8 / 11
死んだ悪役令嬢からの手紙
3
しおりを挟む
〇新聞社への手紙
親愛なるベルウッド新聞社様
初めてお手紙を送らせていただきます。
王国東部に領地を持っておりますアドラー伯爵家が娘、アイリーン・アドラーと申します。
御社が出版しております新聞記事をいつも楽しく読んでおります。
権力による迫害を恐れることなく、果敢に真実を追い求める姿勢にはいつもながら感服しております。
本日、私が手紙を送らせていただいたのは、この愚かな娘の半生について記事にしてもらいたく思ったからです。
同封していた診断書からもわかるとおり、私は不治の病に侵されて余命半年の命でございます。
それというのも、謀略によって黒滅病の予防薬を飲むことができず、生まれた家を乗っ取られようとしているからです。
私はアドラー伯爵家の嫡女として生を受け、次期当主となるべく教育を受けてきました。
その道は決して楽なものではありませんでしたが、領地と領民のためを思い、必死になって耐えてきました。
そんな私の生涯に影が差したのは10年前。伯爵家の正統な後継者である母が命を落とし、入り婿だった父が愛人と義妹を連れて来てからです。
その日から私の生活は一変しました。
ドレスやアクセサリーなどはほとんど奪われ、継母からはまるで使用人のように扱われるようになりました。
お茶会や社交場などに出て友人を作ることを禁じられ、屋敷に閉じ込められるようになってしまったのです。
昔から伯爵家に仕えている使用人は私を助けようとしてくれましたが、彼らは次々と暇を出され、父と継母の言うことを聞く新しい使用人が入れ替わりに入ってきました。
私は伯爵家の後継者でありながら物置部屋に押し込められ、食事もカビの生えたパンや腐ったスープを与えられるようになったのです。
それでも、いずれ婚約者と結婚すればこんな現状も変わるだろうと信じていました。
しかし、私はすぐに絶望することになりました。婚約者であったサムエル・バードンは義妹との間で関係を持っていたのです。
婚約者を義妹に替えてほしいと父と話しているのを目撃いたしました。
これは推測になりますが……すべては父の計算だったのでしょう。
母が肺を患って命を落としたことも、私が罹るはずのない不治の病にかかってしまったことも。愛人との子である義妹を新しい当主に仕立て上げ、伯爵家を乗っ取るための陰謀だったに違いありません。
本来であれば家を取り戻すために戦わねばなりませんが……私には命も時間も残ってはおりません。
私は悪魔の住処となった屋敷から逃げ出し、残りの生涯を穏やかに過ごせる場所に向かうつもりです。
最期の時は、いつか訪れた海が見える街で過ごしたいと思います。
どうか、哀れな娘の生涯を一人でも多くの人に知ってもらえるようにお力添えくださいませ。
ただ一人で死を迎える私の最期に、少しでも祈りの花が添えられるように。
御社の正義が貫かれることを信じて。
アイリーン・アドラー
親愛なるベルウッド新聞社様
初めてお手紙を送らせていただきます。
王国東部に領地を持っておりますアドラー伯爵家が娘、アイリーン・アドラーと申します。
御社が出版しております新聞記事をいつも楽しく読んでおります。
権力による迫害を恐れることなく、果敢に真実を追い求める姿勢にはいつもながら感服しております。
本日、私が手紙を送らせていただいたのは、この愚かな娘の半生について記事にしてもらいたく思ったからです。
同封していた診断書からもわかるとおり、私は不治の病に侵されて余命半年の命でございます。
それというのも、謀略によって黒滅病の予防薬を飲むことができず、生まれた家を乗っ取られようとしているからです。
私はアドラー伯爵家の嫡女として生を受け、次期当主となるべく教育を受けてきました。
その道は決して楽なものではありませんでしたが、領地と領民のためを思い、必死になって耐えてきました。
そんな私の生涯に影が差したのは10年前。伯爵家の正統な後継者である母が命を落とし、入り婿だった父が愛人と義妹を連れて来てからです。
その日から私の生活は一変しました。
ドレスやアクセサリーなどはほとんど奪われ、継母からはまるで使用人のように扱われるようになりました。
お茶会や社交場などに出て友人を作ることを禁じられ、屋敷に閉じ込められるようになってしまったのです。
昔から伯爵家に仕えている使用人は私を助けようとしてくれましたが、彼らは次々と暇を出され、父と継母の言うことを聞く新しい使用人が入れ替わりに入ってきました。
私は伯爵家の後継者でありながら物置部屋に押し込められ、食事もカビの生えたパンや腐ったスープを与えられるようになったのです。
それでも、いずれ婚約者と結婚すればこんな現状も変わるだろうと信じていました。
しかし、私はすぐに絶望することになりました。婚約者であったサムエル・バードンは義妹との間で関係を持っていたのです。
婚約者を義妹に替えてほしいと父と話しているのを目撃いたしました。
これは推測になりますが……すべては父の計算だったのでしょう。
母が肺を患って命を落としたことも、私が罹るはずのない不治の病にかかってしまったことも。愛人との子である義妹を新しい当主に仕立て上げ、伯爵家を乗っ取るための陰謀だったに違いありません。
本来であれば家を取り戻すために戦わねばなりませんが……私には命も時間も残ってはおりません。
私は悪魔の住処となった屋敷から逃げ出し、残りの生涯を穏やかに過ごせる場所に向かうつもりです。
最期の時は、いつか訪れた海が見える街で過ごしたいと思います。
どうか、哀れな娘の生涯を一人でも多くの人に知ってもらえるようにお力添えくださいませ。
ただ一人で死を迎える私の最期に、少しでも祈りの花が添えられるように。
御社の正義が貫かれることを信じて。
アイリーン・アドラー
163
あなたにおすすめの小説
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)
青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。
けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。
マルガレータ様は実家に帰られる際、
「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。
信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!!
でも、それは見事に裏切られて・・・・・・
ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。
エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。
元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。
神のみぞ知る《完結》
アーエル
恋愛
『隣国に民に愛されし公爵令嬢あり』
そんな言葉を聞いたのは嫌われ王太子
彼は策を講じた
それが国の崩壊を導くとも知らず
国は滅ぶ。
愚か者の浅はかな言動により。
他社でも公開
愛の負債《完結》
アーエル
恋愛
愛を間違えた場合、負債は即時支払いましょう。
その場限りの反省ではふたたび間違いを犯し、さらなる負債を背負い・・・身の破滅へ。
相手を見誤ると、取り返しのつかない未来へ家族を巻き込むでしょう。
・・・ねぇ、ソフィーちゃん。
注:ソフィーちゃんとは筋肉ムキムキの『伯爵子息』です
他社でも公開します
売られたケンカは高く買いましょう《完結》
アーエル
恋愛
オーラシア・ルーブンバッハ。
それが今の私の名前です。
半年後には結婚して、オーラシア・リッツンとなる予定……はありません。
ケンカを売ってきたあなたがたには徹底的に仕返しさせていただくだけです。
他社でも公開中
結構グロいであろう内容があります。
ご注意ください。
☆構成
本章:9話
(うん、性格と口が悪い。けど理由あり)
番外編1:4話
(まあまあ残酷。一部救いあり)
番外編2:5話
(めっちゃ残酷。めっちゃ胸くそ悪い。作者救う気一切なし)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる