95 / 103
2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
95話 フィクタの素性偽造
しおりを挟む
「顔が同じ可能性に辿り着ければ早いものです」
本当は同じ顔の騎士が水路に異物を撒くのを現行犯で捕らえ未然に防ぎたかったらしい。結局それは起きてしまったけど、一際大きな事件になる前にこうして捕らえることが出来た。
「そもそも貴方が混入した異物は連合国家範囲内で手に入らない。完全な分析には至らなかったですが、分かった成分全てがフィクタ嬢、貴方の本当の故郷でないとないんですよ」
「フィクタの故郷?」
第一皇子が眉を顰める。
「マギア公爵家はウニバーシタスの東中心部を管理する由緒ある家柄ではないか」
第一皇子の言葉にサクが残念だと言わんばかりに肩を落とした。
「マギア公爵家にフィクタの年の娘はいません」
「え?」
第一皇子がフィクタを見る。顔をこわばらせたフィクタが瞳を揺らして動揺していた。
「マギア公爵夫妻はフィクタが現れてから社交界で姿を見ていませんね」
公爵家の屋敷にヴォックスが立ち入った時は夫妻含め使用人すらいなかったそうだ。フィクタが震える声で囁く。
「旅行にでも出ているのでは」
「いえ、いましたよ。公爵家の隠し部屋の中に」
ヴォックスたちの成果だった。旅行なのかと足取りも念のため探したが見つからず、使用人は理由なく解雇されていた。隠し部屋の中に夫妻だったものが声もなくいただけ。
「貴女がマギア公爵令嬢として第一皇子に会う前には亡くなっていたようです」
「しかし婚姻の署名は」
「体調不良を理由に式には不参加、署名は省略していました」
当時の書類まで用意していた。ユツィが破損を防ぐために額縁にいれ掲げた書類には確かにマギア公爵家のサインはない。
「マギア公爵家の髪色に変えたりしてたようですが、瞳の色はマギア侯爵家にはでない色。挙げ句異物を仕入れるために自国とやり取りしてたのが仇になりましたね。故郷がすぐに知れましたよ」
なにも言えなくなるフィクタを見て第一皇子が驚きに震えていた。サクに視線を寄越して問う。
「フィクタは誰だ?」
サクが東の国の名を出すが知るものが圧倒的に少なかった。東の大陸は広大で小国がいくらでもある。詳しく知る人間はそういない。
「身分や個人情報の詐称は国家連合内でも罪になります」
挙げ句、マギア公爵夫妻の殺害もフィクタだと言う。水路に撒いたものと同じものを混ぜて。
「マギア公爵夫妻を殺害した際に使用したティーポットとカップを当時の侍女が不審に思い、ウニバーシタスのとある機関に提供していました。その分析結果が残っていまして」
それは今回の酒の粗悪品、水路への異物混入にも繋がっていき、今ここにこういう形で成果を上げた。精度は低くても立証するには十分だったと。
「フィクタ嬢、貴方侍女としてマギア公爵夫妻の元にいたらしいですね。夫妻の元で働くときにはフィクタの名前を使っていたので足取りがとりやすかった」
「そんな証明できるはずが」
「できますよ。マギア公爵夫妻は子供がいなかったし跡を継ぐ者もいなかった。その為、夫妻管轄の仕事や多くの書類を移譲してました。その先が皇帝陛下です」
爵位を持つ人間が廃嫡となる時は概ね国へ返上する。マギア公爵夫妻も国へ返す目的で動いていたのだろう。
「皇帝陛下とマギア公爵夫妻の署名つき書類もあるので移譲に関する事は証明されています。夫妻は行き場の失う下働きの事をとても心配していたようで、継ぐ者がいなければとよく話していたようです」
では皇帝陛下はなぜフィクタの存在を許したのか。フィクタが継ぐことで侍女たちの進路は安泰となったと思われたらしい。第一皇子との結婚の際、フィクタはそう嘯いていた。
そもそもフィクタの存在をマギア公爵家の令嬢として認知させる為にやはり自国の異物を使っていたという。
そんな話、サクってば全然してくれなかったじゃない。確かに過去と今の酒の粗悪品といい、城に来る直前に水路に異物がと話もあった。サクのフィクタに対する偽物として見るニュアンスはここからきていたってこと? てっきり聖女であることを偽っているってことだけかと思ってた。分かりづらいわ。
「貴方がマギア公爵家に下働きでいた事を多くの証言や書類から証明できます」
「嘘よ、そいつら全員嘘ついて」
「貴方が東の国と取引していた事も証明出来ます」
貿易は国同士の利益がかかっているから記録に残っていることが多い。フィクタのことももれなく記載があったという。
裏での取引だろうによく足がついたものね。そう思っているとサクが私にだけ聞こえる声で囁く。
「過去の記録は中々手こずりましたが、十年前からセーフティ張っておいたので」
「準備してたの」
「んーまあどちらにしたって彼女の母国が厳しくチェックしてましたよ。東の国とのやり取りは大変でしたけど、最終的には情報もらえましたし」
フィクタの母国がなにもしなかったのは、仕入れていた異物が彼女の母国では違法としてみなされていなかったからだ。けどこの十年間のことを鑑みて、国として正式な決断を国家連合に伝えていた。
「フィクタ嬢の故郷である東の国からは、フィクタ嬢に関する処遇は国家連合が受け持つようにと決定通知がきました。書面もここに」
「な、にを」
ここで自身の出身を認めてしまうわけにはいかなかったフィクタは言葉に詰まった。認めても国家連合の裁判にかけられるし、ウニバーシタスの人間と言い続けても国家連合の裁判にかけられる。彼女に裁判を受けずに逃げる選択肢はなかった。
「では詐称に相応する罪の告知については最後にしよう」
本当は同じ顔の騎士が水路に異物を撒くのを現行犯で捕らえ未然に防ぎたかったらしい。結局それは起きてしまったけど、一際大きな事件になる前にこうして捕らえることが出来た。
「そもそも貴方が混入した異物は連合国家範囲内で手に入らない。完全な分析には至らなかったですが、分かった成分全てがフィクタ嬢、貴方の本当の故郷でないとないんですよ」
「フィクタの故郷?」
第一皇子が眉を顰める。
「マギア公爵家はウニバーシタスの東中心部を管理する由緒ある家柄ではないか」
第一皇子の言葉にサクが残念だと言わんばかりに肩を落とした。
「マギア公爵家にフィクタの年の娘はいません」
「え?」
第一皇子がフィクタを見る。顔をこわばらせたフィクタが瞳を揺らして動揺していた。
「マギア公爵夫妻はフィクタが現れてから社交界で姿を見ていませんね」
公爵家の屋敷にヴォックスが立ち入った時は夫妻含め使用人すらいなかったそうだ。フィクタが震える声で囁く。
「旅行にでも出ているのでは」
「いえ、いましたよ。公爵家の隠し部屋の中に」
ヴォックスたちの成果だった。旅行なのかと足取りも念のため探したが見つからず、使用人は理由なく解雇されていた。隠し部屋の中に夫妻だったものが声もなくいただけ。
「貴女がマギア公爵令嬢として第一皇子に会う前には亡くなっていたようです」
「しかし婚姻の署名は」
「体調不良を理由に式には不参加、署名は省略していました」
当時の書類まで用意していた。ユツィが破損を防ぐために額縁にいれ掲げた書類には確かにマギア公爵家のサインはない。
「マギア公爵家の髪色に変えたりしてたようですが、瞳の色はマギア侯爵家にはでない色。挙げ句異物を仕入れるために自国とやり取りしてたのが仇になりましたね。故郷がすぐに知れましたよ」
なにも言えなくなるフィクタを見て第一皇子が驚きに震えていた。サクに視線を寄越して問う。
「フィクタは誰だ?」
サクが東の国の名を出すが知るものが圧倒的に少なかった。東の大陸は広大で小国がいくらでもある。詳しく知る人間はそういない。
「身分や個人情報の詐称は国家連合内でも罪になります」
挙げ句、マギア公爵夫妻の殺害もフィクタだと言う。水路に撒いたものと同じものを混ぜて。
「マギア公爵夫妻を殺害した際に使用したティーポットとカップを当時の侍女が不審に思い、ウニバーシタスのとある機関に提供していました。その分析結果が残っていまして」
それは今回の酒の粗悪品、水路への異物混入にも繋がっていき、今ここにこういう形で成果を上げた。精度は低くても立証するには十分だったと。
「フィクタ嬢、貴方侍女としてマギア公爵夫妻の元にいたらしいですね。夫妻の元で働くときにはフィクタの名前を使っていたので足取りがとりやすかった」
「そんな証明できるはずが」
「できますよ。マギア公爵夫妻は子供がいなかったし跡を継ぐ者もいなかった。その為、夫妻管轄の仕事や多くの書類を移譲してました。その先が皇帝陛下です」
爵位を持つ人間が廃嫡となる時は概ね国へ返上する。マギア公爵夫妻も国へ返す目的で動いていたのだろう。
「皇帝陛下とマギア公爵夫妻の署名つき書類もあるので移譲に関する事は証明されています。夫妻は行き場の失う下働きの事をとても心配していたようで、継ぐ者がいなければとよく話していたようです」
では皇帝陛下はなぜフィクタの存在を許したのか。フィクタが継ぐことで侍女たちの進路は安泰となったと思われたらしい。第一皇子との結婚の際、フィクタはそう嘯いていた。
そもそもフィクタの存在をマギア公爵家の令嬢として認知させる為にやはり自国の異物を使っていたという。
そんな話、サクってば全然してくれなかったじゃない。確かに過去と今の酒の粗悪品といい、城に来る直前に水路に異物がと話もあった。サクのフィクタに対する偽物として見るニュアンスはここからきていたってこと? てっきり聖女であることを偽っているってことだけかと思ってた。分かりづらいわ。
「貴方がマギア公爵家に下働きでいた事を多くの証言や書類から証明できます」
「嘘よ、そいつら全員嘘ついて」
「貴方が東の国と取引していた事も証明出来ます」
貿易は国同士の利益がかかっているから記録に残っていることが多い。フィクタのことももれなく記載があったという。
裏での取引だろうによく足がついたものね。そう思っているとサクが私にだけ聞こえる声で囁く。
「過去の記録は中々手こずりましたが、十年前からセーフティ張っておいたので」
「準備してたの」
「んーまあどちらにしたって彼女の母国が厳しくチェックしてましたよ。東の国とのやり取りは大変でしたけど、最終的には情報もらえましたし」
フィクタの母国がなにもしなかったのは、仕入れていた異物が彼女の母国では違法としてみなされていなかったからだ。けどこの十年間のことを鑑みて、国として正式な決断を国家連合に伝えていた。
「フィクタ嬢の故郷である東の国からは、フィクタ嬢に関する処遇は国家連合が受け持つようにと決定通知がきました。書面もここに」
「な、にを」
ここで自身の出身を認めてしまうわけにはいかなかったフィクタは言葉に詰まった。認めても国家連合の裁判にかけられるし、ウニバーシタスの人間と言い続けても国家連合の裁判にかけられる。彼女に裁判を受けずに逃げる選択肢はなかった。
「では詐称に相応する罪の告知については最後にしよう」
0
あなたにおすすめの小説
契約結婚のススメ
文月 蓮
恋愛
研究一筋に生きてきた魔導士のレティシアは、研究を続けるために父に命じられた結婚をしかたなく承諾する。相手は社交界の独身女性憧れの的であるヴィラール侯爵アロイス。だが、アロイスもまた結婚を望んでいなかったことを知り、契約結婚を提案する。互いの思惑が一致して始まった愛のない結婚だったが、王の婚約者の護衛任務を受けることになったレティシアとアロイスの距離は徐々に縮まってきて……。シリアスと見せかけて、コメディです。「ムーンライトノベルズ」にも投稿しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
サマー子爵家の結婚録 ~ほのぼの異世界パラレルワールド~
秋野 木星
恋愛
5人の楽しい兄弟姉妹と友人まで巻き込んだ、サマー子爵家のあたたかな家族のお話です。
「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー、
「のっぽのノッコ」に恋した長男アレックス、
次女キャサリンの「王子の夢を誰も知らない」、
友人皇太子の「伝統を継ぐ者」、
「聖なる夜をいとし子と」過ごす次男デビッド、
長女のブリジットのお話はエミリーのお話の中に入っています。
※ 小説家になろうでサマー家シリーズとして書いたものを一つにまとめました。
半妖の狐耳付きあやかし令嬢の婚約事情 ~いずれ王子(最強魔法使い)に婚約破棄をつきつけます!~
百門一新
恋愛
大妖怪の妖狐「オウカ姫」と、人間の伯爵のもとに生まれた一人娘「リリア」。頭には狐耳、ふわふわと宙を飛ぶ。性格は少々やんちゃで、まだまだ成長期の仔狐なのでくしゃみで放電するのもしばしば。そんな中、王子とのお見合い話が…嫌々ながらの初対面で、喧嘩勃発!? ゆくゆく婚約破棄で、最悪な相性なのに婚約することに。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
※ベリーズカフェに修正版を掲載、2021/8/31こちらの文章も修正版へと修正しました!
恋は、やさしく
美凪ましろ
恋愛
失恋したばかりの彼女はひょんなことから新橋の街中で上司にお姫様抱っこされ……!? ――俺様な美形上司と彼女とのじんわりとした恋物語。
性描写の入る章には*マークをつけています。
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
触れる指先 偽りの恋
萩野詩音
恋愛
武井夏穂は、お人よしな性格が玉にキズなカフェ店員。
ある日、常連のお客様のトラブルに遭遇し、とっさに彼を手助けしたところ、そのまま「恋人のふり」をすることになって――。
<登場人物>
武井夏穂(たけい かほ)28歳 カフェ店員
×
貴島春樹(きじま はるき)35歳 エリートサラリーマン
『本当の自分』を受け入れてくれるひとに、出会えたかもしれない。
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる