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記憶迴
望む人格
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わかってたんだ。本当は会わない方がよかった。ましてや恋人なんて。これは、あいつを裏切った報いなのだろうか。だとしても…だとしても…。
ふと、俺は過去に浸っていた。
俺には礼人に会う前に、いわゆる「好きな子」が出来た。
彼女は明るく、出来損ないの俺の話も親身になって聞いてくれた。放課後に来るひとときの会話時間。いつしか、俺の心のよりどころになっていた。でも、そんな上手い話が続くなんて、あり得ないことだった。
その頃から俺は強くなってきて、裏の世界にも首を突っ込むようになっていた。それが、俺の人生をめちゃくちゃにすることも知らずに。
いつものように、その女の子と話していた。するといきなり、
「木霊朝洋だな。俺は隣の町で組長やってるもんなんだけどな、お前にうちの組のやつがやられたっていわれてな~、売られたけんか、買いに来たぜ」
どうやら、この前やった奴らがこいつらの手下だったらしい。
「おい、今はやめろ。女がいる」
「そんな甘々な考えが通るなら今ごろこの世はヤクザ大国になってるぞ」
っち…。
「おい、逃げるぞ」
彼女の返事も待たずに俺は彼女の手を握り、思いっきり駆けだした。しかし、頭の悪かった俺は、いつの間にか路地に追い込まれてた。
「なあ、女がいるから戦えねぇんだろ?だったら、大人しくしとけよ。俺がお前を」
そう言い、一丁の銃を抜き取り、
「殺すから」
そして引き金を引いた。けたましい轟音とともに、どさっと倒れる音がした。目の前には、俺を庇い、銃弾をくらい、倒れ込んだ彼女の姿があった。
「お…おい…どうしたんだよ?」
「わ…たし…」
「なあ!なんで俺を庇った!なんで!なんで俺なんかを!」
「だっ…て…わた…し…」
愛する人が呻きながら話す姿は、一種の拷問だった。
「だっ…て…ともちゃんのことが…好き…だった…から…。だ…から…わたし…のぶん…まで…」
「なに…言ってんだよ…」
「もっと…はやく…好きって…言えば…よかっ…た…」
一筋の涙が彼女の最後を飾った。
「バカ…俺も好きだったのに…」
そのあと、撃った奴らは人を殺したというので逃げていき、そのまま捕まった。あのときの後悔が、俺の人生をめちゃくちゃにしていき、礼人に会うまでは生きる屍のように生活をしていた。
「なんで僕は京都なんかにいるんだ?」
すっかり「男の娘」になった礼人が脳天気にそう言った。
「なあ、せっかくだし、京都観光していかねえか?」
なんだかぎこちない話し方でそう言った。
「うん。観光してから帰るよ」
…。
「わりぃ、ちょっとトイレ行って来るわ」
「うん、行ってらっしゃ~い」
「…っぐ…礼…人。あんまりだろ…」
一人、トイレの中で泣いていた。泣く権利なんてないのはわかってた。でも、だからって礼人が…。ようやく掴みかけたその人生は、まるでジェンガのように、音をたてて崩れていった。一人トイレで、呻くように泣いていた。
僕の記憶は消えている。
それは、朝洋くんと言う子のおかげでそれが実感出来た。
だったらどこまでの記憶を消されたのか?それがわからないから、僕は途方にくれていた。
でも、何故か式神や刀華さんの事だけは覚えていた。もしかしたら、その回りの風景画を思い出せば、そんな甘い考えは通るわけもなく、結局何も分からないままで、その日を終えた。
夜、うなされるような不快感と一緒に、うっすらと何かが見えたような気がした。
「…やっぱり、消しておいて正解みたいね…それにしても、本当にあれが効くなんてね…」
「僕の記憶って…」
澄んだ空に嫉妬して、そう吐き捨てた。モヤモヤとした気持ちが体中を駆け巡って、うう…と呻ってしまう。
「でも…」
僕の使命は一つ。
裏神をすべて消し去る。これに他ならなかった。
この世のバグ。不具合なら、そんな物消してしまったって構わないんだから。それに、この「覇眼」さえあれば、大抵の裏神は軽く捻れる。自分の目なのに、
「よくできた目だよな~」
と、自画自賛していたら、
「何がよくできてるんだ?」
と、声がした。
朝洋くんでもない。この声は…
「誰?」
「やっぱり…覚えてない…か…」
と、いかにも好青年と言うような子が立っていた。
「僕の名前は怪夢。君の…敵にあたる人だ。以後、お見知りおきを」
「な、何しにきたの…?」
「いや…ただ、君が本当に記憶を無くしてるのかを確認しにきただけだよ」
そう言うと、いつの間にか姿は消えていた。
「また僕の望む礼人君になってくれ…期待してるからな…」
あの子の…望む?
気がつけば、どこかで、あの子に出会った感覚を植え付けられていた。
「くそ…邪魔しやがって…この計画は絶対に成功させるんだ…絶対に…」
そんな苦痛に満ちた独り言が、満月の夜を妖しく照らした。
ふと、俺は過去に浸っていた。
俺には礼人に会う前に、いわゆる「好きな子」が出来た。
彼女は明るく、出来損ないの俺の話も親身になって聞いてくれた。放課後に来るひとときの会話時間。いつしか、俺の心のよりどころになっていた。でも、そんな上手い話が続くなんて、あり得ないことだった。
その頃から俺は強くなってきて、裏の世界にも首を突っ込むようになっていた。それが、俺の人生をめちゃくちゃにすることも知らずに。
いつものように、その女の子と話していた。するといきなり、
「木霊朝洋だな。俺は隣の町で組長やってるもんなんだけどな、お前にうちの組のやつがやられたっていわれてな~、売られたけんか、買いに来たぜ」
どうやら、この前やった奴らがこいつらの手下だったらしい。
「おい、今はやめろ。女がいる」
「そんな甘々な考えが通るなら今ごろこの世はヤクザ大国になってるぞ」
っち…。
「おい、逃げるぞ」
彼女の返事も待たずに俺は彼女の手を握り、思いっきり駆けだした。しかし、頭の悪かった俺は、いつの間にか路地に追い込まれてた。
「なあ、女がいるから戦えねぇんだろ?だったら、大人しくしとけよ。俺がお前を」
そう言い、一丁の銃を抜き取り、
「殺すから」
そして引き金を引いた。けたましい轟音とともに、どさっと倒れる音がした。目の前には、俺を庇い、銃弾をくらい、倒れ込んだ彼女の姿があった。
「お…おい…どうしたんだよ?」
「わ…たし…」
「なあ!なんで俺を庇った!なんで!なんで俺なんかを!」
「だっ…て…わた…し…」
愛する人が呻きながら話す姿は、一種の拷問だった。
「だっ…て…ともちゃんのことが…好き…だった…から…。だ…から…わたし…のぶん…まで…」
「なに…言ってんだよ…」
「もっと…はやく…好きって…言えば…よかっ…た…」
一筋の涙が彼女の最後を飾った。
「バカ…俺も好きだったのに…」
そのあと、撃った奴らは人を殺したというので逃げていき、そのまま捕まった。あのときの後悔が、俺の人生をめちゃくちゃにしていき、礼人に会うまでは生きる屍のように生活をしていた。
「なんで僕は京都なんかにいるんだ?」
すっかり「男の娘」になった礼人が脳天気にそう言った。
「なあ、せっかくだし、京都観光していかねえか?」
なんだかぎこちない話し方でそう言った。
「うん。観光してから帰るよ」
…。
「わりぃ、ちょっとトイレ行って来るわ」
「うん、行ってらっしゃ~い」
「…っぐ…礼…人。あんまりだろ…」
一人、トイレの中で泣いていた。泣く権利なんてないのはわかってた。でも、だからって礼人が…。ようやく掴みかけたその人生は、まるでジェンガのように、音をたてて崩れていった。一人トイレで、呻くように泣いていた。
僕の記憶は消えている。
それは、朝洋くんと言う子のおかげでそれが実感出来た。
だったらどこまでの記憶を消されたのか?それがわからないから、僕は途方にくれていた。
でも、何故か式神や刀華さんの事だけは覚えていた。もしかしたら、その回りの風景画を思い出せば、そんな甘い考えは通るわけもなく、結局何も分からないままで、その日を終えた。
夜、うなされるような不快感と一緒に、うっすらと何かが見えたような気がした。
「…やっぱり、消しておいて正解みたいね…それにしても、本当にあれが効くなんてね…」
「僕の記憶って…」
澄んだ空に嫉妬して、そう吐き捨てた。モヤモヤとした気持ちが体中を駆け巡って、うう…と呻ってしまう。
「でも…」
僕の使命は一つ。
裏神をすべて消し去る。これに他ならなかった。
この世のバグ。不具合なら、そんな物消してしまったって構わないんだから。それに、この「覇眼」さえあれば、大抵の裏神は軽く捻れる。自分の目なのに、
「よくできた目だよな~」
と、自画自賛していたら、
「何がよくできてるんだ?」
と、声がした。
朝洋くんでもない。この声は…
「誰?」
「やっぱり…覚えてない…か…」
と、いかにも好青年と言うような子が立っていた。
「僕の名前は怪夢。君の…敵にあたる人だ。以後、お見知りおきを」
「な、何しにきたの…?」
「いや…ただ、君が本当に記憶を無くしてるのかを確認しにきただけだよ」
そう言うと、いつの間にか姿は消えていた。
「また僕の望む礼人君になってくれ…期待してるからな…」
あの子の…望む?
気がつけば、どこかで、あの子に出会った感覚を植え付けられていた。
「くそ…邪魔しやがって…この計画は絶対に成功させるんだ…絶対に…」
そんな苦痛に満ちた独り言が、満月の夜を妖しく照らした。
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