最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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大陸放浪編

英雄の回想~略奪~

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エイブリー帝国までの約ひと月の道のりの間、おれは悩み続けた。

罪悪感と恐怖との戦いだった。

エイブリー帝国へ着かなければいい。

それでも一歩一歩近づいてきていた。



ある町の宿屋のことだった。男たちの会話を聞いたのは。



「眠り病のことは知ってるだろう?それで小さな村や町では強盗が多発してるんだ。眠った人間の家に入り込んで金品を奪い、目撃者は殺す……だから、どんな奴が何人でやってくるかもわからない」



「大きな町や市にいるのが一番だよ……一体、何だってこんな妙な病が流行ってるのかね。とある村では眠り病にかかるとうつらないように生きたまま焼くって聞いたよ」



「そんな……」



マヤはショックを受けて絶句していた。

無知とは恐ろしいものだ。

そして人間は浅ましく、平気で弱者を踏みにじる。

自己保身から、自己利益から。

おれはそういう人間を山ほど見てきた。

いずれこうなるだろうと、半ば予想もついていた。

だが、おれが危険だと告げても、マヤには実感できなかっただろう。



マヤは悲しいほど、人を信じているから。



 それからのマヤは必死でおれに追いすがって来た。

一刻も早くエイブリー帝国へ、妖精の森へ世界樹に向かって走り続けていた。

それは朝早くに立ち寄った村のことだった。

風から死臭がした。

駐在所では憲兵が殺されていた。

その身体にはまだ温もりが残っていた。

おれは周囲の警戒に当たるようにマヤに言い置いて、住民の家屋を見て回った。

家は物が散乱し、家人は新台で眠っていたところを切り殺されていた。

中にはまだ犯人が残っているかもしれないし、マヤにこんな悲惨な状態を見せたくなかった。

そして数軒目の家で、おれはとうとう強盗団の男たちと遭遇した。

男たちは瞬殺し、すぐに得物を取り上げて捕縛した。

だが、問題は母親と思しき女性の下で血塗れになっている男児だった。

ほとんどが母親の血だが、止血しなければ命に係わる危険性もある。

その時、外でも戦闘が始まった音がした。

おれは焦りながらも、男児に必死に救命措置を取り、治癒魔法をかけ続けていた。



 ひとまず、男児の状態は持ち直した。

おれはマヤの元へと向かった。

強盗犯たちの戦闘力はさほど高くない。

マヤなら後れを取ることないと思っていた。

だが大きな落下音が聞こえた。

おれが外に出るとマヤが仰向けに倒れこんでいた。

泥だらけで、ゴミのように地面に転がっていた。



おれの心臓が強く速く脈打つのを感じた。



「おい、お前ら、マヤに何をしてくれたんだ?」



「青髪青目……! お前は、もしかして、青嵐の!?」

「ほぉ、おれのことを知っているわけだ。それじゃあ、お前がこれからどうなるかも理解できるな?」



おれは自分が抑えきれなくなっていた。

ゆっくりとマヤに近づく。

マヤは意識を失っていた。

おれを取り巻く風が土ぼこりを上げ、どんどんと大きくなっていく。



「止めてくれ、青嵐の騎士相手に勝てるわけがない!」

「何を言ってるんだ。お前たちこそ無抵抗の人間を散々殺してきたくせに……! 相応の報いは受けてもらうぞ」



おれは男に向かって、無数の風の刃を浴びせかけた。

男は全身を切り裂かれて、苦痛の悲鳴を上げた。



「目が……!! 目が見えねえ!」



男の両眼から血の雫が零れ落ちる。

おれは男の顔を足で踏みつけて告げた。



「お前が蹂躙してきた命に比べれば、こんな苦痛大したことじゃない。マヤはおれの女だ。お前ごときが触れるな。穢れる」

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