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33話 決闘

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 皇太子呼びをしないだけで不機嫌な顔を作る。デビュタントを迎えたとはいえ、正式な発表がない限り皇太子にはなれない。もうなった気でいるあたり浅はかね。
 さておき、面倒な男がきた。
 けど扱いやすさは小説にて折り紙つき。この男、馬鹿だもの。ついでに言うなら小心者だ。マジア侯爵夫妻がいなくなってから来る時点で明らかよ。

「ここは平民風情が来る場所ではないぞ」
「殿下、彼女はマジア侯爵令嬢です。それに身分に関する法律は緩和されます。誰がどこにいてもおかしくないのではないでしょうか」
「はっ、そんなもの関係ないな」

 お決まりの台詞だ。裁判にかけられた時すら同じようなことを言っていた。法律は関係ない、自分が基準。それがこの男。

「そもそも学のない人間が帝国の城を出入りするなど考えられない。なのに図々しくもデビュタントまで参加するとは常識がないにもほどがあるな」
「御言葉ですが殿下」

 再び私を庇うようにエールが前に出た。表立ってマーロン侯爵家と帝国皇族が言い争うのはよくない。周囲の大人を確認し、マーロン兄とイグニスを見つける。けど二人は静観しているだけだった。あまつさえイグニスは面白そうに目を細めている。いやいや止めてよ。

「殿下、テンプスモーベリ総合学院からポステーロス城への研修は成績上位者でなければ、」
「そんなこと知っている」
「ではマジア侯爵令嬢が帝国と学院を行き来していることは何もおかしくないないと御存知ですね」

 喧嘩売ってるでしょ。やめなって。第一皇子ってプライド高いから知ってるよね的な言動もアウトだから。同じ学院にいようと自分が一番、他は自分以下な考えの男だよ。

「ふん、学院の成績などあてにならん」
「中立と公正を掲げている学院を疑うのですか」
「疑うもなにも才のない平民を採用している時点で公正ではない」
「殿下も学年が同じ者としてマジア侯爵令嬢が優秀であることは御存知ではありませんか」

 だから私が優秀なことを認めたくないんだって。落ち着いてエール。喧嘩売らないで。

「優秀? そんなわけがない。こいつは平民だぞ? 学院の筆記試験は不正でもしたのだろう」
「殿下、その発言はマジア侯爵家はおろか、彼女の後見人であるマーロン侯爵家、アチェンディーテ公爵家ですら、侮辱する発言です」

 煽るな! 適当に話し切ってここを離れよう。ただでさえ第一皇子が話しかけてきたってんで注目浴びてるのに!

「はっ、他国の人間に口出しされるいわれはない。マジア侯爵夫妻は毒でも盛られたんじゃないか? 出自の知らぬ平民なんぞ養子にするわけがない」

 小説本編では確かに毒盛ったわ。言い得て妙ね。

「先程からやたらマジア侯爵令嬢のことを仰いますが、殿下は彼女のことが気になりますか?」

 なに、その切り口。いきなりやめなよ。

「なんだと?」
「こんなにマジア侯爵令嬢のことを仰っていると彼女に気があると勘違いされても致し方ないかと」
「そんなわけが!」
「どちらにしろ彼女の婚約者は私ですので」
「うるさい!」

 ほら怒っちゃった。
 周囲も殿下が実はそうなの? 的な盛り上がりを見せている。そりゃ噂のメイン料理にさらにソースかけるみたいなことすれば、真実がどうあろうと盛り上がるわよ。

「なにしてんの……」
「フィクタ、ここはお任せ下さい」
「任せてこの有り様なのよ?」
「ええ」

 なにしたいんだか。
 怒って目の前見えない第一皇子が決闘だなんだ言い始めた。やれやれねえ。

「決闘ですか」
「俺が勝ったら貴様らの城の出入りを禁じる! マジア侯爵家の養子も撤回だ!」

 そんな権限ないんだから落ち着きなさいって。皇帝の耳に入ったらさすがにお小言じゃすまない。

「では殿下が負けたらいかがしましょう?」
「はっ! 負けることなどないが、俺は心広いからな。貴様らの要望を聞いてやろう」
「……フィクタはどうしたいですか?」

 話振らないでよ。
 まあこの場合、私の名誉的なものをかけて行われるわけだから、私の要望があってもいいのか。
 国家連合設立までこの人には大人しくしててほしい。その為にはどうすればいいか。
 ここはある程度小説本編を参考にしようかな? 小説では本編ヒーロー・サクを国家反逆罪の罪をなすりつけようとして返り討ちにあう。その時はフィクタは後宮に軟禁。当時の第一皇太子とフィクタは婚姻破棄があった。で、当の第一皇太子本人への罰は……と、あれか。

「皇位継承権の放棄」
「え?」
「は?」
「ん…………あれ、声に出てた?」

 ぶふっと遠くでイグニスが吹き出すのが分かった。

「あ、やば」
「な……な……」

 本日最大の叫びがデビュタント会場にこだました。
 貴族の皆さんも一致団結同じ反応できるなんてコントみたい、なんて……まったく笑えない状況だわ。
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