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10話 旦那様、相談する(旦那様視点)
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「よ、エヴィター」
「ああ……」
苦肉の策とはいえ、話すのは気が引けた。
けれど、もう手に負えないところまできている。
「なんだ、アンヘリカもいるのか」
「なんだとは何よ」
いいじゃない、と主張するアンヘリカは、あまりに自分の妻に近い。
クラシオンに知られたくないから、内密に頼んだというのに。
「クラシオンには話すなよ」
「はいはい、わかってますう」
ライムンダ侯爵夫妻を家に呼ぶ事にした。尤も、あちらの妻の方は勝手に来たわけだが。
さておき、話は勿論、クラシオンについてだ。
彼女の誕生日を迎えた日から、妙な言動と行動が現れた。
多少の事はと目をつぶっていたものの、直近、市井の物盗りと対峙していた。
さすがに危険が及ぶ。それは見過ごせなかった。
「まあ、俺もリンちゃんのことは聞いてるけど」
「待て、クラシオンを愛称で呼ぶな」
「残念、本人から了承もらってるしー」
「なんだと」
「エヴィターが是非って言ってたんだ~って言ったら許してくれた」
「いつ許可した」
目の前の男、マヌエルとは腐れ縁だ。
同期で同年齢、王城で私は騎士、あちらは宰相として勤めている。
故に私の環境やクラシオンにも詳しいわけだが、彼女を愛称で呼ぶことを許可した記憶はない。
「最初は断られたよ? 旦那様がって、お前の顔きちんと立てっちゃってさー」
リンちゃん健気すぎと訴えるマヌエル。
隣のアンヘリカが溜息を吐いた。
「エヴィターったら、器量に乏しいわねえ」
「てか、お前もリンちゃんて呼んであげればいいじゃん」
「それ、は、」
結婚する前もしてからも、彼女をリンと呼んだことはない。
とてもじゃないが呼べなかった。
「恥ずかしがる必要ある?」
「恥ずかしがってなど、」
「あれだけ必死になって、リンちゃんとの婚姻結んでおいて?」
「いや、それは、」
「てかさー、お前、リンちゃんと夫婦してないだろ?」
痛いところをつかれて、肩が鳴った。
いけない。知られないよう、冷静にならねば。
なのに、奴ときたら追い打ちをかけてきた。
「お前がずっとリンちゃんに手出してないのがいけないんだろ」
「ぐ」
再び痛いところつかれた。
「お前に構ってほしくてやってるって思ってみろよ?」
「いや、それはないだろう」
「ないわけないだろ。俺は前世あり派だけど、思いだしたところで、わざわざ再現するとか、お前を助けるとか、前世の記憶通りにしようとは思わない」
つまり、転生前の記憶に基づく、スプレと我々の世界を同一視することはないと。
それもそうだ。冷静に考えれば、作り物と世界が似ているだけの話。
同一視して、私を救うなどと拳を振り上げる必要もないだろう。
「まあリンちゃんが、こういう記憶がーって話し合いに来ても、お前は話し合いすらしないだろ?」
「それは」
「あれだけ結婚急いだくせに、この七年触れてもいないとか、お前おかしいんじゃないの?」
「学生の間に子供を作らないようにだな」
勉学に励むのがなによりも優先される、それが学生だ。
当然だと訴えるが、それもたどたどしく返す手前、説得力の欠片もない。
「ハグもキスもないわけだろ」
「ぐぐ」
「それにアンヘリカは留学もして、子供も産んだ上で、今学園に通ってんだ。出来ないことじゃない」
だからそういう話をしたいんじゃない。
これ以上、クラシオンが変な行動に出ないよう協力してほしいだけで。
なのに、マヌエルもアンヘリカも、そこに話を戻してくれない。
「そういう愛情表現してないから、リンちゃんが愛されてないんじゃって不安になるわけ」
「いや、しかし」
「少しは愛情表現しろよ」
「いや、」
「てかもう子供作っちゃえよ」
「駄目だ、まだ学生だ」
「あと半年きってるじゃん。今妊娠しても卒業してから出産になるから影響ないし」
「いや、でも」
「リンちゃんが、ああなったの良い機会なんじゃない? 離縁されたくなかったら、少しは気張れよ」
「り、離縁……」
その言葉ががつんと響く。
そうだ、クラシオンはいつも歩み寄ろうとしてくれていた。
公爵家の夫人として、あるべき姿をと努力しているのも知っている。
それを跳ねのけ、避けていたのは自分だ。
愛想を尽かされても仕方がない。
それでもだ。
「離縁は、嫌だ……」
「本っ当、あんた面倒よねえ」
「うるさい」
「リンの事、好きなんでしょ?」
「ぐ」
当然だ。
誰にも渡したくなくて、公に人目に触れるデビュタント前に婚姻を結んだ。
「愛してるって言ってあげなよ」
「それ、は」
「愛してるんでしょ?」
「それは、そう、なんだが……」
手をとって、抱きしめて、愛を囁いて、キスを送る。
夫婦にとって、当たり前の事ではあるのに、ずっと出来ていない。
一度触れてしまうと、抑制が効かず、手ひどい事をしてしまうのではという思いしかないからだ。
「お前さー」
「……なんだ」
「そういう顔をリンちゃんに見せてあげれば一発だよ?」
「顔?」
「真っ赤だし」
それは相当だらしのない顔だ。
クラシオンを前にすると、顔も緩みそうで、ついつい力を入れてしまう癖がついてしまったが、彼女がいない所では油断しすぎてしまうらしい。
王城勤務中は特に気を付けないといけないな。
部下に示しがつかん。
「ああ……」
苦肉の策とはいえ、話すのは気が引けた。
けれど、もう手に負えないところまできている。
「なんだ、アンヘリカもいるのか」
「なんだとは何よ」
いいじゃない、と主張するアンヘリカは、あまりに自分の妻に近い。
クラシオンに知られたくないから、内密に頼んだというのに。
「クラシオンには話すなよ」
「はいはい、わかってますう」
ライムンダ侯爵夫妻を家に呼ぶ事にした。尤も、あちらの妻の方は勝手に来たわけだが。
さておき、話は勿論、クラシオンについてだ。
彼女の誕生日を迎えた日から、妙な言動と行動が現れた。
多少の事はと目をつぶっていたものの、直近、市井の物盗りと対峙していた。
さすがに危険が及ぶ。それは見過ごせなかった。
「まあ、俺もリンちゃんのことは聞いてるけど」
「待て、クラシオンを愛称で呼ぶな」
「残念、本人から了承もらってるしー」
「なんだと」
「エヴィターが是非って言ってたんだ~って言ったら許してくれた」
「いつ許可した」
目の前の男、マヌエルとは腐れ縁だ。
同期で同年齢、王城で私は騎士、あちらは宰相として勤めている。
故に私の環境やクラシオンにも詳しいわけだが、彼女を愛称で呼ぶことを許可した記憶はない。
「最初は断られたよ? 旦那様がって、お前の顔きちんと立てっちゃってさー」
リンちゃん健気すぎと訴えるマヌエル。
隣のアンヘリカが溜息を吐いた。
「エヴィターったら、器量に乏しいわねえ」
「てか、お前もリンちゃんて呼んであげればいいじゃん」
「それ、は、」
結婚する前もしてからも、彼女をリンと呼んだことはない。
とてもじゃないが呼べなかった。
「恥ずかしがる必要ある?」
「恥ずかしがってなど、」
「あれだけ必死になって、リンちゃんとの婚姻結んでおいて?」
「いや、それは、」
「てかさー、お前、リンちゃんと夫婦してないだろ?」
痛いところをつかれて、肩が鳴った。
いけない。知られないよう、冷静にならねば。
なのに、奴ときたら追い打ちをかけてきた。
「お前がずっとリンちゃんに手出してないのがいけないんだろ」
「ぐ」
再び痛いところつかれた。
「お前に構ってほしくてやってるって思ってみろよ?」
「いや、それはないだろう」
「ないわけないだろ。俺は前世あり派だけど、思いだしたところで、わざわざ再現するとか、お前を助けるとか、前世の記憶通りにしようとは思わない」
つまり、転生前の記憶に基づく、スプレと我々の世界を同一視することはないと。
それもそうだ。冷静に考えれば、作り物と世界が似ているだけの話。
同一視して、私を救うなどと拳を振り上げる必要もないだろう。
「まあリンちゃんが、こういう記憶がーって話し合いに来ても、お前は話し合いすらしないだろ?」
「それは」
「あれだけ結婚急いだくせに、この七年触れてもいないとか、お前おかしいんじゃないの?」
「学生の間に子供を作らないようにだな」
勉学に励むのがなによりも優先される、それが学生だ。
当然だと訴えるが、それもたどたどしく返す手前、説得力の欠片もない。
「ハグもキスもないわけだろ」
「ぐぐ」
「それにアンヘリカは留学もして、子供も産んだ上で、今学園に通ってんだ。出来ないことじゃない」
だからそういう話をしたいんじゃない。
これ以上、クラシオンが変な行動に出ないよう協力してほしいだけで。
なのに、マヌエルもアンヘリカも、そこに話を戻してくれない。
「そういう愛情表現してないから、リンちゃんが愛されてないんじゃって不安になるわけ」
「いや、しかし」
「少しは愛情表現しろよ」
「いや、」
「てかもう子供作っちゃえよ」
「駄目だ、まだ学生だ」
「あと半年きってるじゃん。今妊娠しても卒業してから出産になるから影響ないし」
「いや、でも」
「リンちゃんが、ああなったの良い機会なんじゃない? 離縁されたくなかったら、少しは気張れよ」
「り、離縁……」
その言葉ががつんと響く。
そうだ、クラシオンはいつも歩み寄ろうとしてくれていた。
公爵家の夫人として、あるべき姿をと努力しているのも知っている。
それを跳ねのけ、避けていたのは自分だ。
愛想を尽かされても仕方がない。
それでもだ。
「離縁は、嫌だ……」
「本っ当、あんた面倒よねえ」
「うるさい」
「リンの事、好きなんでしょ?」
「ぐ」
当然だ。
誰にも渡したくなくて、公に人目に触れるデビュタント前に婚姻を結んだ。
「愛してるって言ってあげなよ」
「それ、は」
「愛してるんでしょ?」
「それは、そう、なんだが……」
手をとって、抱きしめて、愛を囁いて、キスを送る。
夫婦にとって、当たり前の事ではあるのに、ずっと出来ていない。
一度触れてしまうと、抑制が効かず、手ひどい事をしてしまうのではという思いしかないからだ。
「お前さー」
「……なんだ」
「そういう顔をリンちゃんに見せてあげれば一発だよ?」
「顔?」
「真っ赤だし」
それは相当だらしのない顔だ。
クラシオンを前にすると、顔も緩みそうで、ついつい力を入れてしまう癖がついてしまったが、彼女がいない所では油断しすぎてしまうらしい。
王城勤務中は特に気を付けないといけないな。
部下に示しがつかん。
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