身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛 ~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~

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48話 正ヒロインとの因縁に決着

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「めっちゃ吹雪」
「……」

 ルーラと共に転移した場所はギリギリ周囲が見える吹雪く雪原だった。

「セモツ国じゃないんだ?」
「……うそ、なんで」

 どうやら予想外の場所に来てしまったらしい。ルーラとしては、陛下や殿下をセモツ国へ連行する為の魔法陣だと思っていたのかな?
 どこに連れて行かれるにしろ、魔法大国ネカルタスの人間であるヴェルディスやテュラがこの転移を止めなかった。つまり私の力だけで解決できる内容なのだろう。もしくはセモツへの転移をここに変えたのかもしれない。
 ようは「お前の解決すべき問題を今ここで解決しろ」ということだ。

「周り見えてきたけど……まさかここ魔物の島?」

 文献でしか確認していないし、ヴェルディスたちからも言葉で軽くしか教えてもらってない。けど、吹雪の先に見えるもう一つの連なる島と雪が多い地形、空に僅かに輝く魔法の幕もふまえるとやっぱり魔物の島が有力だろう。

「伝説の島、ね」

 ドゥエツ王国の北西の海上に小さい双子島がある。
 魔法大国ネカルタス管轄、人が住まず伝説の魔物ドラゴンがいると噂の島だ。ヴェルディスが結界をはっていて通常は誰も入れず、許可を得た日に選ばれた人間しか足を踏み入れることができない。

「よく転移できたものね」

 やっぱりヴェルディスが敢えて通したわね。そうなら前振りがほしい。

「おっと?」

 足元が揺れ、少しよろけたところ地面が割れた。
 私たちが着地したところは雪原ではなく氷の上だったようで、バラバラに割れて足元が何かはっきり現れる。

「っ!」

 私一人ならこの足場の悪さでも身体強化で飛べるけど、ルーラは逃げる術がないようだった。飛ぶ選択肢を捨てルーラの腕をとる。目を丸くするルーラを見たのが最後、私たちは冷たい水の中に落ちた。

「なんのっ!」

 水の中がぼがぼ言いながらルーラを抱えて水を蹴った。強化した身体で水の中を脱出し、雪原に再び立つ。私は身体強化でこの雪原でも耐えられるけどルーラは難しい。震える身体の色と温度が変わる。掴んだ腕から魔力調整をしてみるもあまり効果はない。早く戻らないとルーラは手遅れになる。

「あの魔法陣持ってる?」
「……え?」
「あの紙」

 震えた手で出した魔法陣は消えていなかった。一回きりではなく何度か使えるタイプだ。

「なにする気?」
「まだ使える」

 魔法陣を読み取る。魔力調整の応用版ってとこね。調整力で中身を把握する。あとは私の知識と掛け合わせてもう一度転移だ。なんて、私の閃きすごすぎじゃない?

「使えるって……」
「転移する場所の指定を変えればいい」

 魔法陣に刻まれた魔物の島の表記を変える。
 うーん、やったことないのをやるって結構刺激的ね。なかなか難易度高い。
 ヴォルムが私の魔力をもっていった時に魔力をどう流すかは知ることができた。それと普段の魔力調整を掛け合わせ応用して魔法陣自体を変える。うん、ハード!

「……やめてよ」
「残念、無理な話ね。ひとまずルーラ嬢、貴方だけでも先に戻すわ」

 複雑だけど、まあどうにかなるでしょ。たぶん発動と同時にヴェルディスが感知してよしなに計らってくれるはず。

「やめて」
「いや私の魔力調整で今どうにかなってるけど、結構消耗激しいから先に戻ってもらうのが一番なのよ」

 で、その後誰がしかに迎えにきてもらって私も帰るのが一番いい流れだ。

「これだから嫌なのよ」
「オーケー、いけるね?」

 人の話聞かないところも変わらないわねと嫌な顔をされた。

「十年前もそうだった……あなたってそう」
「?」

 心底憎々しげに囁く。

「あったかいのよ」

 私が魔法陣の書き換えをしてる間、ルーラはぽつぽつ話し始めた。
 シャーリーの件で私と再会したルーラは久しぶりに見た私が全然変わらず明るく破天荒で羨ましかったと言う。
 キルカス王国の件も認めてくれた。スパイとしての任務で、海賊がネカルタス王国王女を襲い魔法薬をかけ動きが鈍くなったところを攫い、さらには魔法陣で囲った建築物の中に監禁。監禁の主犯である辺境伯とセモツ国との間を取り持ったのは全てルーラだった。

「あたしを一度殴っただけで終わりなんだもの。あなたの好きな人を害しても許されたわ。いっそ断罪されて個人的に処刑してくれればよかったのに」
「許すよ」
「なんで? あなたの母親を殺してあの護衛だって殺そうとしたわ」
「過去は変わらないし変えられない」

 よくある台詞だ。
 母は亡くなっている。

「終わったことをああだこうだ言うよりも、楽しい目の前と先のことに心振るわせてた方が面白い。そこかな?」
「……」

 ヴォルムが寄り添って一緒に向き合ってくれたから解消できている。こんなこと言えるのも腑に落ちたからだ。

「一人でも楽しいけど、ヴォルムが一緒だともっと楽しい。今はそう思うから進むわ」

 魔法陣の書き換えがうまくいったらしい。羊皮紙が光り始めた。

「あいつの場所はあたしの場所だったのに」
「あいつってヴォルム?」
「……ずっと側で面倒みてあげたのに、十年ぶりに会ったあなたの側にはあいつがいた」

 少し振り向くと立つ場所、たまに隣にきてくれる場所、背中を預ける場所すべて、今はヴォルムが占領している。

「あたしの方が……先に好きになったのに」

 やっと分かった。ルーラがヴォルムを自分付きの護衛にしようとしたのも、自分の物にならないならいらないというのも、全部私の側という場所がヴォルムによって侵害されたから。

「結局なにもうまくいかなかった……殺してよ。断罪なんてよくある話なんでしょ?」
「いやまあ断罪っていってもきちんと裁判するよ」
「そうじゃないわよ」
「頭飛ばされたかった?」
「その方が納得できたわ」

 あの頃の侍従はよく呆れて肩を落としていた。
 懐かしい。この子は十年前をきちんと抱えている。

「でも、ずっと御母様のこと考えててくれたんでしょ?」
「え?」
「御母様の話できる数少ない人だしね。というか色んな理由つけてるけど、目の前で死なれたら嫌じゃない」
「は?」
「助けられるなら助けるよ」

 魔法陣が完全に起動した。

「気持ち伝えてくれてありがと。でも私ヴォルムが好きなの。ごめんね」

 ぐしゃっと顔を歪ませるルーラに魔法陣の羊皮紙を持たせる。

「先に戻ってて。治癒も受けてね」
「あなたは」
「自力で戻るよ。身体強化、私一人ならかなりもつし」
「待って」
「言い始めたら聞かないって知ってるでしょ。小さい頃散々見てきたなら」

 息を詰まらせた。
 もうほとんど姿が見えない。
 やっぱり最初の魔法陣と違うものだから、効き目が遅いわね。
 うまくいくって信じてるけど。

「き、聞いたことがあるの。ここは……特殊な場所だから戻れないし助けも寄越せない」
「そうなの? 教えてくれてありがと」

 笑う私に驚くルーラ。待ってとさらに言うのを「ばいばーい」と手を振った。

「お嬢様、だめ」

 完全にルーラが消え、あたりは風の音が支配した。

「私のことお嬢様って呼んでくれるなんて可愛い子ね」
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