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23話 旦那様、相談する(二回目/旦那様視点)
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「おっす」
「まだ仕事か」
奴の王城での執務室は、相変わらず雑然としていて、座れと言われたソファーの上にも書類が散らばっている。
散らばる書類を整理しながら座ることにした。
こうしてここで書類整理やら処理やらするようになったから、内政の仕事も出来るようになってしまったのだから困ったものだ。
まさかそれが狙いなのか、マヌエルめ。
執務室には側近の者も護衛もいない。
私が来る時は、こういう配慮をしてくれてありがたいが、それ以外は大概失礼な奴だ。
「お前、まだリンちゃんに愛してるって言ってないだろ」
「いきなり、何を」
「まあだいぶやれてるとは思うけどなー」
早くに帰り、食事を共にし、定期的にプレゼントまで用意していた。
まあそれも罠だと言われた時は、それなりにショックだったが、今では洗脳が一時的に解けているとか、理性が戦っているから声が届くとか、そういった解釈になっている。
そう思えば、少しは進んでいるのではと個人的に思いはしている。
「そいや、スプレンダーの話、新聞で連載始めたから」
「は?!」
いきなり何を言い出すかと思えば。
クラシオンからスプレとスプリミの話を聴いたと言ってはいたが、それを新聞に? 連載だと?
「ほら、そこにあんだろ。明日発行のやつ」
「お前……」
「もうラングの存在が貴族界隈から市井まで広がってんだぜ? 戦士なリンちゃんに直接取材いくより、そういった形で注目を集めた方がマシだろ」
「正体はバレていない」
「まー、そうだけど」
明日発刊では止めようがない。
作者はマヌエルとアンヘリカ。二人の共同作ということか。
話を聴くに、限りなくてれびあにめのスプレに寄せて書いていくらしい。
その際、こちらのクラシオンに繋がらないようにするとか。
「陽動か」
「そういうこと」
ならば仕方ない。
確かにクラシオンが社交界、劇場、そして市井に度々現れた為に、人々に知られるようになってしまった。
挙句、人気を博しているという。
人目に晒したくなかったのに、どうしてこう私の意図と真逆を進んでいくのか。
「で? うまくいってるわけ?」
「前より話す機会は増えた」
「それだけかよ」
「あ、朝餉も共にしている」
朝、私より早起きをして、戦士としてのトレーニングを庭の奥でしているという。
出会ったばかりの頃も似たようなことをしていたなと思いつつ、トレーニングの終盤に合わせて赴き、食事にと誘ってみたら、クラシオンは喜んでと快諾してくれた。
「贈り物だって、まだきちんとやっている」
「渡せただけマシだけど、お前理由適当すぎだろ」
「何を」
「気が向いたとか言ってんだろ」
「ぐぐ」
そこは君に似合うだろうとか、君の事を想ってとか、君が好きな物をとか、そういう言葉に変えろと言われた。
クラシオンが笑って嬉しいと言ってくれるのだから、いいじゃないかと訴えるも、お前の洗脳が解けていない扱いなんだから、駄目だと一蹴された。
「あー、まー、既定路線でいくしかないかー」
「どうした」
「今度、王陛下の生誕で五日休みだろ」
「ああ」
「そこで告れ」
「何を」
「リンちゃん、いつも島行くだろ」
王陛下の誕生日は国全体を上げて祝うが、同時に全ての国民に休暇が与えられる。
我々は基本王城に控えるが、今年私は休みをもらった。
クラシオンは毎年、所有している離島の別荘で過ごしているが、共に行けとマヌエルは言う。
なんだ? クラシオンが別荘に行くから、あんなにごり押しで休みになったのか。
王女殿下から言い渡されたから、疑問ではあったが、まさかここに繋がるとは。
「島か」
「そーだよ。何か一つでも進展しろ」
「進展してるぞ」
クラシオンは私からの贈り物を嬉しいと喜んでいた。
笑いかけてくれる事も格段に増えたと思っている。
なのに、マヌエルは私の訴えに適当な相槌しか打たず、駄目だと否定の言葉しか寄越さない。
「健全な夫婦なら毎日愛してるぐらい言える」
「そ、れは……」
「ついでに、さっさとキスぐらい済ませろ」
「くっ」
それは勿論、気持ちとしてはしたいに決まっている。
不可抗力とはいえ、クラシオンを守る為に抱き寄せた時の事が思い出されて、頬が熱くなった。
ああ、今私は仕様のない顔をしているな。
「だ、抱きしめはした」
「あれはムードがないだろうが」
しかし、あんな華奢な腰で、全体的に小さくて柔い彼女を、何も理由なしに抱きしめろと?
危険から庇う為にという理由がない限り難しいだろう。
それに勢いとはいえ、きちんと気持ちを伝えようとは思った。
あの時は邪魔が入ったというか、時間切れで屋敷に着いてしまったから無理だったが……にしても、あの時触れたクラシオンの肌は、滑らかで柔らかく、吸い付くようで。
なによりあの近さ。
とても良い匂いがした。
香を纏っているのは知っていたが、あんなにも近くで感じると、どうしていいかわからなくなる。
それを踏まえた上で、愛を囁き、抱きしめて、キスをするなんて、理性が降り切れるに決まっているだろうに。
「お前、全部喋ってんぞ」
「なんだと!?」
「まだ仕事か」
奴の王城での執務室は、相変わらず雑然としていて、座れと言われたソファーの上にも書類が散らばっている。
散らばる書類を整理しながら座ることにした。
こうしてここで書類整理やら処理やらするようになったから、内政の仕事も出来るようになってしまったのだから困ったものだ。
まさかそれが狙いなのか、マヌエルめ。
執務室には側近の者も護衛もいない。
私が来る時は、こういう配慮をしてくれてありがたいが、それ以外は大概失礼な奴だ。
「お前、まだリンちゃんに愛してるって言ってないだろ」
「いきなり、何を」
「まあだいぶやれてるとは思うけどなー」
早くに帰り、食事を共にし、定期的にプレゼントまで用意していた。
まあそれも罠だと言われた時は、それなりにショックだったが、今では洗脳が一時的に解けているとか、理性が戦っているから声が届くとか、そういった解釈になっている。
そう思えば、少しは進んでいるのではと個人的に思いはしている。
「そいや、スプレンダーの話、新聞で連載始めたから」
「は?!」
いきなり何を言い出すかと思えば。
クラシオンからスプレとスプリミの話を聴いたと言ってはいたが、それを新聞に? 連載だと?
「ほら、そこにあんだろ。明日発行のやつ」
「お前……」
「もうラングの存在が貴族界隈から市井まで広がってんだぜ? 戦士なリンちゃんに直接取材いくより、そういった形で注目を集めた方がマシだろ」
「正体はバレていない」
「まー、そうだけど」
明日発刊では止めようがない。
作者はマヌエルとアンヘリカ。二人の共同作ということか。
話を聴くに、限りなくてれびあにめのスプレに寄せて書いていくらしい。
その際、こちらのクラシオンに繋がらないようにするとか。
「陽動か」
「そういうこと」
ならば仕方ない。
確かにクラシオンが社交界、劇場、そして市井に度々現れた為に、人々に知られるようになってしまった。
挙句、人気を博しているという。
人目に晒したくなかったのに、どうしてこう私の意図と真逆を進んでいくのか。
「で? うまくいってるわけ?」
「前より話す機会は増えた」
「それだけかよ」
「あ、朝餉も共にしている」
朝、私より早起きをして、戦士としてのトレーニングを庭の奥でしているという。
出会ったばかりの頃も似たようなことをしていたなと思いつつ、トレーニングの終盤に合わせて赴き、食事にと誘ってみたら、クラシオンは喜んでと快諾してくれた。
「贈り物だって、まだきちんとやっている」
「渡せただけマシだけど、お前理由適当すぎだろ」
「何を」
「気が向いたとか言ってんだろ」
「ぐぐ」
そこは君に似合うだろうとか、君の事を想ってとか、君が好きな物をとか、そういう言葉に変えろと言われた。
クラシオンが笑って嬉しいと言ってくれるのだから、いいじゃないかと訴えるも、お前の洗脳が解けていない扱いなんだから、駄目だと一蹴された。
「あー、まー、既定路線でいくしかないかー」
「どうした」
「今度、王陛下の生誕で五日休みだろ」
「ああ」
「そこで告れ」
「何を」
「リンちゃん、いつも島行くだろ」
王陛下の誕生日は国全体を上げて祝うが、同時に全ての国民に休暇が与えられる。
我々は基本王城に控えるが、今年私は休みをもらった。
クラシオンは毎年、所有している離島の別荘で過ごしているが、共に行けとマヌエルは言う。
なんだ? クラシオンが別荘に行くから、あんなにごり押しで休みになったのか。
王女殿下から言い渡されたから、疑問ではあったが、まさかここに繋がるとは。
「島か」
「そーだよ。何か一つでも進展しろ」
「進展してるぞ」
クラシオンは私からの贈り物を嬉しいと喜んでいた。
笑いかけてくれる事も格段に増えたと思っている。
なのに、マヌエルは私の訴えに適当な相槌しか打たず、駄目だと否定の言葉しか寄越さない。
「健全な夫婦なら毎日愛してるぐらい言える」
「そ、れは……」
「ついでに、さっさとキスぐらい済ませろ」
「くっ」
それは勿論、気持ちとしてはしたいに決まっている。
不可抗力とはいえ、クラシオンを守る為に抱き寄せた時の事が思い出されて、頬が熱くなった。
ああ、今私は仕様のない顔をしているな。
「だ、抱きしめはした」
「あれはムードがないだろうが」
しかし、あんな華奢な腰で、全体的に小さくて柔い彼女を、何も理由なしに抱きしめろと?
危険から庇う為にという理由がない限り難しいだろう。
それに勢いとはいえ、きちんと気持ちを伝えようとは思った。
あの時は邪魔が入ったというか、時間切れで屋敷に着いてしまったから無理だったが……にしても、あの時触れたクラシオンの肌は、滑らかで柔らかく、吸い付くようで。
なによりあの近さ。
とても良い匂いがした。
香を纏っているのは知っていたが、あんなにも近くで感じると、どうしていいかわからなくなる。
それを踏まえた上で、愛を囁き、抱きしめて、キスをするなんて、理性が降り切れるに決まっているだろうに。
「お前、全部喋ってんぞ」
「なんだと!?」
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