旦那様を救えるのは私だけ!

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24話 新手、性別男(旦那様視点)

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「お前、全部喋ってんぞ」
「なんだと!?」

 なんてことだ、全部言葉にしてたとは情けない。

「お前、中々キモいなあ?」
「うるさい!」

 まあ俺の話した事やれてんならマシだしなあと、マヌエルは手元の書類を纏めだした。
 見れば、退城の時間だ。

「よし、俺はもう帰るぞ」
「そうか」
「リンちゃん迎えに行ってやれ」
「ああ」
「また時間過ぎると、リンちゃんがお前を迎えに行くぞ」
「それはもうやるなと言った」
「知ってる」

 初めて城に練習に来た日、仕事で退城時間を過ぎてしまった私を、クラシオンは自ら迎えにやって来た。
 よりにもよって団員のいる時にだ。
 明るく旦那様と呼ぶものだから、その可愛らしい声に団員の大半はクラシオンの方を見やった。
 微笑みながら手を振るクラシオンを、そのほとんどが目に入れたということだ。
 急いで走ってクラシオンと奴らの間に入って彼女を見えないようにしたが、それも手遅れ。
 本当、あの日は最悪だった。
 翌日、浮足立った団員が奥さん今日も来ますかーなんて言ってきたものだから、訓練量倍にしてやった始末だ。

「なるたけ人目に触れぬよう帰らねば」
「手遅れだって」

 二度と来るな、迎えには必ず行くと伝えれば、彼女は戸惑っていた。
 辛い顔をさせたくなかったが、そこはマヌエルとアンヘリカが何かしら耳打ちをしていて、そのおかげで彼女の顔は曇る事がなかったが。

「お前、あの時クラシオンに何を言った」
「あー? なんでもいいじゃん」
「駄目だ、言え」

 お前って本当面倒、と大きく溜息を吐かれた。

「『照れ隠しだよ、あいつ自分からリンちゃん迎えに行きたいんだ。男って格好つけばっかなわけ』」
「な、照れ隠し、だと? か、格好つけ?」
「事実じゃん。でもリンちゃん喜んでたし」
「え……幻滅するのではなく?」
「おう。よかったな」
「……ああ」

 ということは誤解は免れたということか。
 感謝しろよとマヌエルが言っているが、今回ばかりは感謝してもいいかもしれない。

「助かった」
「うい」

 そういえば、とマヌエルが声音を落として囁いた。

「まだ裏がとれない」
「そうか」
「分かってても、中々尻尾掴めないからなあ」
「私としても、早くアルコとフレチャを捕らえたい」
「だよなー」

 あの二人を野放しにしておくしかないのは分かっている。
 最初こそ、奴らが幅を利かせている状況だったが、今はもう足もついているし、捕まえようと思えば捕まえられる程、包囲網は確立している。
 けれど、駄目だ。あの二人を手引きしている者に対しての動かぬ証拠を手に入れない事には。
 このまま放っておくことはクラシオンが奴らと相対することを意味する。
 クラシオンを危険に晒すわけにはいかないのにだ。

「私の方も、痕跡を辿ろうとしたが何も出なかった」
「本っ当、こっちのうわてをいってんなー」
「一部の騎士に任せている件でも成果がない」
「さすがってとこだな」

 焦ってはいけない事だと分かっていても、早くにという思いが出てくる。
 出来れば早くにクラシオンが手を引いてくれれば。
 そのためには、私の洗脳が解けたと思ってもらうことも、やはり必要になってくるのだろう。

「まああれだ、リンちゃん見守り大作戦と並行しつつってやつだな」
「その作戦名は有効だったのか」
「当たり前だろ」

 と、時計を見やれば、時間が間近になっていた。
 クラシオンを迎えに行かねば。

「おっといけね。リンちゃんによろしく」
「ああ」

 マヌエルの執務室を出る。
 気が急いて足取りが速くなった。
 いけない、ここは余裕を見せて歩くべきところなのに、どうにも抑える事が出来ない。
 それもこれも、マヌエルの言った、クラシオンが私の迎えを喜んでいるという言葉のせいだ。
 アルコとフレチャについての憂いはこの際置いておこう。
 なによりもまず、クラシオンを優先しないことには。

「くそ」

 まるで示しがつかないが、誰とも擦れ違わなかったのは行幸だ。
 クラシオンがいるのは練習用に用意された部屋で、元は王女殿下や王太子殿下たちが楽器演奏の学びの為に使っていたものだった。
 急いた私はうっかりノックもなしに戸を開けてしまい、焦って閉め直そうか逡巡したところで手が止まる。
 中から聞き慣れない男の声がしたからだ。

「僕は招待を受けグラン・シャリオから、こちらに滞在させて頂いています。フォーレ伯爵家の者です。ヴォルフガング・フォルトゥニーノ・フォーレと申します」
「まあ、そうでしたの」
「あまりにも美しい音色だったので、引き寄せられてしまったようです。勝手に入ってしまい失礼を」
「いいえ、お気になさらず」
「それにしても本当に美しい、貴方は」

 するりと男の手がクラシオンに伸びようとするのを見て、瞬時に頭に血が登った。
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