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14話 王城通いの誘い(命令)
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変身を解いて応接間へ向かう。
カミラが事前連絡なしに来るのは初めてかしら、珍しい事もあるわね。
「クラシオン」
「カミラ」
「急だったのに、ありがとう」
「いいえ、大丈夫」
先に来ていたアンヘリカも後々来ることを伝えると、今日話す事はアンヘリカも知っていると教えてくれた。
「どういうこと?」
三ヶ月後、王城主催の音楽会が開かれるらしい。
そこにカミラは王族代表として出演、その際のオーケストラに私をとのことだった。
他国の要職や音楽師を呼び開かれる事に加え、学園の交換留学についての会合もある手前、いくらか学生を出しておきたいらしい。
そこで私とアンヘリカに白羽の矢が立ったと。
私もアンヘリカも小さい頃から楽器に触れていた。
旦那様と結婚してからは、数えるぐらいしか弾いてなかったかしら。
「そうなの」
「ではクラシオン。王城へ定期的に通ってくれるわね?」
「ええと、それは、」
当然人前で演奏するとなると、日々の練習が必要になる。
学園の講義後、休日の一部を王城での練習にあてられると。
先日、勢いで行ってしまったけど、基本王城へは行かないよう旦那様から言われていた。
どうしたものかしら。
「は?」
「!」
気づかなかった。
開いた扉から、旦那様が珍しい声を上げて立っている。
顔が強張って、身体に力も入って……王女殿下の前で珍しいわ。
「ああ、クラメント公爵」
話は聞いていたかしらと、カミラが笑顔で応えた。
すぐに挨拶をし、雰囲気も柔和なものに変わった旦那様だったけど、その眉間の皺だけは変わらないままだった。
「出来れば、もう一度、簡単にお話を伺いたいのですが」
「ええ、構わないわ」
旦那様の後ろからアンヘリカ達も入ってくる。
全員が座ったところで、カミラが自ら説明し、その中で旦那様の顔はどんどん不機嫌になっていった。
やはり来てほしくない人物である私が、王城に通いだす事を良く思わないのだろう。
「王女殿下。大変申し訳ないのですが、名誉ある誘い、とてもではないのですが承服致しかねます」
「あら、どうして? 貴方も妻であるクラシオンが、ヴァイオリニストとして素晴らしい腕を持つ事は当然知っているのでしょう」
「ええ、ですが」
「ん……何が嫌なの?」
「え?」
砕けた調子で言う割に、声音に全然親しみがない。
笑顔も冷たい。ああこれはカミラ、少し怒っているわね。
旦那様もそれを察したのか、言葉を続けられず困惑している。
「畏まった言葉はいらないから、はっきり貴方の言葉で言ってみて。クラシオンを王城へ連れて行きたくない理由を」
「それは、」
旦那様が黙る。
お前言っちゃえよ、チャンスだぞと、ライムンダ侯爵が言っても、旦那様はうるさいと一蹴するだけ。
チャンス?
私との直接対決になってしまうと、スプレの二十四話から二十六話にかけての、対エスパダ最終戦になってしまうわね。
唯一、王城で戦ったのは、その三話だけだし。
「クラシオンは構わないんでしょ?」
「ええと、」
旦那様の様子を窺っても、こちらを見る事がない。
私個人としては興味がある。
敵陣視察も出来るし、スプレ抜きにしても、久しぶりにヴァイオリンを弾きたい思いもある。
なにより、騎士としての旦那様を間近で見られるというのも、心くすぐられる誘いだった。
「断る決定的なものがないのなら、もう命令にするわよ?」
「カミラ」
「王女殿下!」
学業にも支障がない。残りを休んでしまったとしても、このままなら卒業できる。
公爵家の事は正直、ラモンさえいれば回る。三ヶ月という短い期間だから。
はっきり断る事が出来る理由は、唯一、アルコとフレチャの件だけだろう。
けど、これは管轄が旦那様だ。
それを理由にする事は、自分の仕事ぶりを晒す事と同義だから、言えるはずもない。
というか、そもそも仲間だから、今すぐ捕まえるという断言も出来ないだろう。
「ではもう決定にするわね? これからクラシオンは、学業従事の時間を除き、祝日も合わせて極力王城へ来ることになります」
「そんな、」
「クラシオン、帰りは常に公爵と共に帰りなさい。さすれば市井にいる強力な犯罪者から守ってくれるでしょう」
「え?!」
手ずから守れば、貴方も安心ねと旦那様に微笑むカミラ。
カミラったら、まだ怒ってるわね。
対して旦那様は小さく唸った。
ここまできたら、もう断れないからだ。
そして唯一断れたかもしれない理由も潰された。
これは逃げられない。
「休み明けに詳しく伝えましょう。今日はこちらで失礼します」
にっこり笑ってカミラは去っていった。
アンヘリカはライムンダ侯爵が残って旦那様とお話をすると言うので、私は席を立った。
よし、今日も庭でエンディングを歌って踊る事にしよう。
旦那様には申し訳ないけど、王城に行けることに少し期待してしまっている。
久しぶりにヴァイオリンを弾けることも。
なにより、旦那様と一緒に帰れることも。
「ふふ、楽しみね」
不謹慎な気もするけど、旦那様との時間をとれることの喜びの方が勝っていた。
私ったら単純だわ。
使命を忘れないようにしないと。
カミラが事前連絡なしに来るのは初めてかしら、珍しい事もあるわね。
「クラシオン」
「カミラ」
「急だったのに、ありがとう」
「いいえ、大丈夫」
先に来ていたアンヘリカも後々来ることを伝えると、今日話す事はアンヘリカも知っていると教えてくれた。
「どういうこと?」
三ヶ月後、王城主催の音楽会が開かれるらしい。
そこにカミラは王族代表として出演、その際のオーケストラに私をとのことだった。
他国の要職や音楽師を呼び開かれる事に加え、学園の交換留学についての会合もある手前、いくらか学生を出しておきたいらしい。
そこで私とアンヘリカに白羽の矢が立ったと。
私もアンヘリカも小さい頃から楽器に触れていた。
旦那様と結婚してからは、数えるぐらいしか弾いてなかったかしら。
「そうなの」
「ではクラシオン。王城へ定期的に通ってくれるわね?」
「ええと、それは、」
当然人前で演奏するとなると、日々の練習が必要になる。
学園の講義後、休日の一部を王城での練習にあてられると。
先日、勢いで行ってしまったけど、基本王城へは行かないよう旦那様から言われていた。
どうしたものかしら。
「は?」
「!」
気づかなかった。
開いた扉から、旦那様が珍しい声を上げて立っている。
顔が強張って、身体に力も入って……王女殿下の前で珍しいわ。
「ああ、クラメント公爵」
話は聞いていたかしらと、カミラが笑顔で応えた。
すぐに挨拶をし、雰囲気も柔和なものに変わった旦那様だったけど、その眉間の皺だけは変わらないままだった。
「出来れば、もう一度、簡単にお話を伺いたいのですが」
「ええ、構わないわ」
旦那様の後ろからアンヘリカ達も入ってくる。
全員が座ったところで、カミラが自ら説明し、その中で旦那様の顔はどんどん不機嫌になっていった。
やはり来てほしくない人物である私が、王城に通いだす事を良く思わないのだろう。
「王女殿下。大変申し訳ないのですが、名誉ある誘い、とてもではないのですが承服致しかねます」
「あら、どうして? 貴方も妻であるクラシオンが、ヴァイオリニストとして素晴らしい腕を持つ事は当然知っているのでしょう」
「ええ、ですが」
「ん……何が嫌なの?」
「え?」
砕けた調子で言う割に、声音に全然親しみがない。
笑顔も冷たい。ああこれはカミラ、少し怒っているわね。
旦那様もそれを察したのか、言葉を続けられず困惑している。
「畏まった言葉はいらないから、はっきり貴方の言葉で言ってみて。クラシオンを王城へ連れて行きたくない理由を」
「それは、」
旦那様が黙る。
お前言っちゃえよ、チャンスだぞと、ライムンダ侯爵が言っても、旦那様はうるさいと一蹴するだけ。
チャンス?
私との直接対決になってしまうと、スプレの二十四話から二十六話にかけての、対エスパダ最終戦になってしまうわね。
唯一、王城で戦ったのは、その三話だけだし。
「クラシオンは構わないんでしょ?」
「ええと、」
旦那様の様子を窺っても、こちらを見る事がない。
私個人としては興味がある。
敵陣視察も出来るし、スプレ抜きにしても、久しぶりにヴァイオリンを弾きたい思いもある。
なにより、騎士としての旦那様を間近で見られるというのも、心くすぐられる誘いだった。
「断る決定的なものがないのなら、もう命令にするわよ?」
「カミラ」
「王女殿下!」
学業にも支障がない。残りを休んでしまったとしても、このままなら卒業できる。
公爵家の事は正直、ラモンさえいれば回る。三ヶ月という短い期間だから。
はっきり断る事が出来る理由は、唯一、アルコとフレチャの件だけだろう。
けど、これは管轄が旦那様だ。
それを理由にする事は、自分の仕事ぶりを晒す事と同義だから、言えるはずもない。
というか、そもそも仲間だから、今すぐ捕まえるという断言も出来ないだろう。
「ではもう決定にするわね? これからクラシオンは、学業従事の時間を除き、祝日も合わせて極力王城へ来ることになります」
「そんな、」
「クラシオン、帰りは常に公爵と共に帰りなさい。さすれば市井にいる強力な犯罪者から守ってくれるでしょう」
「え?!」
手ずから守れば、貴方も安心ねと旦那様に微笑むカミラ。
カミラったら、まだ怒ってるわね。
対して旦那様は小さく唸った。
ここまできたら、もう断れないからだ。
そして唯一断れたかもしれない理由も潰された。
これは逃げられない。
「休み明けに詳しく伝えましょう。今日はこちらで失礼します」
にっこり笑ってカミラは去っていった。
アンヘリカはライムンダ侯爵が残って旦那様とお話をすると言うので、私は席を立った。
よし、今日も庭でエンディングを歌って踊る事にしよう。
旦那様には申し訳ないけど、王城に行けることに少し期待してしまっている。
久しぶりにヴァイオリンを弾けることも。
なにより、旦那様と一緒に帰れることも。
「ふふ、楽しみね」
不謹慎な気もするけど、旦那様との時間をとれることの喜びの方が勝っていた。
私ったら単純だわ。
使命を忘れないようにしないと。
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