最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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大陸放浪編

終わりへの道程~悲しみの村~ 本文編集

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 次に目を覚ますと、そこは知らない部屋のベッドの上だった。

起きようとすると全身に痛みが走った。

しかし身体中に治癒呪文がかけられ、所々湿布が貼られていた。

そこでやっとルークが隣の椅子でうたた寝をしていることに気が付いた。

その顔には疲労の色が濃い。

私が身動きした気配でルークは目を開けた。



「……起きたか?」

「ルークさんが治療してくれたんですか? ありがとうございます」

「お礼は良いが、あんた、今自分の恰好がどうなってるかわかってるか?」



私が視線を落とすと下着状態だった。

慌てて、私は布団を被った。



「治療する都合で脱がせた。まぁ、一度見てるし、気にすんな」

「気にしますよ!変なことしてないですよね?!」

「あのなぁ……ボロボロのあんたに何かする訳ないだろ。なんであんな雑魚相手に後れを取った?」

「それは……えっと……」

「当ててやる。あんた、あの戦場から戻って人を傷つけられなくなったんだろう?」

「……はい」

「あいつらは村中の人間を無差別に女子供も老人も病人も関係なく殺した。おれは屋敷で男たちの仲間に遭遇して倒した後、まだ息が残っていたあの子供に治癒魔法をかけていた……のベッドを見ろ」



そこには十歳ほどの少年が眠っていた。



「おれはあんたなら大丈夫だと思っていた。けど、違ったようだな……自分の身も守れない奴が、西大陸の人間を救えると本気で思ってるのか? あんたに……もしものことがあったら、おれは……どうしたら良かった?」



ルークの声色が言葉を切る度に変わる。

私への失望、怒り、そして最後の言葉は身を切られるような痛ましい響きだった。

ルークのローブは血で汚れている。

私の代わりに、ルークがすべて背負ってくれたのだ。



「ごめんなさい……」

「わかってくれ。あんたの存在がどれほど重要かと。おれがいくら手を汚しても構わない。だから、どうか、自分を大切にしてくれ」



そう言い残すとルークは部屋を出た。

私は何か考えようとして、何も考えられず、再び眠りに落ちていった。









 夢を見た。どこからか声がする。



「覚悟はできた?」

「大切なものを守るために私はもう躊躇いません」



「それが誰かを傷つける選択になっても?」

「それでも前に進む。必ず世界樹を復活させる」



「どんな残酷な運命が待っていても?」

「そこに希望があるなら、私は最後まで抗い続ける」



「果たして、自らの運命を知っても同じことが言えるかな。見守ろう、聖女よ」



 次に起きるともう昼過ぎになっていた。

身体もなんとか動かせる程度に回復していた。

隣のベッドに寝ていた少年は既にいなかった。

私は何とか服を着て、痛む体を引きずりながら、外に出た。

そこには多くの人間で村が満ちていた。



「何をしているのですか?」

「ああ?埋葬だよ。オレらは隣町のもんだ。青嵐の騎士様が強盗を捕縛したって今朝方やってきたんだ。それで村中の人間が死んでるっていうから手伝いに来たって訳だ」

「あの、男の子はどうしました? 十歳くらいの男の子なんですけど」

「ああ。青嵐の騎士様が男の子を連れて医者に診せてたよ。命に別状はないってさ。心配いらないよ」



私はその言葉で安堵した。

その時、ルークがやってきた。



「あんた、もう体調は良いのか?」

「ええ。何とか動けるまでに回復しました。すぐに出発しましょう」

「……わかった。ここでの作業ももう任せてもいいだろう。だが、あんたはあれから二日眠っていた。まずは食事を摂れ」



ルークは炊き出しをやっている村の広場まで私を連れて行った。

「悪いが、こいつに食事を頼む」

「ああ、青嵐の騎士様。良いですよ、ちょうど出来たところですから」



出てきたのは大麦とキュウリのピクルスが入ったこの国の伝統的なスープだった。

それをゆっくり口に運ぶ。



「あれから、どうなりましたか?」

「強盗団を憲兵に引き渡し、男の子は医者の所へ連れて行った。人を集めて埋葬している」

「……何人、亡くなったんですか?」

「……知らなくてもいいだろう。知ったところでどうにもならない」

「そう、ですね……男の子助かったって聞きました。良かったです」

「母親が庇ってたからな。唯一の生存者で、目撃者だ。あいつらも司法によって相応の裁きをうけるだろう」

「私、ルークさんは強いと思ってました。でも違いました。私が弱かった、愚かだっただけでした。エヴァンに言われました。『死ぬ覚悟がない。西大陸の人間を救うならリスクを理解すべきだ』って。私はその意味がわかりませんでした。やっと、少しわかったような気がします。この先に待っているのは希望だけではない。そうなんでしょう、ルークさん?」

「いつだって、誰だってそんな綺麗なものだけでできている人生なんてありはしねぇよ。どんなに恵まれているやつでも、辛いことはあるし、どん底の中でだって幸せや希望がある。おれにとってそれがあんただ……これからどんなことがあっても、それだけは忘れないでいてくれよ」



私が食べきるのを待たずに、ルークはどこかへと消えた。

夕刻、私たちは名も知らない悲しみの残る村から旅立った。

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