クールキャラなんて演じられない!

文字の大きさ
133 / 164
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

133話 胸の鼓動が鳴り止まないのを確かめている的な

しおりを挟む
「オリアーナ」
「はい、司令」
「君が私の部下に暴力を振るわれたのは事実だ。部隊を統べるものとして謝罪したい。すまなかった」
「いいえ、司令が悪いわけではないですよ。あの騎士さんにとって、私が悪なのは彼の中で真実になってますし」

 自己暗示にしては強すぎるレベルの思い込みだけどね。
 司令はトットと共に、連れてきた騎馬部隊と警備隊に再度配置の指示をし、司令と共に階下へ降りて行った。エステルがトットと残り、相変わらずの顔をして溜息を一つ。

「チアキったら」
「えへへ、我慢出来なくて」
「早くに解決できたのは有り難かったが、さすがに相手は騎士だ。一人で向かうのはどうかと思うぞ」
「トットまでそう言うってことは、今日は結構いけないレベルでしたか」
「自覚あるでしょう」

 覚悟もある。自分のやらかしたことに責任をとる程度には。なんて格好よく言ってみたと言っても、トットもエステルもいい顔はしないだろうな。そしたら最後まできちんとやりきるとしようか。格好はつけないまでも。 

「責任とるよ」
「ええ」
「任せた」
「チアキ?」

 エステルとトットは分かっていた。だから、ディエゴをすり抜け、エステルトットも通り過ぎて、階下へ向かった。
 するとディエゴが焦ってこちらに駆けよってくるので、手で制して彼を止めた。行き場のない手をおろして、困ったようにこちらを見てくる。

「チアキ!」
「ディエゴ、大丈夫。一人で行くよ」
「しかし」
「やることあるから」
「何を」
「胸を張って会場に戻るの」

 ディエゴが肩を鳴らした。動きが止まったこの一瞬で私は踵を返して、大きく階下へ下る。

「ガラッシア公爵令嬢」
「はい」
「何があったか説明して頂けますか」
「はい」

 ネウトラーレ侯爵夫人が手助けして声をかけてくれた。話すきっかけをくれるなんて有り難い気づかいだ。
 私はありのまま起きた事を話した。今日の噂の大元が連れていかれた二人である事、その二人に襲われた事、争いの末、うっかり剣が落ちてきた事。さすがに真剣白刃取りのことは伏せたけど。

「それは、本当に真実なのですか?」

 当然そういった声が上がるのは分かっていた。なにせ疑われているのは私という魔法使いの祖の血を継ぐ者達なのだから。
 しかしここでもまた助け船がやってくる。司令だった。

「私からも話そう」

 今現在の犯人二人の状況と証言。本来ならそういった話は気軽にしていいものではないけど、場を鎮める為に敢えて話していた。
 司令の言葉は理知的で説得力がある。大方納得した様子を見せた。

「ガラッシア公爵令嬢も先程言っていた通り、他者を謀り貶め、社交界を牛耳るつもりはないのだろう」
「ええ、司令。仰る通りです」

 周りを見やる。好奇の視線にはなれたものだ。

「私は自身が潔白であると主張させて頂きます。以前より私はガラッシア家の事業を立て直すばかりでなく、得ている知識を外へ提供し続けていますし、それをやめることは致しません」
「……」
「行動と結果で示しましょう。どうぞこれからも私達ガラッシア家の成すことをご覧になってください」

 こんなものかな。当然その中には納得いかない者もいるだろうが、それがまた向かって来たら受けて立つだけ。簡単な事だ。
 まあスーパーマンな私に勝てるものならだけど。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「そうして無事解決に至るのでした~」
「呑気に言ってる場合ではないぞ」
「ディエゴと離れた事は申し訳ないと思ってるよ」
「まったく」

 そろそろ終わりを見せる本日、私はディエゴとバルコニー族をしている。やっと落ち着いてワインを飲めている至福タイムだ。階下の人々はエステルトットという主役に集まっていて、もう無駄に話しかけられると言う事もない。まったりする時間があってよかった。

「俺は君を追いかけてばかりだ」
「そう?」

 ワイングラスをバルコニーの縁に置いて、こちらに身体を向ける。目元が少し赤かった。

「思い出したんだ」
「何を?」
「俺が君を好きになった時のこと」
「ん?」

 風が僅かに吹いて心地がいい。私もディエゴと同じようにグラスを縁に置いて向き直った。

「君が堂々と階下へ戻っていく姿を見て、好きになったんだ」

 叔父の時だ。
 そういえば、あの時と同じでディエゴは動きを止めていた。そして私はスムーズに階下へ降りた。
 ディエゴの心が動いた時ねえ。
 いいなあ、それ最高に癒しじゃない。本人にしか分からないものだから、私が見ようにもいや聴こうにも出来ない貴重な瞬間だよ。反応じゃない、感覚の話。考えるだけで尊い。

「あー、恋に落ちる音が聴きたい」
「え?」

 その瞬間は当人にしか分からないなら、想像力働かせてうはうはするか。うん、すごくおいしい。

「チアキ」
「な、に」

 後頭部と背中に腕を回され、そのまま引き寄せられた。
 私の顔を横向きにして、自身の胸に押し付ける。

「聞こえるか?」
「うん」

 随分と早鐘を打っているのがわかった。

「胸の鼓動が鳴り止まないのを確かめている的な」
「君が、音を聴きたいと言うから」
「確かによく聞こえる」

 少し不機嫌に言う様はまさにツンデレのお手本のようですね。今は彼の表情を見ることが出来ないのが残念な限り。きっといいツン顔してるに違いない。

「こういうことじゃないのか?」
「そうだね、そういうことだよ」

 しかしまあ、そのフラグは本来逆に回収すべきだったんだよ、ディエゴ。こんな形で回収するのでよかったのでしょうか、神よ。

「出来れば女の子の柔らかい胸がよかった」
「チアキ!」
「怒らないでよ」
「雰囲気を察してくれ!」

 充分察した結果、抵抗なく抱きしめられたんだけど、それは黙っておくことにした。
 今日一日、一番気が気じゃなくて大変だったのはディエゴのはずだ。私は私自身の行動を止める事はしないから、その後の彼の疲労を鑑み、私を追いかけて付き添ってくれた感謝の気持ちの表し方をこうして示しているというのに。

「最近触れるの大丈夫になったんじゃない?」
「ち、ちが」
「自分から抱きしめる分には平気というのは何度も見た。もうそこは飽きた表現だよ」
「ぐ……」

 唸ったディエゴは一つ息を吐いて、それでも動揺したまま言葉を続けた。

「き、君は」
「ん?」
「こうでもしないと、またなにかやらかすだろう」
「……ふふ」
「……」
「ツンデレ、おいしい!」

 ぐぐうとディエゴが唸った。
 相変わらずツンデレは健在。さすがわかってるね、天然ものは。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

乙女ゲーのヒロインに転生しましたが、悪役令嬢によって攻略済みの世界でした~スローライフ希望なのでそれでオッケーです!~

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
ゲーマーである主人公・花藤瀬利(かとうせり)は、大学からの帰り道に事故に合い、気が付くと、瀬利が発売当日から毎日遊んできた、『黎明のアルケミスト』という女性向けゲームのヒロインに生まれ変わっていた。 わくわくしながらゲームの世界に浸る瀬利だったが、攻略対象のキャラクター達に違和感を抱く。  メイン後略の彼も、ユーザー一番人気の彼も、果ては隠し攻略キャラの彼さえも、全ての攻略キャラがライバルヒロインキャラにベタ惚れだったのである。  瀬利より一足先にライバルヒロインへと転生していた少女・比菱あかりによれば、トゥルーエンドに存在する自らの死を回避するべく行動していたら、攻略キャラすべてがあかりに好意を抱くように変わってしまっていたのだという。  しかし、瀬利が好きなのは本編の乙女ゲームシナリオではなく、おまけのミニゲームのほう。 攻略対象そっちのけでゲームの世界に浸りスローライフの日々を送る……と思っていたのだが、サブキャラでもなくモブキャラですらない、本編に登場していない幼馴染と恋愛フラグが……? 【この作品は完結済みであるPixiv版を加筆・改稿して掲載しています。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『pixiv』にも掲載しています。】

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした。今度こそ幸せになります!!〜

ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。 イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。 8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。 ※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。

【完結】灰かぶりの花嫁は、塔の中

白雨 音
恋愛
父親の再婚により、家族から小間使いとして扱われてきた、伯爵令嬢のコレット。 思いがけず結婚が決まるが、義姉クリスティナと偽る様に言われる。 愛を求めるコレットは、結婚に望みを託し、クリスティナとして夫となるアラード卿の館へ 向かうのだが、その先で、この結婚が偽りと知らされる。 アラード卿は、彼女を妻とは見ておらず、曰く付きの塔に閉じ込め、放置した。 そんな彼女を、唯一気遣ってくれたのは、自分よりも年上の義理の息子ランメルトだった___ 異世界恋愛 《完結しました》

処理中です...