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王国陰謀編
国際博覧会と恋の行方~観覧車で花火を~
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その日のうちに私の元にエヴァンから手紙が来た。その内容はライアンの様子について端的に記述されていた。
「オーベロン、これってどういうことかな……ライアン様は魔法がかかっていないってこと?」
「いや、確かに魔法はかけられていたよ。だけど、それがどういう性質の魔法なのかはわからなかった」
「とりあえず、会ってみるしかなさそうね……」
私の胸に嫌な予感がよぎる。窓の外は秋雨がしとしとと降り続けていた。
それから三日後、ライアンから手紙が来た。私はいそいそと封を開け、中身を読み始めた。
「オーベロン、国際博覧会のコンサートに誘われたわ。一体どうして?私とコンサートに行った記憶があるから、今までの三人なら決して誘われないはずの場所だわ」
「今までとは違うかもしれないね……続きが書いてあるよ」
「お忍びでと書いてあるわね……あと、話したいことがあるって。何だろう?」
「とにかく、会うことができるんだ。マヤ、前向きに考えよう」
「そうね」
私はオーベロンに笑いかけたが、どうにも心が晴れなかった。もう一度手紙を読み直し、その端正な筆跡を指でなぞった。
翌週、私たちはフェアリーライトパレスの前で待ち合わせをした。ライアンはいつもの白い燕尾服でもはなく、ごくありふれたスーツ姿だった。仕立てのいい黒のジャケットにクリーム色のベストを着こみ、鮮やかな金髪を帽子で隠している。それでもその白皙の美貌は隠し切れていない。私も白のワンピースの上にモスグリーン生地で胸元が編み込まれている、一般的なドレスだった。
「こんにちは、ライアン様。本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます」
「こんにちは、クラキ殿。ご無沙汰しております。今日はよろしくお願いします」
ライアンは昔の様な柔和な笑顔とそして紳士的なふるまいは変わっていなかった。私たちはフェアリーライトパレスへと入場した。コンサートが始まるまで、様々なパビリオンを見て回った。ライアンは終始にこやかな表情だった。頃合いを見て中央ホールで席に座った。オーケストラが壮大で力強い演奏を行う。私がちらりと横を窺うと、ライアンは寛いだ様子で演奏を楽しんでいる。私は安堵しつつも不安に駆られていた。
(今までの三人と明らかに様子が違う……)
確かにライアンは誰にでも人当たりが良く、紳士的な性格だった。私はそっと好感度を確認する。小さな黒いハートが漂っている。それは全く揺らぎようのない事実である。嫌悪でもなくただ無関心。それが私のライアンが私に対する態度の評価だった。
「素晴らしい演奏ですね」
「そうですね。この国の音楽はレベルが高くて驚きます。また、ライアン様の演奏も聞きたいところですけれど」
「俺の演奏など聞かせられるものではありませんよ」
「そんなご謙遜を。以前聞かせて頂いた時は感動しましたわ」
「そういえば、そんなこともありましたね。喜んでいただけたなら良かったです」
ライアンは涼しい顔をしてそう答えた。私はきゅっとバッグを強く握りしめた。オーケストラは演奏を続ける。今度は荘厳で華麗な曲だった。
「彼女も連れてきたかったな……」
「彼女って?」
「いえ、何でも。失礼しました」
ライアンは柔らかく微笑んだが、私の心はざわついた。コンサートは定刻通りに終了した。そろそろ日も落ちてきたころ、私はライアンを目的地へと誘った。
「ライアン様、帰る前にあれに乗りませんか?」
「あれ、とは?もしかして……」
「ええ、観覧車です」
観覧車はこの国際博覧会の目玉だった。フローレンス王国の王都を一望できるとして観光客はこぞって、この世界では初めての観覧車に乗りたがった。私の提案から二年で完成までこぎつけるとは、正直私自身思っていなかった。しかし、この国の技術力と魔法科学によって完成させることができた。
「しかし、あの大行列ですよ。閉館までに乗れるかどうか」
「ご心配なく。この日のために乗車券を用意してまいりました」
私たちは担当者に乗車券を見せると、担当者は別口に通してくれた。その時、担当者はライアンの顔を見てあっと叫びそうになったが、私たちは二人で口に指を立て、担当者は慌てて口を押えた。観覧車に乗り込むと、ライアンは楽し気な笑い声をあげた。
「さっきの担当者の反応は愉快でしたね。しかし、他には誰も俺のことに気付かない。たまには庶民の真似も悪くないです」
「ライアン様の姿は写真や肖像画で国民の皆さんが良く存じていらっしゃいますからね。王子という立場を忘れて、こうして過ごすことも大切ですわ」
「そうですね。身分とは重たいものです。その点、学生時代は良かった……皆とともに学び、かけがえのない友を得ることができました」
友と私は口の中で呟いた。私はまたバッグを強く握った。その時、ライアンは外の風景に目をやった。
「クラキ殿、見て下さい。王都が見えますよ」
「……本当ですね」
そこには日が暮れ、街の明かりが幾数も灯り出した雄大で幻想的な情景が広がっていた。
「あそこには王城が見えますよ。遠くからだとあんな風に見えるんですね」
「ええ、とても立派な都です。この国の豊かさがよくわかります」
「観覧車と聞いた時、一体何をするものか見当もつきませんでした。しかし、こうして乗ってみて王都を一望すると、クラキ殿が何を見せたかったのか分かりました」
「この国の美しさを多くの人に実感してもらいたかったんです。お気に召して頂けて良かったです」
そして、とうとう頂点に達しようとした時、二人の目の前で花火が上がった。日が落ちた空がぱっと明るく照らされる。
「すごいな壮観だ……」
「今日はどこかで祭りでもしているのでしょうか?」
「さあ……しかし、高いところから見る花火もまた美しいですね」
「オーベロン、これってどういうことかな……ライアン様は魔法がかかっていないってこと?」
「いや、確かに魔法はかけられていたよ。だけど、それがどういう性質の魔法なのかはわからなかった」
「とりあえず、会ってみるしかなさそうね……」
私の胸に嫌な予感がよぎる。窓の外は秋雨がしとしとと降り続けていた。
それから三日後、ライアンから手紙が来た。私はいそいそと封を開け、中身を読み始めた。
「オーベロン、国際博覧会のコンサートに誘われたわ。一体どうして?私とコンサートに行った記憶があるから、今までの三人なら決して誘われないはずの場所だわ」
「今までとは違うかもしれないね……続きが書いてあるよ」
「お忍びでと書いてあるわね……あと、話したいことがあるって。何だろう?」
「とにかく、会うことができるんだ。マヤ、前向きに考えよう」
「そうね」
私はオーベロンに笑いかけたが、どうにも心が晴れなかった。もう一度手紙を読み直し、その端正な筆跡を指でなぞった。
翌週、私たちはフェアリーライトパレスの前で待ち合わせをした。ライアンはいつもの白い燕尾服でもはなく、ごくありふれたスーツ姿だった。仕立てのいい黒のジャケットにクリーム色のベストを着こみ、鮮やかな金髪を帽子で隠している。それでもその白皙の美貌は隠し切れていない。私も白のワンピースの上にモスグリーン生地で胸元が編み込まれている、一般的なドレスだった。
「こんにちは、ライアン様。本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます」
「こんにちは、クラキ殿。ご無沙汰しております。今日はよろしくお願いします」
ライアンは昔の様な柔和な笑顔とそして紳士的なふるまいは変わっていなかった。私たちはフェアリーライトパレスへと入場した。コンサートが始まるまで、様々なパビリオンを見て回った。ライアンは終始にこやかな表情だった。頃合いを見て中央ホールで席に座った。オーケストラが壮大で力強い演奏を行う。私がちらりと横を窺うと、ライアンは寛いだ様子で演奏を楽しんでいる。私は安堵しつつも不安に駆られていた。
(今までの三人と明らかに様子が違う……)
確かにライアンは誰にでも人当たりが良く、紳士的な性格だった。私はそっと好感度を確認する。小さな黒いハートが漂っている。それは全く揺らぎようのない事実である。嫌悪でもなくただ無関心。それが私のライアンが私に対する態度の評価だった。
「素晴らしい演奏ですね」
「そうですね。この国の音楽はレベルが高くて驚きます。また、ライアン様の演奏も聞きたいところですけれど」
「俺の演奏など聞かせられるものではありませんよ」
「そんなご謙遜を。以前聞かせて頂いた時は感動しましたわ」
「そういえば、そんなこともありましたね。喜んでいただけたなら良かったです」
ライアンは涼しい顔をしてそう答えた。私はきゅっとバッグを強く握りしめた。オーケストラは演奏を続ける。今度は荘厳で華麗な曲だった。
「彼女も連れてきたかったな……」
「彼女って?」
「いえ、何でも。失礼しました」
ライアンは柔らかく微笑んだが、私の心はざわついた。コンサートは定刻通りに終了した。そろそろ日も落ちてきたころ、私はライアンを目的地へと誘った。
「ライアン様、帰る前にあれに乗りませんか?」
「あれ、とは?もしかして……」
「ええ、観覧車です」
観覧車はこの国際博覧会の目玉だった。フローレンス王国の王都を一望できるとして観光客はこぞって、この世界では初めての観覧車に乗りたがった。私の提案から二年で完成までこぎつけるとは、正直私自身思っていなかった。しかし、この国の技術力と魔法科学によって完成させることができた。
「しかし、あの大行列ですよ。閉館までに乗れるかどうか」
「ご心配なく。この日のために乗車券を用意してまいりました」
私たちは担当者に乗車券を見せると、担当者は別口に通してくれた。その時、担当者はライアンの顔を見てあっと叫びそうになったが、私たちは二人で口に指を立て、担当者は慌てて口を押えた。観覧車に乗り込むと、ライアンは楽し気な笑い声をあげた。
「さっきの担当者の反応は愉快でしたね。しかし、他には誰も俺のことに気付かない。たまには庶民の真似も悪くないです」
「ライアン様の姿は写真や肖像画で国民の皆さんが良く存じていらっしゃいますからね。王子という立場を忘れて、こうして過ごすことも大切ですわ」
「そうですね。身分とは重たいものです。その点、学生時代は良かった……皆とともに学び、かけがえのない友を得ることができました」
友と私は口の中で呟いた。私はまたバッグを強く握った。その時、ライアンは外の風景に目をやった。
「クラキ殿、見て下さい。王都が見えますよ」
「……本当ですね」
そこには日が暮れ、街の明かりが幾数も灯り出した雄大で幻想的な情景が広がっていた。
「あそこには王城が見えますよ。遠くからだとあんな風に見えるんですね」
「ええ、とても立派な都です。この国の豊かさがよくわかります」
「観覧車と聞いた時、一体何をするものか見当もつきませんでした。しかし、こうして乗ってみて王都を一望すると、クラキ殿が何を見せたかったのか分かりました」
「この国の美しさを多くの人に実感してもらいたかったんです。お気に召して頂けて良かったです」
そして、とうとう頂点に達しようとした時、二人の目の前で花火が上がった。日が落ちた空がぱっと明るく照らされる。
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