クールキャラなんて演じられない!

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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

118話 おばあちゃんのデレはデレなのだろうけど、違うんです、神よ

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予想通りだった。
諸説の話で誤魔化して(というか可能性の話として念頭に置いてほしいから話したのだけど)、ありのままの事実を報告しても、この程度だとは思ってました。だって動かすのはおばあちゃんの気持ちだもの、勉強した成果を発表するだけでは駄目だった。
これが本末転倒と言うやつか。勉強楽しすぎた。次は心動かすプレゼン設定を考えて構成しよう。

「一応、私達が呪いで早く死ぬ事はないし、周りに影響しないので、こうしてお話ししてても死ぬことはないですよ」
「ええ」
「諸説と個人の私書にもよりますが、一族が王都転覆を目論んで反乱を起こす予定もありません。そもそも一族は絶滅したようなものですし」
「ええ」

最初と比べればまだ柔和に返事をもらってる方だけど、断固として認めない感は分かる。さすが、ディエゴも大概頑固だけど、おばあちゃんも結構頑固だよね。

「分かりました。今日はここまでにします」
「ここまで?」
「また伺います」
「え?」

これでもかと目を見開いて驚くおばあちゃん。何を驚いているのか。2度目行きますがあるなら、次の研究結果報告も当然あるだろうに。

「また今度研究結果纏めたら伺いますね」
「性懲りもなくまだここに来ると言うのですか」
「時間はかかるかもしれませんが頑張ります。今度は地質学と文化学からアプローチしますね」
「……」

なにを言ってるんだという顔をしている。
その後ろで控えていたご両親は笑いを堪えていた。余程おばあちゃんの反応がおもしろかったのか。
何も反応がないのを見て、仕方ないと片付けし始めたところに、訪問者を告げる音がした。

「大奥様、ネウトラーレ候爵夫人が」
「約束はしてません。帰らせなさい」
「あら先生、それはあまりにも非情ですわ」

夫人がひょっこり顔を出して、そのまま強引に入ってきた。当然ディエゴのおばあちゃんは眉をしかめる。爵位のある世界でこの振る舞いはよくないだろう。

「先生?」
「ああ、御祖母様はネウトラーレ候爵夫人の家庭教師をしていた」
「なにそれ素敵…!」

先生呼び!
候爵家が候爵家に家庭教師って割とない話だと思うけど、いやいいわ、先生呼び!その関係は今も続く!厳しくも慕われる先生と懐いてる生徒……よし妄想しよう。
社交界の重鎮と言われるネウトラーレ侯爵一族の過去の話、モノローグはこのあたりから始めよう。

「貴方には候爵夫人として相応しい身の振る舞いを教えたはずです」
「候爵家たるもの、周りの手本となるべく多くに貢献するよう教えてくださったのも先生ですね」
「何を」
「私はこの子達に貢献する為に伺いましたので」

おお言い返した。というか揚げ足とった。
その教えの時を妄想するに、やはりこのおばあちゃんはツンデレなだけで、本来はとても優しい心の持ち主なんじゃない?ディエゴがそうだから、たぶんそうだよね。その方がおいしいので、そちら採用します。

「先生、これを」

ネウトラーレ候爵夫人の従者さんがすすっと額に入った絵と思われるものを見せた。
それを見て眉を寄せるおばあちゃん。見たいけど、二人の世界だから入りづらい。

「父の絵ですか」
「はい、私が成人した祝いで頂いたものです」
「貴方は父の絵が好きでしたから」
「新しく描くと仰ってましたが、私はこれがどうしても欲しくてねだったのですよ」
「父は貴方に甘かった」

あああなにそれ、詳しく話してくれていいですよ。絵の内容はどうでもいいです二人の過去についてもっと詳しくお願いします。

「チアキ」
「ひえ」

緩んでた。
ディエゴが呆れたようにこちらを見下ろしている。自分の身内で妄想されるのはやっぱり微妙な心地なのかな、止められないけど。

「先生と生徒ってそれだけでパワーワードなんだよ」
「ぱわーわーど」
「力のある言葉、希望と勇気を与えてくれるよ!」
「そんなことだろうとは思っていた」
「許して、無理」
「止められないのはわかっているさ。御祖母様相手にここまでいられるのはチアキらしいと思っている」
「褒められてる?」
「……なんとでも」

そうこうしてる間に夫人とおばあちゃんが何かを話していた。
ああ耳を澄ましてきかなきゃいけなかったとこだ。逃した……なんてことをしてしまった。

「聞き逃した!」
「チアキ、こういうときは本来席を外すのがよい」
「そんなもったいないことできないでしょ」
「覗き見も盗み聞きもよくない」
「そこに癒しがあるんだよ?」
「君は俺に癒されないのか?」

癒されてるよ。
エステルトット、オリアーナにエドアルド、勿論ディエゴにも充分癒されてる。それはまた別の問題で目の前に癒しが別にあれば飛びつくに決まってる、それだけ。
それをいえば、やっぱりディエゴは呆れていた。

「俺だけでは役不足か……」
「え?」
「俺だけが君の癒しになればと」
「充分癒されてるよ、ツンデレや」
「チアキの言う癒しと俺の言いたい癒しは大きく違う」

少し不機嫌になった。
ツンデレがツンしてる、非常にいいです。
けど、こうやって話してる間に先生と生徒の話が一段落していた。がっかりだよ、聞き逃してるじゃん。
おばあちゃんは相変わらずのツン顔で私に視線をよこした。

「……わかりました。ならば貴方の言うプレゼンとやらをしに来ることを認めます」
「ありがとうございます」
「これは貴方を認めたということではありません。ソラーレ候爵家の結婚相手として相応しいか、これから貴方の振る舞いで認めるかを判断します」

結婚はどうでもいいです、偏見さえ変わればと言おうとしたら、ディエゴが割って入った。

「婚約者候補として彼女を認めてくださるということですか?」
「はい?」

私を見ずにおばあちゃんを真っ直ぐ見据えている。その瞳には僅かに期待を滲ませた光を宿していて、おいこら止めろ待てとその口塞ごうと手を伸ばし、かけた。
そう塞げなかった。おばあちゃんが先に応えてしまったからだ。

「よろしいでしょう。期間は学業に身を投じてる間とします。それまでに見極めましょう」
「ええ、問題ありません御祖母様。御祖母様もきっと彼女を気に入ります」
「おおい」

流れ、流れが違う。
私の腰に手を伸ばし引き寄せておばあちゃんに向き直る。違う、このご挨拶感、違うんだって。

「よかったな、チアキ」
「何がよいのか」

すごく機嫌のいいディエゴがデレを見せて笑っている。そうじゃないぞ。いや確かにおばあちゃんの応え方はツンデレと見ればだいぶ美味しいけど。
なんてこと。神よ、こういう形でデレがくると?
私の理想のおばあちゃんデレは、私の考え改めましょう、祖一族は悪ではないのですね、という流れでした。デレはデレなのだろうけど、違うんです、神よ。

「大丈夫だ、チアキ」
「何が?」
「この期間、俺を好きになってくれればいい」
「何も大丈夫じゃないぞ」
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