4 / 11
婚約破棄された悪役令嬢は即死しました。
4
しおりを挟む
広場に設置された処刑台の周囲には大勢の民衆が集まっている。
次期国王になるはずだった男が処刑されると聞いて、王都中の人々が集結していた。
クズリックの悪行はすでに王都中に広まっており、誰もが処刑の開始を待ち望んでいる。
「「「「「ワアアアアアアアアアアアッ!」」」」」
処刑執行の時間となり、兵士に引きずられるようにして王太子クズリックが現れた。
途端に民衆から喝采の声が上がり、一部の者達が石を投げつけてくる。
「いやだ……死にたくない……だれか、助けてくれ……」
クズリックが弱々しくうめいた。
処刑台まで引きずられていき、頭部と手を固定される。
すぐ傍には斧を持った処刑人が立っていた。
「助けてくれ……死にたくない……死にたくない……」
「殺せ! 殺しちまえ!」
「無能な王族に死を!」
「そいつのせいで税金が上がったんだ! ぶっ殺せ!」
「婚約者殺しのクズ王子め! さっさと首をはねられろ!」
「…………!」
自分の死を願っている者達の姿を目の当たりにして、クズリックは全身が凍りつくような恐怖に襲われた。
(どうして、僕がこんなに憎まれているんだ……僕は正しい道を歩いているんじゃなかったのか!?)
正しい人間だと思っていた。正道を進んでいるはずだった。
父親からは王になるべき人間だと深い愛情を与えられ、周りの家臣からもそのように扱われていたはず。
(僕が間違っていたというのか? やはり、エレノワールと婚約破棄なんてするべきじゃなかった……)
「助けてくれ……僕は間違っていた。お願いだ、やり直す機会をくれ……!」
クズリックは涙を流して懇願した。
「ちゃんと勉強もする。民や臣下を思いやる。人々から愛される立派な国王になってみせる……だから、どうか命だけは……!」
「……ようやく反省されたのですか?」
「…………!」
頭上から声が降ってきた。
婚約者とそっくりの声……『彼女』の声である。
「エレノア嬢!」
クズリックはエレノワールの妹の名前を呼んだ。婚約者とよく似ていて、少しだけ地味な彼女の名前を。
「お願いだ! 助けてくれ!」
クズリックはこれが最後のチャンスだとばかりに叫んだ。
「これから罪を償う。彼女を殺めてしまったことを全力で! だから……どうか処刑を止めてくれ!」
「…………」
「本当に反省しているんだ……このまま愚者として死にたくない。お願いだ、償う機会をくれ……!」
「本当に……遅すぎますわね」
エレノアが深々と溜息をつく気配がした。
「貴方と婚約を結んでいたのは国王陛下のたっての願いであり、国を安定させる上でそれが一番だと思ったからです。いつまでも昔の恨みを引きずっていたら前には進めませんし、私の子が次代の王になるのであればそれで良いと思っていました」
クズリックを無視して、エレノアは淡々とした口調で言葉を投げかけてくる。
「貴方が王太子としての自覚を持って行動してくれたのであれば、多少能力が足りなかったところで支えてあげようと思えたのです。たとえ能力が足りずとも、勤勉であればそれで良かったのに……」
「お前は、まさか……」
「好きでないのはお互いさま。性根のねじ曲がった悪役令嬢で悪うございました」
「ッ……!」
性根のねじ曲がった悪役令嬢。
それはかつて、婚約破棄の際にクズリックが口にした言葉である。
「お前、貴様は……エレノワールなのか!?」
「…………」
「返事をしろ! 生きていたのか!? おい、何とか言わないか!?」
「それでは、さようなら……」
エレノア……エレノワールらしき女性がクズリックから離れていき、処刑台から降りていく。
処刑人が進み出てきて、黒く重厚感のある斧を振り上げる。
「やめろ! やめろ! あの女は生きている。僕は無実だ!」
「…………」
「やめてくれ……僕は誰も殺していないんだ。処刑されるような理由はないんだ!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
王太子の声を民衆の声が塗りつぶす。
処刑を見守っている彼らには、王太子が無様に命乞いをしているように見えたことだろう。
「僕は嵌められたんだ……あの女、殺されたふりをして僕を……」
「ムンッ……!」
「殺そうと……」
処刑人が容赦なく斧を振り下ろす。
真っ赤な血と共にクズリックの首が宙を舞い、民衆からひときわ大きな歓声が上がった。
次期国王になるはずだった男が処刑されると聞いて、王都中の人々が集結していた。
クズリックの悪行はすでに王都中に広まっており、誰もが処刑の開始を待ち望んでいる。
「「「「「ワアアアアアアアアアアアッ!」」」」」
処刑執行の時間となり、兵士に引きずられるようにして王太子クズリックが現れた。
途端に民衆から喝采の声が上がり、一部の者達が石を投げつけてくる。
「いやだ……死にたくない……だれか、助けてくれ……」
クズリックが弱々しくうめいた。
処刑台まで引きずられていき、頭部と手を固定される。
すぐ傍には斧を持った処刑人が立っていた。
「助けてくれ……死にたくない……死にたくない……」
「殺せ! 殺しちまえ!」
「無能な王族に死を!」
「そいつのせいで税金が上がったんだ! ぶっ殺せ!」
「婚約者殺しのクズ王子め! さっさと首をはねられろ!」
「…………!」
自分の死を願っている者達の姿を目の当たりにして、クズリックは全身が凍りつくような恐怖に襲われた。
(どうして、僕がこんなに憎まれているんだ……僕は正しい道を歩いているんじゃなかったのか!?)
正しい人間だと思っていた。正道を進んでいるはずだった。
父親からは王になるべき人間だと深い愛情を与えられ、周りの家臣からもそのように扱われていたはず。
(僕が間違っていたというのか? やはり、エレノワールと婚約破棄なんてするべきじゃなかった……)
「助けてくれ……僕は間違っていた。お願いだ、やり直す機会をくれ……!」
クズリックは涙を流して懇願した。
「ちゃんと勉強もする。民や臣下を思いやる。人々から愛される立派な国王になってみせる……だから、どうか命だけは……!」
「……ようやく反省されたのですか?」
「…………!」
頭上から声が降ってきた。
婚約者とそっくりの声……『彼女』の声である。
「エレノア嬢!」
クズリックはエレノワールの妹の名前を呼んだ。婚約者とよく似ていて、少しだけ地味な彼女の名前を。
「お願いだ! 助けてくれ!」
クズリックはこれが最後のチャンスだとばかりに叫んだ。
「これから罪を償う。彼女を殺めてしまったことを全力で! だから……どうか処刑を止めてくれ!」
「…………」
「本当に反省しているんだ……このまま愚者として死にたくない。お願いだ、償う機会をくれ……!」
「本当に……遅すぎますわね」
エレノアが深々と溜息をつく気配がした。
「貴方と婚約を結んでいたのは国王陛下のたっての願いであり、国を安定させる上でそれが一番だと思ったからです。いつまでも昔の恨みを引きずっていたら前には進めませんし、私の子が次代の王になるのであればそれで良いと思っていました」
クズリックを無視して、エレノアは淡々とした口調で言葉を投げかけてくる。
「貴方が王太子としての自覚を持って行動してくれたのであれば、多少能力が足りなかったところで支えてあげようと思えたのです。たとえ能力が足りずとも、勤勉であればそれで良かったのに……」
「お前は、まさか……」
「好きでないのはお互いさま。性根のねじ曲がった悪役令嬢で悪うございました」
「ッ……!」
性根のねじ曲がった悪役令嬢。
それはかつて、婚約破棄の際にクズリックが口にした言葉である。
「お前、貴様は……エレノワールなのか!?」
「…………」
「返事をしろ! 生きていたのか!? おい、何とか言わないか!?」
「それでは、さようなら……」
エレノア……エレノワールらしき女性がクズリックから離れていき、処刑台から降りていく。
処刑人が進み出てきて、黒く重厚感のある斧を振り上げる。
「やめろ! やめろ! あの女は生きている。僕は無実だ!」
「…………」
「やめてくれ……僕は誰も殺していないんだ。処刑されるような理由はないんだ!」
「「「「「オオオオオオオオオオオオッ!」」」」」
王太子の声を民衆の声が塗りつぶす。
処刑を見守っている彼らには、王太子が無様に命乞いをしているように見えたことだろう。
「僕は嵌められたんだ……あの女、殺されたふりをして僕を……」
「ムンッ……!」
「殺そうと……」
処刑人が容赦なく斧を振り下ろす。
真っ赤な血と共にクズリックの首が宙を舞い、民衆からひときわ大きな歓声が上がった。
533
あなたにおすすめの小説
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
神のみぞ知る《完結》
アーエル
恋愛
『隣国に民に愛されし公爵令嬢あり』
そんな言葉を聞いたのは嫌われ王太子
彼は策を講じた
それが国の崩壊を導くとも知らず
国は滅ぶ。
愚か者の浅はかな言動により。
他社でも公開
愛の負債《完結》
アーエル
恋愛
愛を間違えた場合、負債は即時支払いましょう。
その場限りの反省ではふたたび間違いを犯し、さらなる負債を背負い・・・身の破滅へ。
相手を見誤ると、取り返しのつかない未来へ家族を巻き込むでしょう。
・・・ねぇ、ソフィーちゃん。
注:ソフィーちゃんとは筋肉ムキムキの『伯爵子息』です
他社でも公開します
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる