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第1章 黒猫の友人
闇の中
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また視界の端に金髪が映った。
外からこじ開けられた窓と風に靡いて揺れるカーテン。
月の明かりで浮かび上がるシルエットを優は確かに知っていた。
「遅い!」
「死んでなければ全てよし!じゃない?」
緊張感の無い笑顔に二人の肩からは力が抜ける。
音なく床へ飛び降りると、刻は二人の元へ駆け寄った。
けらけらと笑う刻は二人の手を引くと、少女を一瞥する間もなく裂けた床に飛び込んだ。
「嘘!?何で飛び降りるの!?」
「楽しいからじゃないか?」
「いや、捕まるよりかはマシかなって」
涙目になりつつも叫ぶ優。
風を受け髪をたなびかせながら刻と燈は間抜けなまでに不思議そうな顔をする。
いくつもの階層を見送っているが一向に地に足が着く様子はない。
三人はぽっかりと口を開けた闇に飲まれていった。
ふと意識が浮上した。
随分な距離を落下したようで、一寸先は何も見えない。
また着地の際に先ほど痛めた肩を更に打ったのだろう。
動かす度に痛みが走った。
「ここ・・・そんなに深かったっけ」
天を仰ぐと空が小さな穴の中に閉じ込められている。
事前に下調べした見取り図には表記されていない場所のようだった。
「随分落ちたけど・・・」
「国王様の秘密の研究室ってね」
先に目覚めていたのだろう。
壁を伝って部屋らしき場所の散策を終えた刻がそう笑った。
「何かあった?」
優の問いに答えるように刻が闇の中を指差す気配がした。
夜目が利く燈は感嘆の声を上げていたが、優は空を探るように手探りで進む。
何か硬い機械に手が触れた。
更にその機械に沿っていくと、幾重にも伸びる管のような物を踏む感触がした。
「あんまり分かんないんだけど」
「大きなガラスの筒が沢山あるぞ」
未だ実態の掴めていない優を置いて刻と燈の足音はどんどん遠ざかっていく。
「二人とも待って」
迷いなく進む二人を引き止めるように優は音のする方向へ手を伸ばした。「俺たちが落ちてきた穴とは別の穴がある。多分あの女の子はここから外に出たんだろうね」
壁に手を這わせているのだろう。
砂と岩の落ちる音が混じって辺りに木霊した。
「上に行けそう?」
「行けるんじゃない?」
「でもあの子浮いてたぞ」
三人は同時に口を噤んだ。
「あー、詰んだ」
誰が言ったのか、複数の声が重なった気がした。
「どうする?」
「上まで壁を蹴って駆け登る!」
燈が言った。
それが出来たら苦労はしていないのだが、落ちてきた距離からして大幅な体力の消耗は避けられないだろうと優は思う。
今にも走り出しそうな燈を優は必死に制していた。
「階段あるけど」
刻の声に二人は振り返る。
木の軋む音がして一筋の淡い灯りが漏れだした。
揺れるろうそくに照らされて浮かびあがった石畳の階段は、螺旋状に上まで伸びているようだ。
積まれた石の隙間から滲み出る水の音。
延々と登った先、先頭を歩いていた燈が手で二人を制した。
少女の物とは違う、大人の足音が扉の先で聞こえた。
息を殺し遠ざかる怒号と足音を見送ると、三人は外へ出た。
押し開けた扉は見た目よりも遥かに重みがあった。
「図書館?」
「隠し扉か」
地上の新鮮な空気と共に、カビ臭い匂いが鼻についた。
大理石の床を踏んで棚に並んだ本を手に取る。
どれも古い物ばかりで紙が黄ばんでいた。
「さっきの足音、多分ここの国王だぞ」
巨大な図書館に圧倒されていた二人に燈が告げた。
「今から追いつける?」
そう問われた燈は首を縦に振る。
優の言葉を待たずして燈は走り出した。
そして図書館から伸びる螺旋階段を駆け上がり、国王を追って燈は上の階へ消えていった。
「刻、燈のナビゲートをお願い」
そう言葉を投げかけた先、刻の姿は見当たらなかった。
元々自由な性格の仲間達であると認識はしていたが今回ばかりは優も驚いた。
外からこじ開けられた窓と風に靡いて揺れるカーテン。
月の明かりで浮かび上がるシルエットを優は確かに知っていた。
「遅い!」
「死んでなければ全てよし!じゃない?」
緊張感の無い笑顔に二人の肩からは力が抜ける。
音なく床へ飛び降りると、刻は二人の元へ駆け寄った。
けらけらと笑う刻は二人の手を引くと、少女を一瞥する間もなく裂けた床に飛び込んだ。
「嘘!?何で飛び降りるの!?」
「楽しいからじゃないか?」
「いや、捕まるよりかはマシかなって」
涙目になりつつも叫ぶ優。
風を受け髪をたなびかせながら刻と燈は間抜けなまでに不思議そうな顔をする。
いくつもの階層を見送っているが一向に地に足が着く様子はない。
三人はぽっかりと口を開けた闇に飲まれていった。
ふと意識が浮上した。
随分な距離を落下したようで、一寸先は何も見えない。
また着地の際に先ほど痛めた肩を更に打ったのだろう。
動かす度に痛みが走った。
「ここ・・・そんなに深かったっけ」
天を仰ぐと空が小さな穴の中に閉じ込められている。
事前に下調べした見取り図には表記されていない場所のようだった。
「随分落ちたけど・・・」
「国王様の秘密の研究室ってね」
先に目覚めていたのだろう。
壁を伝って部屋らしき場所の散策を終えた刻がそう笑った。
「何かあった?」
優の問いに答えるように刻が闇の中を指差す気配がした。
夜目が利く燈は感嘆の声を上げていたが、優は空を探るように手探りで進む。
何か硬い機械に手が触れた。
更にその機械に沿っていくと、幾重にも伸びる管のような物を踏む感触がした。
「あんまり分かんないんだけど」
「大きなガラスの筒が沢山あるぞ」
未だ実態の掴めていない優を置いて刻と燈の足音はどんどん遠ざかっていく。
「二人とも待って」
迷いなく進む二人を引き止めるように優は音のする方向へ手を伸ばした。「俺たちが落ちてきた穴とは別の穴がある。多分あの女の子はここから外に出たんだろうね」
壁に手を這わせているのだろう。
砂と岩の落ちる音が混じって辺りに木霊した。
「上に行けそう?」
「行けるんじゃない?」
「でもあの子浮いてたぞ」
三人は同時に口を噤んだ。
「あー、詰んだ」
誰が言ったのか、複数の声が重なった気がした。
「どうする?」
「上まで壁を蹴って駆け登る!」
燈が言った。
それが出来たら苦労はしていないのだが、落ちてきた距離からして大幅な体力の消耗は避けられないだろうと優は思う。
今にも走り出しそうな燈を優は必死に制していた。
「階段あるけど」
刻の声に二人は振り返る。
木の軋む音がして一筋の淡い灯りが漏れだした。
揺れるろうそくに照らされて浮かびあがった石畳の階段は、螺旋状に上まで伸びているようだ。
積まれた石の隙間から滲み出る水の音。
延々と登った先、先頭を歩いていた燈が手で二人を制した。
少女の物とは違う、大人の足音が扉の先で聞こえた。
息を殺し遠ざかる怒号と足音を見送ると、三人は外へ出た。
押し開けた扉は見た目よりも遥かに重みがあった。
「図書館?」
「隠し扉か」
地上の新鮮な空気と共に、カビ臭い匂いが鼻についた。
大理石の床を踏んで棚に並んだ本を手に取る。
どれも古い物ばかりで紙が黄ばんでいた。
「さっきの足音、多分ここの国王だぞ」
巨大な図書館に圧倒されていた二人に燈が告げた。
「今から追いつける?」
そう問われた燈は首を縦に振る。
優の言葉を待たずして燈は走り出した。
そして図書館から伸びる螺旋階段を駆け上がり、国王を追って燈は上の階へ消えていった。
「刻、燈のナビゲートをお願い」
そう言葉を投げかけた先、刻の姿は見当たらなかった。
元々自由な性格の仲間達であると認識はしていたが今回ばかりは優も驚いた。
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