R. I. P. 【6 feet under】

ギイル

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一章

ディム

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――ようこそ…
誰かの声を水底で聞いたような感覚。
人が死ぬ時は最後に聴力が失われると何処かの誰かが言った気がする。そんなぼんやりとした考えを抱きながらメイムはふとまた目を覚ました。
――ようこそ、R地区へ。名無メイム様。
「どうも…」
縫い合わさったように思い瞼をゆっくりと持ち上げる。あまりの眩しさにメイムは思い切り顔を顰めた。
――本日は快晴。最高気温は22℃、最低気温は15℃と比較的穏やかな1日でしょう。湿度は25%、洗濯物は良く乾きます。
なるほど、よくできていると、メイムは一人関心していた。
「リスポーン地点ってことね」
――その通りです、メイム様。
見覚えのない石造りの天井、大きく取られた採光部。
メイムは首だけを左右に振って室内を隈無く見渡した。
多少の年期が入ってはいるものの、埃っぽくもなく蜘蛛の巣もない、近未来的な外観とは齟齬のある西洋風の内装だ。家具も生活用品も最低限の生活ができるように用意されているようで、ご丁寧に窓際には花まで活けられていた。
軽く手で顔を擦って降り注いだ光を眺め、そしてまた力なく腕を放り出す。なんの反発もなく手を受け止めたマットレスは薄く、長居するには居心地が悪そうだ。
「それで、今日は何日?」
――メイム様がこちらに来られて1日が過ぎました。
「君、名前は?」
――お忘れでしょうか。
「あー、なんだっけ。登録の時に聞いた声だ」
――左様でございます。
男とも女ともつかない電子音に乗った声は枕元から発せられているようだった。まだ気怠い体を無理矢理反転させて体勢をうつ伏せへと変える。枕に一度埋めた顔を少しもたげて、声の方に目をやった。
DEMディム
――左様でございます。
果たして何の略称だったか。メイムは一人頭を悩ませながら枕に頬を擦り付ける。
「じゃあ俺の目的も把握してるよね」
――ご友人の捜索と伺っております。
「姓がミタマ、名がモト。字と号は知らない」
――それはわたくしに情報の提示を求めておられますか。申し訳ございませんが…
「規約により個人情報の開示は本人の同意無しにはできません、でしょ。前にも聞いたよ」
どうしようもない気持ちを乗せる言葉も思い浮かばず、枕に鼻先を埋めて「あー」とも「うー」ともつかない声を出す。ひと通り肺の中の空気を吐き切った後に、また息を吸って大きなため息を一つ吐いた。おろしたての綿の匂いに混じって、もったりとした花の香りがした。
「どうしてモトは俺のメッセージに応えてくれないんだろう」
ディムがその答えを持っているわけでもなく、ただ呟いた言葉は虚しく部屋の中で霧散した。
「ディム、ここで提示できる情報は?」
――ミタマ様が設定されている提示条件では、四名しめいの何かを把握している者に3時間前の所在地が設定されております。
四名しめい?」
――姓、名、字、号のことでございます。メイム様は姓、名を存じ上げておられますので、ミタマ様の3時間前の所在地を提示できます。
「3時間前」
一箇所に留まるにしては微妙な時間だ。この忙しない街では大きなトラブルがない限り、3時間も動かないなんてことはそうそう無いだろう。
「夜を狙うか」
人間3時間以内で寝て起きる生活を毎日する奴なんてそんなにいない。寝ているところ悪いが確実に会うためには寝ているところを叩き起こす他はないとメイムは一人頷いた。
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