異世界召喚されて捨てられた僕が邪神であることを誰も知らない……たぶん。

レオナール D

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135.ドワーフのお姉さんが来たよ

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 宿屋に帰り、その日は大人しくしていることにした。
 幸い、ならず者は宿屋まで押しかけてくることはなく、夕食までのんびりと過ごすことができた。
 だが……夜になって、急に部屋の扉がノックされた。

「はい、どちら様ですか?」

「私よ。エンジェよ」

「エンジェさん……?」

 ステラがウータを一瞥してから、入口の扉を開ける。
 すると、扉の外にエルフの女性……エンジェが立っていた。

「夜分、遅くに申し訳ないわね。今、時間があるかしら?」

「もちろん、構いませんよ……ねえ、ウータさん」

「うん、良いよー」

 二人が招き入れると、エンジェが中に入ってきてテーブルにつく。
 ベッドに「ぐだー」と横になっていたウータも、起き上がってベッドの端に座る。

「それで……何の用事かな、ドワーフのお姉さん?」

「明日の試合のことよ……決勝戦の対戦相手が貴方だと聞いたから」

「対戦相手ってことは……決勝まで残ったんだね」

 この様子だと、エンジェもまた勝ち残って決勝に進んだらしい。
 明日の試合では、ウータとエンジェが戦うことになる。

「正直、貴方と戦うことになるとは思わなかったわ……それで相談なのだけど、明日の試合、棄権してもらえないかしら?」

「危険……デンジャラス?」

「わざと惚けているのかしら? 棄権よ。棄権」

 エンジェが呆れた様子で眉根を寄せる。

「私はどうしても優勝しなくてはいけないのよ。だから、貴方には勝ちを譲ってもらいたいの」

「優勝したい理由ですか? いったい、どんな事情があるのでしょう?」

「それは話せない」

 ステラの問いに、エンジェがゆっくりと首を振った。

「意地悪で言っているわけではないわ。事情を話せば、貴方もただでは町を出られなくなるかもしれないのよ。優勝の副賞である賞金とかは貴方にあげるわ。私は『土』の女神アースに会えたらそれでいいのよ」

「…………」

 ウータとステラは言葉を紡ぐエンジェをじっと見つめた。
 ステラの表情は思いつめたようで、何か複雑な事情があるのだとわかった。
 とはいえ……ウータ達の目的も『土』の女神アースに会うこと。副賞の賞金は貰えたらラッキーという程度でしかない。

「女神様に何か用事でもあるのかな?」

「……ええ、とても大切な用事があるわ」

「フーン……?」

 ウータが顎を撫でながら、考え込む。
 しばらく首を捻っていたものの、やがて困った様子で返答する。

「……ごめんね。悪いんだけど、ちょっと譲れないかな」

「そう……理由を聞いても良いかしら? 人間族である貴方が、あえて『土』の女神に会う理由はないと思うけれど?」

「理由だったらあるよ。僕の方も事情は説明できないけどね」

「…………だったら、仕方が無いわね」

 ウータの答えを聞いて、エンジェは残念そうに目を伏せた。

「それじゃあ、私はこれで失礼するわ……明日の試合ではお互い、健闘をしましょうね」

「うん、お姉さんも……ごめんねー、譲ってあげられなくて」

「別に構わないわよ……むしろ、悪い提案をしているのはこっちの方だから」

 エンジェは椅子から立ち上がって、ウータとステラに軽くお辞儀をする。

「それじゃあ、お休みなさい……また、明日」

 エンジェが部屋から出ていって、ウータとステラが残される。

「何だったんだろうね……ドワーフのお姉さん」

「よくわかりませんけど……かなり、思いつめられているみたいですね」

「うん……何だか、悪いことをしちゃった気分だよ。明日、また謝った方が良いのかな?」

「謝る必要はないと思いますよ……ウータさんにも事情がありますし、全力で戦って問題ないと思います」

 誰にだって都合や事情はある。それが噛みあわないことなんて珍しくない。
 ステラのフォローに「そうだねえ……」とウータは複雑そうに頷いて、その日は就寝したのであった。
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