スターフィッシュ

珠華

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生徒会

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出会ってもう十年経つのに、薄れては消えることなく残る。

それは夜の海のように静かに。
波のように寄せては返し、寄せては返し。
波打ち際にはひっそりと。だけどしっかりと跡だけは残る。

あの日々はこの胸に今も鮮やかに残っているんだ。


彼と出会ったのは高校二年生の時。
きっかけは先生に誘われた生徒会。入る気がなかったのに、半分強制的に入れられた。
思えばここが私のターニングポイントだったのかもしれない。

「後期からお世話になります。二年の稲本兎です。」
「ん?」
「ウサギです。」
「本名?」
「そうです。」

こんなやり取りには慣れっこ。笑いたければ笑えばいい。
もう軽く流せるほどには大人になってきた・・・と自分で思う。
「イナバノウサギではないので気を付けて呼んでください。」
「・・・っ、あはははは!」
よし、掴みはいい感じ。と心の中でガッツポーズ。

「あんたは、目立ちたいのかそうじゃないのか・・・嫌、ただのあほなのか?」
隣では呆れ顔の香里がため息交じりにこっちを見ている。
「いいのー面白い日々を過ごせれば私はそれで!」
べーだ!と小学生かと思うような反応を返す。
「はいはい。」
香里は姉のように兎をあしらう。

「二年I組神田智史です。よろしくおねがいします。」
「同じく二年I組、前田隆。今期は生徒会長になりました。よろしく。」

時計回りに自己紹介が続く。
うちの学校では会長と副会長は生徒会選挙により選ばれるが、あとは基本有志で集まる。
今期は三年生5人、二年生8人、の13人が集まった。
「じゃ、稲本は書記なー!」
軽く、か~るく担当の米田先生が指名する。

「はい?それってこれからみんなで決めていく役割分担なんじゃ・・・」
「異議なーし!」
香里が早々と声をあげる。

「よろしくーうさぎちゃん!」
「因幡のウサギはさすがだなー」
先輩たちも後に続いて
「あーもういいですよっやります!」

「じゃ、書記が決まったところで、あと司会は会長の前田に任すなー。決まったら起こして。」
そういうが早いか、米田先生は椅子に深く腰かけたと思うとすっと寝息を立て始める。
あんたはのび太か!と心の中で悪態をつきながら書記の役目をさっそく果たす。

H17年後記生徒会
会長 前田隆
副会長 愛瀬浩太
書記 稲本兎
会計 神田智史
監査 小野屋 香里

「後記の役もちは二年生で。三年生は引き継ぎ要因と思ってくれたらいい。できるだけ来年度前期も残って自分たちの学校を盛り上げていってほしい。」
三年生の野田将先輩が後輩たちに激励する。

「じゃあ、今日はこれで解散。」

ガタガタガタ
一斉に椅子が引かれ、ばたつく生徒会室の隅でやっと先生が起きだす。
「おー終わったかー?」
あくび交じりに聞いてくる。

「あー疲れた!香里帰ろう!」
「はいはい。」
少し涼しくなってきた風をきりながら、二人は自転車で帰路についた。
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