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1話 物語の始まり
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たくさん悪いことをした。
と言うと子供番組の言葉みたいで許されるような可愛いものに聞こえるけど実際私がしでかした悪いことはそんな次元の話じゃない。
殺人、暴行が代表的で最後は国家反逆罪。
他人の人生を狂わせて、欲しかったものは一番だった。けど本音はおそらくそこじゃない。
「あれ?」
妙な空間にいる。ふわふわ浮いてるのに上下左右がない。私が知る世界にそういう場所はなかった。
「やあねえ……面倒なことになったわ」
「?」
声のした方を向けば二十代、いや三十代の女性が嫌そうな顔をしてこちらを見ている。この空間で仁王立ちできるってすごいわ。
そして私は目の前の女性のことを知っている。
「……フィクタ?」
「ええ、そうだけど」
* * *
話はこの空間に来る前に遡る。
* * *
私は山岳地帯の小さな集落に住む子供だった。
見た目が集落の人間とは違い、金に近い茶色に色素の薄い目と肌。どうやら祖父が高い山を越えた西の地域の民族だったらしく孫である私の代でその特徴が出たらしい。
周囲と違う見た目故に私は集落から迫害を受けた。集落の端っこになんとか居住することを認められ、母と二人で暮らすも、同じ年の子供と遊ぶこともなく暮らせる最低限しかものがない。
「襲撃だ!」
私の住む国は内乱が多かった。小さな集落同士で争い奪い合うのは当たり前。
逃げたり戦ったり奪い奪われ今まで生き残ってきた。そんな日々をすごしてきた六歳の時、襲撃の際に放たれた矢が胸を貫いて私は死んだはず、だったのだけど。
「……!」
そうだ。
逃げに逃げて山をくだった隣の集落には私と同じ見た目の双子の男の子がいた。西側の民族の特徴を持った双子は主が先に逃げたのか右往左往している。
独り者だった私は周辺の集落を境界ぎりぎりまで行っては他の集落の様子を覗いていた。二人は商人に買われた下働きだったようで、主人の身の回りの世話をしている姿をよく見ていた。
「走って! 逃げて!」
西側の言葉を双子にかけて背中を押す。商人の言葉を盗み聞きうっすら記憶にある祖父の言葉、母が覚えていたものを合わせて学び続けた故に言葉が出た。
そして自分だけ助かればいいところを自分の境遇と重ねて助けてしまった。それが仇となって狙われた矢を胸に受ける。
いい具合に貫いてさようならというところだったはず。
* * *
そして冒頭通り。
「なんで?」
変な空間に来て、知ってる顔と話している。そういえば私の見た目も大人の体つきだった。
「あんたは私よ」
「はい?」
「ほら」
どこからともなく出てきた鏡に自分の顔が写る。目の前にいた女性と同じ顔だった。
「フィクタの顔だ?」
「はあ……察しが悪いわね」
ダメ出しがひどい。
「記憶が全然違いますよ。あなたと私は別人ですよね?」
フィクタを知っているのは事実だ。
でも自分自身ではない。目の前の女性は作り話のキャラクターだもの。
「どちらかと言うと私は異世界転生した系ですかね?」
あの六歳はフィクタで間違いない。ただそこに入ろうとしている魂すなわち私はフィクタではない。別世界の人間のはずだ。
「……あの女の影響が強いわね」
勘違いするぐらいに。
フィクタは浮いた空間で足を組んで座り肘をついて掌に自身の顎をのせた。
「だっておかしいですよ。私がフィクタの魂だとしたら現代日本の知識があるわけないじゃないですか」
「それが影響を受けただけのものだっつってんの」
フィクタが不機嫌になった。元々機嫌よくなかったけど、眉間の皺が深くなって少し怖い。
「じゃあきくわ。物語のフィクタの最期はどうだった?」
「ええと……」
人を殺し終いには帝国民の大量虐殺を目論み国家反逆罪で初の国際裁判によって裁かれたフィクタは南の国の収容所に放り込まれた。そこで厳しい規律の中すごし、体罰も受けたし受刑者同士のいじめにも巻き込まれ、福祉活動はみっちりというかかなり多めに組み込まれ、その内体調を崩す。その中で死にたくないと灰色の天井を見ながら、体内に残る魔石の力を使って自身に魔術をかけた。
そうだ、あの高い山からとれる石は魔法の力が宿ってて石を使えば才がなくても魔術が使える。人によっては魔法も使えるけど、フィクタは石を通じて魔術を使って暮らしていた。
その魔石を粉々にして飲んだんだ。物語のヒーローにやり返されて後宮に閉じ込められた時に没収されないように。
その石の効果が出たのが死に際。
死に戻りやり直しの魔術を施した時。
「言っとくけどフィクタが収容所に入ってから死ぬまでは物語として成り立ってないわよ」
「え、どういう?」
小説の内容ではなく? ざまあは基本描かれるはず。
「収容所に入って終わりよ。ヒーローとヒロインは幸せに暮らしましためでたしめでたしで完結したわ」
「じゃあ今思い出したのは……」
「フィクタの記憶よ」
だからあんたは私だと言っているでしょうと、フィクタは呆れてため息をつく。
「そ、そしたらこの日本の記憶は? それに性格も全然違うし」
「巡回者の影響を受けたのよ。あの女、悪役の最期ヒャッハーって言いながら近づいてきて!」
なんなのあいつと再び仁王立ちになり両拳握り顔を上げて叫ぶフィクタ。
そんな私は悪役の最期ヒャッハーな気持ちが分かってしまう。最期まで見届けたいというか悪役ってだけで存在が尊いというか。
「思考や趣向まで影響されて最悪っ」
私をゴミを見るような目で見下ろさないでほしい。嬉しくてハスハスする気持ちと不快な気持ちと半々というところだけどね。
「あの女とは……」
フィクタが巡回者というあの女とはこの妙な空間、通称意識の世界に存在していて、元異世界の人間だという。
この世界には聖女という全知全能のものすこぐ万能な人間が神的な力を持って、私が生きる世界と精霊王が住まう意識の世界を繋いでいた。うん、中間管理職かな?
最後の聖女の前世の一人がその巡回者らしいのだけど、この世界が楽しすぎて転生せず留まっているらしい。留まるかわりに精霊王の仕事の肩代わりをしてるとか。世界を巡回していて歪みがあると精霊王や四代精霊に連絡をとって正しい世界へ導くとかなんとか。
どこの小説の話? すごくおいしい設定だわ。
「よりにもよってあの女のオタク思考だけ影響受けるとか最悪よねえ」
「オタクという性質は強いということですよ」
その方が人生楽しいしね、と笑う。フィクタがうげえと心底嫌そうな顔をした。
と言うと子供番組の言葉みたいで許されるような可愛いものに聞こえるけど実際私がしでかした悪いことはそんな次元の話じゃない。
殺人、暴行が代表的で最後は国家反逆罪。
他人の人生を狂わせて、欲しかったものは一番だった。けど本音はおそらくそこじゃない。
「あれ?」
妙な空間にいる。ふわふわ浮いてるのに上下左右がない。私が知る世界にそういう場所はなかった。
「やあねえ……面倒なことになったわ」
「?」
声のした方を向けば二十代、いや三十代の女性が嫌そうな顔をしてこちらを見ている。この空間で仁王立ちできるってすごいわ。
そして私は目の前の女性のことを知っている。
「……フィクタ?」
「ええ、そうだけど」
* * *
話はこの空間に来る前に遡る。
* * *
私は山岳地帯の小さな集落に住む子供だった。
見た目が集落の人間とは違い、金に近い茶色に色素の薄い目と肌。どうやら祖父が高い山を越えた西の地域の民族だったらしく孫である私の代でその特徴が出たらしい。
周囲と違う見た目故に私は集落から迫害を受けた。集落の端っこになんとか居住することを認められ、母と二人で暮らすも、同じ年の子供と遊ぶこともなく暮らせる最低限しかものがない。
「襲撃だ!」
私の住む国は内乱が多かった。小さな集落同士で争い奪い合うのは当たり前。
逃げたり戦ったり奪い奪われ今まで生き残ってきた。そんな日々をすごしてきた六歳の時、襲撃の際に放たれた矢が胸を貫いて私は死んだはず、だったのだけど。
「……!」
そうだ。
逃げに逃げて山をくだった隣の集落には私と同じ見た目の双子の男の子がいた。西側の民族の特徴を持った双子は主が先に逃げたのか右往左往している。
独り者だった私は周辺の集落を境界ぎりぎりまで行っては他の集落の様子を覗いていた。二人は商人に買われた下働きだったようで、主人の身の回りの世話をしている姿をよく見ていた。
「走って! 逃げて!」
西側の言葉を双子にかけて背中を押す。商人の言葉を盗み聞きうっすら記憶にある祖父の言葉、母が覚えていたものを合わせて学び続けた故に言葉が出た。
そして自分だけ助かればいいところを自分の境遇と重ねて助けてしまった。それが仇となって狙われた矢を胸に受ける。
いい具合に貫いてさようならというところだったはず。
* * *
そして冒頭通り。
「なんで?」
変な空間に来て、知ってる顔と話している。そういえば私の見た目も大人の体つきだった。
「あんたは私よ」
「はい?」
「ほら」
どこからともなく出てきた鏡に自分の顔が写る。目の前にいた女性と同じ顔だった。
「フィクタの顔だ?」
「はあ……察しが悪いわね」
ダメ出しがひどい。
「記憶が全然違いますよ。あなたと私は別人ですよね?」
フィクタを知っているのは事実だ。
でも自分自身ではない。目の前の女性は作り話のキャラクターだもの。
「どちらかと言うと私は異世界転生した系ですかね?」
あの六歳はフィクタで間違いない。ただそこに入ろうとしている魂すなわち私はフィクタではない。別世界の人間のはずだ。
「……あの女の影響が強いわね」
勘違いするぐらいに。
フィクタは浮いた空間で足を組んで座り肘をついて掌に自身の顎をのせた。
「だっておかしいですよ。私がフィクタの魂だとしたら現代日本の知識があるわけないじゃないですか」
「それが影響を受けただけのものだっつってんの」
フィクタが不機嫌になった。元々機嫌よくなかったけど、眉間の皺が深くなって少し怖い。
「じゃあきくわ。物語のフィクタの最期はどうだった?」
「ええと……」
人を殺し終いには帝国民の大量虐殺を目論み国家反逆罪で初の国際裁判によって裁かれたフィクタは南の国の収容所に放り込まれた。そこで厳しい規律の中すごし、体罰も受けたし受刑者同士のいじめにも巻き込まれ、福祉活動はみっちりというかかなり多めに組み込まれ、その内体調を崩す。その中で死にたくないと灰色の天井を見ながら、体内に残る魔石の力を使って自身に魔術をかけた。
そうだ、あの高い山からとれる石は魔法の力が宿ってて石を使えば才がなくても魔術が使える。人によっては魔法も使えるけど、フィクタは石を通じて魔術を使って暮らしていた。
その魔石を粉々にして飲んだんだ。物語のヒーローにやり返されて後宮に閉じ込められた時に没収されないように。
その石の効果が出たのが死に際。
死に戻りやり直しの魔術を施した時。
「言っとくけどフィクタが収容所に入ってから死ぬまでは物語として成り立ってないわよ」
「え、どういう?」
小説の内容ではなく? ざまあは基本描かれるはず。
「収容所に入って終わりよ。ヒーローとヒロインは幸せに暮らしましためでたしめでたしで完結したわ」
「じゃあ今思い出したのは……」
「フィクタの記憶よ」
だからあんたは私だと言っているでしょうと、フィクタは呆れてため息をつく。
「そ、そしたらこの日本の記憶は? それに性格も全然違うし」
「巡回者の影響を受けたのよ。あの女、悪役の最期ヒャッハーって言いながら近づいてきて!」
なんなのあいつと再び仁王立ちになり両拳握り顔を上げて叫ぶフィクタ。
そんな私は悪役の最期ヒャッハーな気持ちが分かってしまう。最期まで見届けたいというか悪役ってだけで存在が尊いというか。
「思考や趣向まで影響されて最悪っ」
私をゴミを見るような目で見下ろさないでほしい。嬉しくてハスハスする気持ちと不快な気持ちと半々というところだけどね。
「あの女とは……」
フィクタが巡回者というあの女とはこの妙な空間、通称意識の世界に存在していて、元異世界の人間だという。
この世界には聖女という全知全能のものすこぐ万能な人間が神的な力を持って、私が生きる世界と精霊王が住まう意識の世界を繋いでいた。うん、中間管理職かな?
最後の聖女の前世の一人がその巡回者らしいのだけど、この世界が楽しすぎて転生せず留まっているらしい。留まるかわりに精霊王の仕事の肩代わりをしてるとか。世界を巡回していて歪みがあると精霊王や四代精霊に連絡をとって正しい世界へ導くとかなんとか。
どこの小説の話? すごくおいしい設定だわ。
「よりにもよってあの女のオタク思考だけ影響受けるとか最悪よねえ」
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