最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

文字の大きさ
80 / 198
王国陰謀編

幕間 第一王子と川下り

しおりを挟む
私は午後の時間を執務室で過ごしていた。訓練の間も仕事は容赦なく溜まっていく。

しかし、少し運動したせいか、逆に目が冴えて執務にも身が入る。

その時、秘書が一通の招待状を持って来た。



「この蝋風のシーリングスタンプって王家の紋章……もしかして、ライアン様?」



私がペーパーナイフで開けると、そこにあった名前は予想と異なっていた。



「嘘でしょ!?なんでアッシャー様が私に?」

「なんて書いてあるの?マヤ」

「えっと、明日ブルックリン川で遊覧船に乗りませんかって書いてあるよ」

「どうするの、マヤ?」

「相手は王子様だしお断りするわけにもいかないでしょう。承諾のお返事を書かなくては」



私は便箋を取り出し、急いで返事を書いて秘書に渡した。



「何かライアン様について話が聞けると良いけど」

「とりあえず、明日の分まで仕事しないとだね」

「そうね、オーベロン……もうひと頑張りだわ」



私は腕まくりをして書類の山に取り掛かった。



私は翌日エミリーに支度してもらい、薄緑色の夏らしいドレスに身を包み、日傘を持って船着き場へと向かった。



(連日の訓練で日中紫外線と砂ぼこりにまみれているから、今更日傘なんて差しても仕方ないけど……これも淑女の嗜みってことよね)



船着き場に着くとそこには華麗に装飾されたボートが一艘浮かんでいた。



「よく来てくださった、マヤ殿。お手をどうぞ」

「この度はお招きありがとうございます、アッシャー様。遊覧船なんて初めてですわ」

「揺れますからお気をつけて。ええ、少々趣向を凝らしてみたのだけど。

 以前、あなたが僕と一緒のところを見られたら街を歩けないと言っていたから」

「まぁ、本気になさいましたの。それは失礼を」

「いや、お気になさらず。王族というのはどこに行っても注目される存在だからね……天幕を下ろそう。日差しからも視線からも隔絶されて、これで二人きりでだ」

「ご配慮痛み入ります」



二人は船頭に任せてゆっくりと川を下っていった。

街をこんな風に見て回ると、いつもと違う顔が見えてくる。



「この川って水がとても綺麗でインフラの整備も行き届いているし、多くの船が行き交っているのに、どの船もとてもマナーが良いわ。素敵な国ですね」

「異世界から来た貴殿に言われると嬉しいものだね。

 あちらではもっと文明が進んでいると聞いたけど」

「そうですね、魔法というエネルギーが無い分、他の資源を使って補っています。しかし、それが原因で環境問題を引き起こしているんです。 その点、この世界の自然は素晴らしいですわ。ほら、こんな都市部の川なのに、お魚が泳いでいるのが見えます」

「そうですね。でも、それは一部の魔法使いたちや魔法資源に依存しているということでもあるのだよ。僕のように無力な人間には肩身の狭い話だ」

「あら、アッシャー様はウィロウ王立魔法学園の出身ではないのですか?」

「ええ。僕には魔法使いの素養が無かったもので。

 魔法も使えて、勉強もできる弟とよく比べられてはいたたまれない思いをしたものだ……おっと、こんな話をするつもりは無かったんだけれど、

 マヤ殿と話しているとついつい口が軽くなってしまった」

「王族の方でしたら、大変なストレスの中でお暮しですよ。

 私で良ければいつでもお話くらいお聞きしますわ。ご兄弟の仲はよろしいんですか?」

「……異母兄弟だからね。仲良しとまでは言わないけれど、悪くはないんじゃないですかな。たまにゲームも一緒にするよ」

「ライアン様はいかがなさっていますか?もう長いことお話していなくって」

「ライアンは変わりないよ。時々レイラ嬢と一緒に王宮や王都を見て回っているようだ。先日はオペラを見に行ったと聞いたよ」

「……そうですか」

「そうだ、秋になったら一緒にハントに行かないかい?ライアンも一緒に」

「本当ですか?是非行きたいです」

「僕もハントに関しては自信があってね。三人で競争するのも楽しそうだ」

 それから二人は和やかに歓談した。

 揺れた拍子にアッシャーが後ろに身を投げ出され、私はその体を支えた。



「大丈夫ですか、アッシャー様?」

「支えてくれてありがとう、マヤ殿」



艶やかな長い金髪をすくいあげながら、にっこりと微笑んだ顔はライアンに似ていて、どこかが決定的に違っていた。



(どうしているのかな、ライアン……)



私もアッシャーに向かって笑いかけながらも、その思いを振り切ることができなかった。

やがて船は下流の船着き場に着いた。そこからは待機させていた馬車に乗り、街へと戻った。



「それでは楽しい一日をありがとうございました、アッシャー様」

「こちらこそ。いずれまた」



アッシャーはそう言い残すと王宮へと帰っていった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...