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連載
95.ドワーフの町だよ
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幸いにして……朝食はそこまで濃い味付けということもなく、辛い物が苦手なウータでも食べることができた。
いくら辛党のドワーフの国でも、さすがに朝から香辛料をふんだんに使った料理は出さないらしい。
朝食を済ませてから、ウータとステラは宿屋から出た。
宿屋の女将と話したのだが……昨日会ったエンジェという名前のドワーフの女性はすでに宿屋を出ているらしい。
あわよくば、町の案内をお願いしようと思っていたのだが……当てが外れてしまった。
「さて……これから、どうしよっか?」
「そうですね……初日ですし、町を見て回るのはどうでしょう?」
ドワーフの国であるミスリルバレー。
その町に繰り出した目的は一に観光、二に温泉、三にようやく情報収集である。
「……本当は情報集めがメインであるべきなんですけどね。ウータさんはいつも目的を忘れている気がします」
「まあまあ、良いじゃない。新しい町に来たんだから色々と見て回らなくっちゃね!」
ウータとステラは並んで町の通りを歩いていく。
空からは昨晩から雪が降っており、地面に積もっている。
一歩歩くたびに足元からサクサクッと霜柱を踏む音がして、少しだけ楽しい。
「昨日は降ってなかったはずですけど……まさか、朝になって積もっているだなんて思いませんでした」
「雪国の景色みたいだねー。僕が住んでたところは積もるほどには降らなかったから、少しだけ楽しいよー」
「楽しい、ですか……私はちょっと寂しいですね。何となくですけど、雪を見ていると物悲しい気持ちになってきます」
雪に対する印象というのは、大人と子供で大きく異なるものである。
大人にとって、雪というのは煩わしいばかりのもの。
通勤にとっては邪魔。電車などの交通網を停止させることもあり、車もスリップしやすくなる。
一方で子供にとっては、重要なイベントで遊びの対象。
雪が積もれば子供は雪遊びをして、寒さの中を平然と走り回る。実際、町のあちこちに遊んでいる子供の姿があった。
大人と子供のモラトリアムの時期であるウータとステラにとっては、雪は遊ぶほどのものではないが、だからといって邪魔になるものでもない。
ある意味では、雪国のセンチメンタルな雰囲気をもっとも楽しめる時期である。
「ロマンチックだねー。それよりも、どこを観光したら良いのかな?」
「どなたかに聞いてみましょうか?」
ステラが道を歩いている人……小柄でヒゲ顔のドワーフに訊ねる。
「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」
「ん、何だい?」
「私達、旅行者なんですけど……この辺りの観光地についてお聞きしてもよろしいですか?」
「そりゃあ、今の時期だったら闘技大会だろ。魔王討伐メンバーの選抜のための大会が開かれるのが、今の時期の最大の話題だよ」
「闘技大会……それに優勝したら、女神アースに会えますか?」
「会えるんじゃないか? 女神様から直々に勇者として任命されるわけだからな。闘技大会にはドワーフ以外の部族も出られるから、興味があったら出てみるといい」
この町に来る途中に出会った女性……エンジェも話していたが、闘技大会は随分と話題になっているようである。
「ちなみにですけど……参加するには、どうすれば良いんですか?」
「運営に参加をエントリーして、参加証を貰う。後は予選に勝ち抜くことと、武器を入手することだな」
「予選に……武器ですか?」
「ああ。闘技大会は参加者である『戦士』と武器を提供する『鍛冶師』がセットになるんだ。戦士はもちろん、勝ち抜けば栄誉と賞金が手に入る。鍛冶師も自分が武器を提供した戦士が優勝すれば、最高の鍛冶師としての栄誉が手に入るってわけだな」
「なるほど……」
女神に会うことを目的とするのであれば、やはり闘技大会に出るのが一番だろう。
問題があるとすれば、ウータもステラも武器を使わないことである。
「ねえねえ、大会以外に観光するところはないの?」
ステラが考え込んでいると、背中からウータが顔を出した。
「美味しい物を売っているお店も教えて欲しいな。辛くないやつ」
「ハハッ! この町の名物で辛くない物なんてないよ。強いて言うなら、温泉卵くらいだな!」
ウータの質問にドワーフの男性が快活に笑った。
「まあ、観光名所だったらいくつか教えてやるよ。帰る前に行っときな!」
二人はドワーフの男性から町の名所をいくつか教えてもらい、礼を言ってから別れたのだった。
いくら辛党のドワーフの国でも、さすがに朝から香辛料をふんだんに使った料理は出さないらしい。
朝食を済ませてから、ウータとステラは宿屋から出た。
宿屋の女将と話したのだが……昨日会ったエンジェという名前のドワーフの女性はすでに宿屋を出ているらしい。
あわよくば、町の案内をお願いしようと思っていたのだが……当てが外れてしまった。
「さて……これから、どうしよっか?」
「そうですね……初日ですし、町を見て回るのはどうでしょう?」
ドワーフの国であるミスリルバレー。
その町に繰り出した目的は一に観光、二に温泉、三にようやく情報収集である。
「……本当は情報集めがメインであるべきなんですけどね。ウータさんはいつも目的を忘れている気がします」
「まあまあ、良いじゃない。新しい町に来たんだから色々と見て回らなくっちゃね!」
ウータとステラは並んで町の通りを歩いていく。
空からは昨晩から雪が降っており、地面に積もっている。
一歩歩くたびに足元からサクサクッと霜柱を踏む音がして、少しだけ楽しい。
「昨日は降ってなかったはずですけど……まさか、朝になって積もっているだなんて思いませんでした」
「雪国の景色みたいだねー。僕が住んでたところは積もるほどには降らなかったから、少しだけ楽しいよー」
「楽しい、ですか……私はちょっと寂しいですね。何となくですけど、雪を見ていると物悲しい気持ちになってきます」
雪に対する印象というのは、大人と子供で大きく異なるものである。
大人にとって、雪というのは煩わしいばかりのもの。
通勤にとっては邪魔。電車などの交通網を停止させることもあり、車もスリップしやすくなる。
一方で子供にとっては、重要なイベントで遊びの対象。
雪が積もれば子供は雪遊びをして、寒さの中を平然と走り回る。実際、町のあちこちに遊んでいる子供の姿があった。
大人と子供のモラトリアムの時期であるウータとステラにとっては、雪は遊ぶほどのものではないが、だからといって邪魔になるものでもない。
ある意味では、雪国のセンチメンタルな雰囲気をもっとも楽しめる時期である。
「ロマンチックだねー。それよりも、どこを観光したら良いのかな?」
「どなたかに聞いてみましょうか?」
ステラが道を歩いている人……小柄でヒゲ顔のドワーフに訊ねる。
「すみません、ちょっとよろしいでしょうか?」
「ん、何だい?」
「私達、旅行者なんですけど……この辺りの観光地についてお聞きしてもよろしいですか?」
「そりゃあ、今の時期だったら闘技大会だろ。魔王討伐メンバーの選抜のための大会が開かれるのが、今の時期の最大の話題だよ」
「闘技大会……それに優勝したら、女神アースに会えますか?」
「会えるんじゃないか? 女神様から直々に勇者として任命されるわけだからな。闘技大会にはドワーフ以外の部族も出られるから、興味があったら出てみるといい」
この町に来る途中に出会った女性……エンジェも話していたが、闘技大会は随分と話題になっているようである。
「ちなみにですけど……参加するには、どうすれば良いんですか?」
「運営に参加をエントリーして、参加証を貰う。後は予選に勝ち抜くことと、武器を入手することだな」
「予選に……武器ですか?」
「ああ。闘技大会は参加者である『戦士』と武器を提供する『鍛冶師』がセットになるんだ。戦士はもちろん、勝ち抜けば栄誉と賞金が手に入る。鍛冶師も自分が武器を提供した戦士が優勝すれば、最高の鍛冶師としての栄誉が手に入るってわけだな」
「なるほど……」
女神に会うことを目的とするのであれば、やはり闘技大会に出るのが一番だろう。
問題があるとすれば、ウータもステラも武器を使わないことである。
「ねえねえ、大会以外に観光するところはないの?」
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「ハハッ! この町の名物で辛くない物なんてないよ。強いて言うなら、温泉卵くらいだな!」
ウータの質問にドワーフの男性が快活に笑った。
「まあ、観光名所だったらいくつか教えてやるよ。帰る前に行っときな!」
二人はドワーフの男性から町の名所をいくつか教えてもらい、礼を言ってから別れたのだった。
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