強めなのは母譲りなのかな?
ほぼ死に体の時に魔法かけられて拒否とか割とチートなスキルだと思うけど。
「奥様は当然そのまま亡くなりました。問題はここからです。拒否された魂転移の魔法が暴走したのですよ……私にはそれを止める事が出来なかった、というよりは止める気がありませんでした。奥様から拒否されたことに動揺し動けなかったのです」
「……」
「その魔法がどうなったか、今のお嬢様にはわかるでしょう? ……術者の私に跳ね返る事がなく、オルネッラお嬢様が犠牲になりました」
その魔法が魂を移転する対象をオルネッラと判断したかららしい。
けど1度失敗している為か、暴走したままオルネッラの魂だけを抜き取り、そのまま消えたという。
慌てて追跡してみてもオルネッラの魂はどこにもなかった。
仮にこの世界のどこかの無機物に移動したとしても、10年後の今は時が経ちすぎている。
無機物への移動はあくまで仮、出来るだけ早い段階で生き物に移さないと魂はそのまま消滅するだろうと複製本に記してあったはず。
つまりオルネッラは亡くなっていると言う事だ。
身体だけ生かしてるだけ。
「私の罪は本の複製程度ではおさまりません。2人もこの手に掛けているのですから」
「オルネッラは目覚めないってことですか?」
「ええ、抜け殻ですよ。中身のない生きている身体だけがここに」
オルネッラは目覚めない。
魂がどうとか概念の話は追究しないとして、目標と掲げていた彼女の目覚めは叶わないという事?
何か術はないのか。
これではあまりにもオリアーナが……。
「私も目覚めの方法は考え調べ尽しました。王都専属メディコへ内容を伏せた上で相談もしましたが、現在の治癒魔法体制では魂を戻し完全な治癒を行う魔法はありません。最低限こちらに伺いつつも、10年の間に薬から新しい魔法まで考慮の上で、どうにか出来ないものかと私も試行錯誤しましたが、残念ながら」
「……そうですか」
「最初に申し上げはしましたが、お2人の事故に私が関わっているかということですが」
「はい」
「事故に関しては存じ上げません。私の罪はお2人の治療の際に犯したものだけです」
エステルとトットが不審に思っていたのは勘違いなのだろうか。
そもそも複製本をオルネッラが求めていた時点で複製した理由がもう分からない。
オルネッラがその体の中にいないから。
やっぱりどうにか魂とやらを探し出して元に戻るのがいいと思うのだけど。
「何か、ないでしょうか。他に術は」
「私も方々手を尽くしましたが、今現在で出来る事は全てやりましたし……」
「それにしたって」
「チアキ」
ここにきてオリアーナが口を開く。
静かに、平坦に言葉が紡がれた。
「もう、大丈夫です」
「けど」
「いいえ、これ以上は良いのです。クラーレを帰してやって下さい」
「……」
諦めたのか、受け入れたのかがわからない。
前者は駄目だ。
やれることがあるはずなのに。
2人が事故に遭ってしまったのは仕方ないにしたって…ん?
「あれ」
「いかがしました?」
「あの、母と姉以外で治療した人はいないんですか?」
馬車に乗っていたと言う事は当然、御者の人がいるはずだ。
最少人数でも1人はかならずいるはずなのに、クラーレの会話には2人しか出てこない。
「……御者は転落の際に行方不明になっています。周辺に賊が出たという情報もありましたが、それも確かではありません」
「ふむ」
「オリアーナお嬢様、私は全て話したつもりです」
「そうですか」
「なので、申し訳ありません」
その一言がまさに不審。
声音が変わった。
思考を一旦止めて彼を見れば、憔悴しきっていた。自棄になっているような気もした。
「私の罪、忘れて下さい」
「!」
その次に口開かれたらきつい。
思わず、足を蹴り上げた。
綺麗に垂直に伸びるとは思わなかったけど、足はクラーレを掠り彼は一歩後ろに引いた。
おかげで何も口にしていない。
「そおい」
「なっ」
振り上げた足の勢いのまま飛んで少し浮いた、そのまま足を勢いよくクラーレに落とした。
残念掠っただけか。
かかと落としを1度体現してみたかったのだけど。
「忘却魔法かけようとしましたね?」
「……ええ」
この期に及んでまだやらかそうというのか。
「いいえ、今さっきなんとなくそうかなと」
「ふふ、貴方は本当に変わりましたね」
「そ、そうですかね……」
「ええ、強くなられた」
眉根を寄せて笑うクラーレはオルネッラを見やった。
彼女は変わらず、静かに眠りについている。
「私は貴方の母君を自分のものにしたかった。だから魂だけ奪い移し、独占しようとしたのです。貴方方へは死亡したと言えばいいと思って」
けど、この様子からその魔法は失敗したことがわかる。
こんな懺悔みたいな形で話すクラーレを見れば一目瞭然だ。
「結果から言えば魔法は失敗しました…というよりは、奥様に拒否されました。奥様は私のものになるぐらいならと死を選んだのです」
実際魔法を生身で耐えられる事が出来るか疑問ではあったけど、この世界ではそれは可能で、母は出来る人間だったようだ。
魔法の抵抗力強めなのは母譲りなのかな?
ほぼ死に体の時に魔法かけられて拒否とか割とチートなスキルだと思うけど。
「奥様は当然そのまま亡くなりました。問題はここからです。拒否された魂転移の魔法が暴走したのですよ……私にはそれを止める事が出来なかった、というよりは止める気がありませんでした。奥様から拒否されたことに動揺し動けなかったのです」
「……」
「その魔法がどうなったか、今のお嬢様にはわかるでしょう? ……術者の私に跳ね返る事がなく、オルネッラお嬢様が犠牲になりました」
その魔法が魂を移転する対象をオルネッラと判断したかららしい。
けど1度失敗している為か、暴走したままオルネッラの魂だけを抜き取り、そのまま消えたという。
慌てて追跡してみてもオルネッラの魂はどこにもなかった。
仮にこの世界のどこかの無機物に移動したとしても、10年後の今は時が経ちすぎている。
無機物への移動はあくまで仮、出来るだけ早い段階で生き物に移さないと魂はそのまま消滅するだろうと複製本に記してあったはず。
つまりオルネッラは亡くなっていると言う事だ。
身体だけ生かしてるだけ。
「私の罪は本の複製程度ではおさまりません。2人もこの手に掛けているのですから」
「オルネッラは目覚めないってことですか?」
「ええ、抜け殻ですよ。中身のない生きている身体だけがここに」
オルネッラは目覚めない。
魂がどうとか概念の話は追究しないとして、目標と掲げていた彼女の目覚めは叶わないという事?
何か術はないのか。
これではあまりにもオリアーナが……。
「私も目覚めの方法は考え調べ尽しました。王都専属メディコへ内容を伏せた上で相談もしましたが、現在の治癒魔法体制では魂を戻し完全な治癒を行う魔法はありません。最低限こちらに伺いつつも、10年の間に薬から新しい魔法まで考慮の上で、どうにか出来ないものかと私も試行錯誤しましたが、残念ながら」
「……そうですか」
「最初に申し上げはしましたが、お2人の事故に私が関わっているかということですが」
「はい」
「事故に関しては存じ上げません。私の罪はお2人の治療の際に犯したものだけです」
エステルとトットが不審に思っていたのは勘違いなのだろうか。
そもそも複製本をオルネッラが求めていた時点で複製した理由がもう分からない。
オルネッラがその体の中にいないから。
やっぱりどうにか魂とやらを探し出して元に戻るのがいいと思うのだけど。
「何か、ないでしょうか。他に術は」
「私も方々手を尽くしましたが、今現在で出来る事は全てやりましたし……」
「それにしたって」
「チアキ」
ここにきてオリアーナが口を開く。
静かに、平坦に言葉が紡がれた。
「もう、大丈夫です」
「けど」
「いいえ、これ以上は良いのです。クラーレを帰してやって下さい」
「……」
諦めたのか、受け入れたのかがわからない。
前者は駄目だ。
やれることがあるはずなのに。
2人が事故に遭ってしまったのは仕方ないにしたって…ん?
「あれ」
「いかがしました?」
「あの、母と姉以外で治療した人はいないんですか?」
馬車に乗っていたと言う事は当然、御者の人がいるはずだ。
最少人数でも1人はかならずいるはずなのに、クラーレの会話には2人しか出てこない。
「……御者は転落の際に行方不明になっています。周辺に賊が出たという情報もありましたが、それも確かではありません」
「ふむ」
「オリアーナお嬢様、私は全て話したつもりです」
「そうですか」
「なので、申し訳ありません」
その一言がまさに不審。
声音が変わった。
思考を一旦止めて彼を見れば、憔悴しきっていた。自棄になっているような気もした。
「私の罪、忘れて下さい」
「!」
その次に口開かれたらきつい。
思わず、足を蹴り上げた。
綺麗に垂直に伸びるとは思わなかったけど、足はクラーレを掠り彼は一歩後ろに引いた。
おかげで何も口にしていない。
「そおい」
「なっ」
振り上げた足の勢いのまま飛んで少し浮いた、そのまま足を勢いよくクラーレに落とした。
残念掠っただけか。
かかと落としを1度体現してみたかったのだけど。
「忘却魔法かけようとしましたね?」
「……ええ」
この期に及んでまだやらかそうというのか。
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