【完結】あやかし蔵の酒造り

三ツ矢

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ひやおろしと官能検査 新たな出会い

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 九月に入って急に秋めいてきた。この山奥の蔵の夏は短いらしい。この季節が来ると酒蔵は冷やおろしの時期に入る。
冷やおろしとは冬に絞った酒を春先に火入れをして夏も冷たいタンクで秋まで熟成させ、秋になり涼しくなって外気温とタンク内温度が同じくらいになったら出荷される。一度目の火入れは熟成を進めるために行われ、二度目は熟成された香りや味を守るために行われない。
 つまり俺にとってどういうことかと言うと、瓶詰が忙しい時期になる。

「いやぁ、今年は徳明君がいて良かったわぁ。例年のこの時期は忙しいのよ。まぁ、年末に比べればマシだけれどね。それでも一人いるのと居ないとのじゃ違うわぁ」
「そうだね。いないよりは助かるね」

 大久保の言葉に渋々ながら船越が同意した。それに気付いた大納川が軽く小突いた。

「もう少し時間があったら、もっと瓶詰について仕込んでやれたんだがなぁ。蔵に戻って、辛くなったらこっちに来いよ」

 軽口を叩くがその中に秘められた優しさに俺は思わずじんとした。半人前の迷惑かけっぱなしだった俺でも、そう言ってくれるのはやはり嬉しさがあった。
 どんどん酒が詰められた瓶が流れていく。営業の人たちも慌ただしく各酒販店を回る。冷やおろしは純米吟醸の区分になり、量販店ではあまり扱われない。小さな地域の酒店へ主に卸されることになる。冷やおろしの瓶詰が終わるといよいよ蔵の準備に取り掛かる。
 十一月の醸造開始に向けていよいよ長い冬が始まるのだ。
 
 その前に俺は清酒官能評価セミナーへとやってきていた。会場にはスーツの人から作業着の人、年齢も千差万別。俺は空いた席に座って開始されるのを待っていると

「隣、良いですか?」

 そこにはスーツ姿の女性が立っていた。ショートカットが色白の彼女に活発な印象を与えている。

「どうぞ」

 ありがとうございますと言って彼女は席に座った。そして名札を示して

伊達酒造だてしゅぞうの勝山と申します」

 と名乗ってきた。受付で配られた名札には所属している団体名が記載されている。俺も慌てて

「神河酒造の徳明です」

 と名乗った。

「神河酒造ってどちらにあるんですか?」
「中部地方のド田舎ですよ。伊達酒造はどちらに?」

 俺が聞き返すと、

「伊達酒造は東北です。友成というお酒を出しています」

 有名な銘柄だ。日本酒に疎い俺でも知っている。

「大きな蔵からいらしたんですね」
「まだ新人なので毎日大変です」

 勝山はそう言って苦笑した。
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