黒猫は闇に泣く

ギイル

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第1章 黒猫の友人

国落とし

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無意識に無線を繋いでいた。
激しいノイズの向こう側に意識を向けるが、刻の声が聞こえることはなかった。
「囮になりにいったのかも・・・」
ぬぐいきれない不安の中、優は図書館の出口と螺旋階段を交互に見る。
どちらへ行こうか右往左往していると、当てのないノイズ音が燈の声へと切り替わった。
「捕まえたぞ!」
その一言に行き場を無くしていた優の足は螺旋階段へと向いた。
「今行く。もう少し待ってて」
隣国の王が所有する蔵書の数々。
図書館の本棚は流れるようにして走り抜ける優の視界から次から次へと過ぎていく。
高い位置に設置された窓からはまだ月の明かりが漏れだしていた。
不意に何かが視界の端で揺らめいた。
明確には言い表せないが優は呼ばれている気がしたのだ。
引き寄せられるように本棚を伝う。
気づけば手には古びた手帳ほどの赤い背表紙の本があった。
燈を追っていたことを忘れ、優はページをめくっていた。
紙の劣化具合からして随分年季の入っていると思える。
辛うじて読める文字の刻まれた紙は、もう字も掠れるくらい古びていた。
「優!生きてるか!?」
呆然としていた意識を引き戻すように、燈の声が届いた。
「あ、ごめん。今向かう」
勢いよく閉じられた本からは古本独特のカビ臭い匂いが立ち込めた。
無造作に本を服の内側にしまいこんだことは記憶の端へ追いやられた。
目が回りそうになりながら螺旋階段を登りきる。
その先には気絶した黒スーツの男達が転がっていた。
「まるで道標だね」
砂埃のついた服を手で払い、一度深呼吸をする。
「僕は優。黒猫団の団長、それ以外の何者でもないよ。大丈夫、俺は優」
口を開けば出てくるのは見様見真似で大人を装った言葉。
目を閉じ思い描くのは父の姿。
嫌なものを思い出した、そう呟いた事を優以外は誰も知らない。開かれた目に映るのは冷たく沈んだこの世界。
堂々たる姿で歩き出した優に、もう先ほどまでの暖かさはなかった。
半開きになった扉を塞ぐ倒れ伏した男を足で退ける。
重い装飾された扉は音を立てて優を部屋へと招いた。
「優!捕まえたぞ!」
部屋の中央、無邪気に笑う燈の横で椅子に座り怯える国王の姿があった。
まるで蛇と蛙のように燈が動く度に国王は敏感に反応を示す。
「燈・・・やり過ぎだ」
「誰も死んでないから全てよし!」
自慢気に燈は豪語するが、優の口からはため息しか出ない。
相変わらず国王は燈の隣で縮こまっているだけだ。
「貴殿は国王で間違いないな?」
声をかけると国王の肩が大きく跳ねた。
先ほどまで国一つを治めていた人間とは思えない怯えぶりだ。
目を細め応答を促すと国王は小刻みに首を縦に振った。
「議会第三ギルド黒猫団、団長の優だ。今から我々の国まで同行してもらう」
何かを口ごもる国王に背を向けると、優は元来た道を歩き出す。
国王が何かを訴えかけてきたように聞こえたが、そんなものに耳を傾ける必要も時間もなかった。
燈は国王の襟首を掴み椅子から引きずり下ろすと、床を引きずって連れて行く。
「燈、そいつを連れて行け。刻を探しに行く」
「了解したぞ!」
燈はまるでおもちゃを引きずり回すかのように国王を連れ、長い廊下を駆けていった。
「・・・うー、疲れた。大人っぽくなるの大変なんだよなあ」
燈の後ろ姿を見送った後、優はまた大きくため息をついた。
天井を仰ぐと明かりの灯されることのない照明が寂しく揺れていた。
「早く戦争終わってくれないかなあ・・・」
議会の人間としては言うべきではないのだろうが、そう呟かずにはいられない。
優の言葉はただ虚しく響いただけだった。
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