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11話 戦士としてやってくる(旦那様視点)
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「あとはあれだ、お前手ずからプレゼントでもしてあげろよ」
「近い日に記念日はないが?」
「馬鹿、何もなくてもあげるんだよ」
「何を」
自分で考えろと喚かれた。
そして頭を乱暴にかいて、花やら菓子やら装飾品やら勧められた。
「私から渡すのか」
「そうだよ。侍女経由やめろよ」
「……」
いつも間接的に渡しているのがバレている。
プレゼントを嫌がられても嫌だし、遠慮がちに感謝されても困る。
かといって心底喜んで笑顔を向けられても、嬉しい反面いつも通り冷静に対応できるか自信がなかった。
「いや待て。いい加減、こういう話はやめだ。その為に呼んだんじゃない」
「はあ? ちょっとエヴィター、待ちなさいよ」
クラシオンにとっては大事な問題だと、アンヘリカは食って掛かった。
クラシオンのことを慮って怒るのは有り難い話だが、今はそこを話しに呼んだわけではない。
「いいや、問題は山積みなんだ。まずはクラシオンの暴走を止めるところからだろう」
「暴走ねえ」
家の中でするなら、まだいい。
けれど外は駄目だ。
以前の物盗りの件はアンヘリカも現場にいた為、改めて説明する必要はなかったが、あの露出が多く身体のラインもよくわかる奇妙な服装に加え、クラシオン自体を外の誰かの目に晒すのは嫌だった。
それをアンヘリカは、こじらせだの嫉妬だのと引き気味に言っているが無視だ。
「物盗りがスプレの四幹部かあ」
「偶然にしたところで、危険な事に変わりはない。私相手に何かするなら兎も角、外で危ない事をしないよう諌めたい」
「けどリンちゃんとしては、戦士として見過ごすわけにはいかないんでしょ?」
「らしいが」
悪を討つ事も使命の一つだという。
そもそも私が洗脳されていると主張している時点で納得できないが、この悪を討つが曲者だった。
まさか外で自ら危険な目に遭う真似をするなんて。
ここ最近幅を利かせている件の物盗りを捕らえる為に、自ら追って出た先にいたクラシオンの姿が忘れられない。
彼女が危険の中にいる事に、胃が瞬間的に浮く様な感覚を味わった。
正直、あんな思いは二度と味わいたくない。
「そもそも話している内容が不可解だ。シリーズもので? あにめ? という板に動く絵を映すなど、にわか信じられん」
「ん? なんだお前。リンちゃんから、ラングシリーズについて、詳しく聞いてないわけ?」
「……」
「エヴィターの事だから、話なんてしてないわよ。リンを避けてるんだから」
痛いところを。
確かに意図的に避けている。
自分でもどうしようもないことだと言っても、目の前の二人には理解されないことだろう。
「ことリンちゃんに関しては意気地ねえなあ」
「……うるさい」
「まあ簡単に話すとな、ラブリィブレッシングの一作目舞台が、海向こうの島国だったんだよ。そこからシリーズ開始だから、ラングだけ向こうの言葉なわけ」
マヌエルが粗方説明をしてくれたので、ぼんやりとだが全容が見えてきた。
子供向けの作り話にクラシオンが主人公として出ている。
たまたま私も出ていて、彼女は作品とこの世界を同一視し、物語に則って私を救おうということだ。
しかしアニメとやらのクラシオンの年齢と現在の年齢は合致しない。
そこから物語の矛盾が生じているのに、クラシオンはそれを修正力だのタイムパラドックスだの、よくわからない言葉を使って片付けたらしい。
何故そうなるのか。
「今度俺達、全話内容聞いてくるけど、お前にも話すか?」
「全話は……」
「スプレとスプリミだけだぜ?」
「シリーズ十年分じゃないのに」
「十年……」
だからクラシオンは四年目五年目と言っていたのか。
エンディングもシリーズの鉄則だのなんだの言っていたな。
聞く気力がなくて、返事は保留にしておいた。
「そういえば、今日は朝方に、スプレのオープニングだと言って、音楽を奏でていた」
食堂で朝食をとっていると、庭から奇妙な音とクラシオンの歌声が聞こえたので、覗いて見れば修行と称して妙な動きをしながら歌っていた。
曰く、オープニングのサビで戦うシーンがあるということで、それを再現していたらしい。
専属侍女のソフィアとナタリア、専属護衛騎士のアドルフォから報告は受けていたから、知ってはいたものの、実際目の当たりにすると驚く以外の反応が出来なかった。
頭の痛い思いだ。
「止めろと言っても、シリーズ全てのオープニングはこうだと言ってきかない」
「それも止めさせたいわけ?」
「中庭で一人、真似事をしている分には構わない。問題は市井の犯罪者と相対する事だ。それだけは避けたい」
「とはいってもねえ」
ようは街中に出なければいいだけの話だ。
それを提案するも、もうクラシオンは定期的に街を巡回する計画を立ててしまっているらしい。
アンヘリカにどうにかしてもらうよう頼んだところで、言ってきかないわよと一蹴された。
護衛騎士を振り切ってしまう程、彼女の身体強化の魔法は、ずば抜けている。
故に、彼女の周りの警護を厳しくしたとしても無駄だろう。
力で止める事はより難しい。
しかし周囲の協力を得ようにも、彼女の実力や考えが中々許してくれない。
「旦那様」
「ああ、開けなさい」
扉が叩かれた。
許しを与え扉を開けると、顔面蒼白のナタリアが息を切らしていた。
嫌な予感しかしなかった。
「旦那様、奥様が、おいでです」
「まさか」
「せ、戦士として、いらっしゃいます!」
「ブフッ!」
目の前の夫婦が吹いた。
人の気も知らないで、ひどい奴らだ。
頭を抱えると同時に、クラシオンの声が聞こえた。
生き生きとした声。楽しそうに笑いながら、それでも瞳の光を強くした彼女が容易に想像できる。
ああ、よりによって、私が愛しくて仕方ない顔をしてくるのか。
随分前に私のせいで失わせてしまったものを持って。
「勘弁してくれ……」
「近い日に記念日はないが?」
「馬鹿、何もなくてもあげるんだよ」
「何を」
自分で考えろと喚かれた。
そして頭を乱暴にかいて、花やら菓子やら装飾品やら勧められた。
「私から渡すのか」
「そうだよ。侍女経由やめろよ」
「……」
いつも間接的に渡しているのがバレている。
プレゼントを嫌がられても嫌だし、遠慮がちに感謝されても困る。
かといって心底喜んで笑顔を向けられても、嬉しい反面いつも通り冷静に対応できるか自信がなかった。
「いや待て。いい加減、こういう話はやめだ。その為に呼んだんじゃない」
「はあ? ちょっとエヴィター、待ちなさいよ」
クラシオンにとっては大事な問題だと、アンヘリカは食って掛かった。
クラシオンのことを慮って怒るのは有り難い話だが、今はそこを話しに呼んだわけではない。
「いいや、問題は山積みなんだ。まずはクラシオンの暴走を止めるところからだろう」
「暴走ねえ」
家の中でするなら、まだいい。
けれど外は駄目だ。
以前の物盗りの件はアンヘリカも現場にいた為、改めて説明する必要はなかったが、あの露出が多く身体のラインもよくわかる奇妙な服装に加え、クラシオン自体を外の誰かの目に晒すのは嫌だった。
それをアンヘリカは、こじらせだの嫉妬だのと引き気味に言っているが無視だ。
「物盗りがスプレの四幹部かあ」
「偶然にしたところで、危険な事に変わりはない。私相手に何かするなら兎も角、外で危ない事をしないよう諌めたい」
「けどリンちゃんとしては、戦士として見過ごすわけにはいかないんでしょ?」
「らしいが」
悪を討つ事も使命の一つだという。
そもそも私が洗脳されていると主張している時点で納得できないが、この悪を討つが曲者だった。
まさか外で自ら危険な目に遭う真似をするなんて。
ここ最近幅を利かせている件の物盗りを捕らえる為に、自ら追って出た先にいたクラシオンの姿が忘れられない。
彼女が危険の中にいる事に、胃が瞬間的に浮く様な感覚を味わった。
正直、あんな思いは二度と味わいたくない。
「そもそも話している内容が不可解だ。シリーズもので? あにめ? という板に動く絵を映すなど、にわか信じられん」
「ん? なんだお前。リンちゃんから、ラングシリーズについて、詳しく聞いてないわけ?」
「……」
「エヴィターの事だから、話なんてしてないわよ。リンを避けてるんだから」
痛いところを。
確かに意図的に避けている。
自分でもどうしようもないことだと言っても、目の前の二人には理解されないことだろう。
「ことリンちゃんに関しては意気地ねえなあ」
「……うるさい」
「まあ簡単に話すとな、ラブリィブレッシングの一作目舞台が、海向こうの島国だったんだよ。そこからシリーズ開始だから、ラングだけ向こうの言葉なわけ」
マヌエルが粗方説明をしてくれたので、ぼんやりとだが全容が見えてきた。
子供向けの作り話にクラシオンが主人公として出ている。
たまたま私も出ていて、彼女は作品とこの世界を同一視し、物語に則って私を救おうということだ。
しかしアニメとやらのクラシオンの年齢と現在の年齢は合致しない。
そこから物語の矛盾が生じているのに、クラシオンはそれを修正力だのタイムパラドックスだの、よくわからない言葉を使って片付けたらしい。
何故そうなるのか。
「今度俺達、全話内容聞いてくるけど、お前にも話すか?」
「全話は……」
「スプレとスプリミだけだぜ?」
「シリーズ十年分じゃないのに」
「十年……」
だからクラシオンは四年目五年目と言っていたのか。
エンディングもシリーズの鉄則だのなんだの言っていたな。
聞く気力がなくて、返事は保留にしておいた。
「そういえば、今日は朝方に、スプレのオープニングだと言って、音楽を奏でていた」
食堂で朝食をとっていると、庭から奇妙な音とクラシオンの歌声が聞こえたので、覗いて見れば修行と称して妙な動きをしながら歌っていた。
曰く、オープニングのサビで戦うシーンがあるということで、それを再現していたらしい。
専属侍女のソフィアとナタリア、専属護衛騎士のアドルフォから報告は受けていたから、知ってはいたものの、実際目の当たりにすると驚く以外の反応が出来なかった。
頭の痛い思いだ。
「止めろと言っても、シリーズ全てのオープニングはこうだと言ってきかない」
「それも止めさせたいわけ?」
「中庭で一人、真似事をしている分には構わない。問題は市井の犯罪者と相対する事だ。それだけは避けたい」
「とはいってもねえ」
ようは街中に出なければいいだけの話だ。
それを提案するも、もうクラシオンは定期的に街を巡回する計画を立ててしまっているらしい。
アンヘリカにどうにかしてもらうよう頼んだところで、言ってきかないわよと一蹴された。
護衛騎士を振り切ってしまう程、彼女の身体強化の魔法は、ずば抜けている。
故に、彼女の周りの警護を厳しくしたとしても無駄だろう。
力で止める事はより難しい。
しかし周囲の協力を得ようにも、彼女の実力や考えが中々許してくれない。
「旦那様」
「ああ、開けなさい」
扉が叩かれた。
許しを与え扉を開けると、顔面蒼白のナタリアが息を切らしていた。
嫌な予感しかしなかった。
「旦那様、奥様が、おいでです」
「まさか」
「せ、戦士として、いらっしゃいます!」
「ブフッ!」
目の前の夫婦が吹いた。
人の気も知らないで、ひどい奴らだ。
頭を抱えると同時に、クラシオンの声が聞こえた。
生き生きとした声。楽しそうに笑いながら、それでも瞳の光を強くした彼女が容易に想像できる。
ああ、よりによって、私が愛しくて仕方ない顔をしてくるのか。
随分前に私のせいで失わせてしまったものを持って。
「勘弁してくれ……」
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