最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

文字の大きさ
178 / 198
大陸放浪編

英雄の回想~苦悩~

しおりを挟む
 おれたちの旅は基本的に強行軍だった。

雨風は基本的におれの魔法で制御できたし、マヤは野宿でも文句を言わなかった。

思えばヨットの旅でもあんな質素な食事でも黙って食べていた。

いつもは上流階級の一人として豪勢な食事をとっていただろうに。

その日も大雨の中、おれたちは橋を渡ろうとした。

しかし、増水した川に流されて橋は跡形も無かった。

仕方なく引き返すことにしたが、一つ前の町の宿屋は満室だった。

この大雨の中、野宿するわけにもいかず、おれたちは同室で眠ることになった。



 叩きつけるような大雨の音の中で、何となく眠れなかった。

野宿やヨットの旅で二人っきりなのは慣れているはずなのだが、かすかな呼吸や衣擦れの音すらも耳をすませてしまう。

おれはおもむろにマヤに声をかけた。

マヤも眠れずにいたようだった。

おれはずっと疑問だったことを尋ねた。



「元の世界に未練は無かったのか?」

「両親は優秀な兄と綺麗な妹が大切で、私に無関心でした。恋人もいなかったし、数少ない友人たちとも疎遠でしたし……この世界に来るまで気が付かなかったけれど孤独だったんです」



孤独か。



この世界でのマヤは地位も名声も得て、マヤを大切に想っている人間だっている。

それでもマヤが異邦人であることは変わらない。

その魔力も召喚能力も妖精の加護も、マヤを孤高の存在にしている。

そして、その全てのせいで軸の候補に選ばれてしまった。



「ルークさんのご家族はどうしてるんですか?」

「母親は死んだ。父親は顔を見たことも無い。母親は召喚士だった」

「アスターファさんですか?」



おれはその言葉には返事をしなかった。



「ある時国を追放された。それから行商人の護衛として、おれを連れていろんな国を巡った。だから学校にも行ったことは無い。母と周りの大人に言葉と算数を教わって、あとは本から学んだ」



その頃のことが脳裏に蘇る。

この髪といつまでも歳を取らないこの体質のせいで、随分気味悪がられた。

それでも人間というものを嫌わずにいられたのは、旅の仲間たちがおれを受け入れ、母が助けた人たちから感謝されたからだ。



「母親が歳を取って旅を続けられなくなって、最期を看取った。それからまた今度は一人で旅に出た……だから、誰かと一緒に旅をするのは本当に久しぶりなんだ」



老いた母を小さな平和な村で看取った。

最期まで優しく、おれの未来を案じてくれた。

母の葬儀を終えると、おれは家を引き払い旅に出た。

排斥された記憶からどこかに定住せず、母の影響で困っている人間を見放すこともできなかった。

おれもまた名声を得たが、孤独な旅路でもあった。

そんなことを思い返していると、マヤが口を開いた。



「つねによい目的を見失わずに努力を続ける限り、最後は必ず救われるって言葉が元いた世界にありました。私たちもこの大陸を絶対に救いましょう」



その言葉を聞いた時、おれは心の中で叫んだ。



おれかマヤのどちらかが死ななければ、世界が終わってしまうのだと。



欺き続けてきた罪悪感がおれの心に影を落とす。

それと同時にマヤと旅を続けたい、生き続けたいという気持ちが強く芽生えていることに気が付いた。

神様だか運命だか知らないが、そいつは残酷だ。

なぜ、おれとマヤを選んだのだろうか。

この西大陸には山ほど人がいるのに、どうしておれたちなんだろう。



おれの怨嗟は雨の音に消されて、マヤには届かなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。 それが約50年前。 聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。 英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。 俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。 でも…英雄は5人もいらないな。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...