異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D

文字の大きさ
29 / 103
第一章 日下部さん家の四姉妹

番外・潰えぬ悪の芽

しおりを挟む
 街の郊外にある、人気のない雑居ビルの地下。
 厳重にカギがかけられて関係者以外は誰も入れなくした部屋の奥で……『ボク』はいた。

 目を覚ますと、ボクは水の中にいた。
 棺のような長方形の水槽は緑色の水で満たされており、ボクの身体は水の底に沈められていたのである。

「クウ…………プハアッ!」

 必死に水から這い出し、大きく息を吸って酸素を肺に取り込んだ。
 ゼエゼエと荒い呼吸を繰り返しながら、自分の身体を確認する。

 水に沈んでいたボクの身体は一糸纏わぬ全裸だった。
 肉体に損傷はない。怪我はなく、痛みだってなかった。
 先ほど、あの忌々しい男が放った閃光に撃ち抜かれた記憶はあるものの、ダメージは残っていない。

「生きている……ボクは生き返ったんだな……?」

「厳密にはちょっと違いますけどね。同志・アダム」

「ッ……!」

 名前を呼ばれて弾かれたように顔を上げる。
 そこには20代ほどの白衣を着たメガネの男が、ボクを見下ろしていた。
 男の名前はコードネーム・ヨハネ。本当の名前は『キングダム』に所属した際に捨てている。
 この隠れ家とそこに置いていた『スペア』の肉体を管理をしており、研究と研鑽を得意としている超能力者だった。

「同志・ヨハネ……」

「厳密には復活。あるいは記憶の転写に成功したと言うべきでしょう。貴方の本体はすでに死んでおり、スペアの肉体に記憶情報を引き継いだだけですから」

「…………」

 同志・ヨハネの説明に、ボク――コードネーム『アダム』こと天童時彦は表情を歪めた。

 彼が説明した通り、この肉体はボクにとっての本体ではない。もしもボクが何者かに殺害された時に備えて、『創造』の超能力を使って作っておいたスペアである。
 使うつもりはなかった。本当に万が一、億が一のための処置だったのだが……まさかこれを使わされるとは思わなかった。

「記憶のバックアップはちゃんと出てきているかね? 死の寸前の記憶がそちらの肉体に飛ぶように調整していたはずだが……」

「ああ、問題はない。ボクは間違いなく『ボク』である。そして……あの忌々しい男の名と顔も覚えている……!」

 ボクは激しい憎悪に顔を歪めて、さっきまで自分が入っていた水槽を殴りつける。

「よくもボクの花嫁に手を出してくれたな! 万死に……いや、百億回殺してもまだ足りない! 必ずあの男を絶望の底に叩き落としてやる!」

 ボクは『キングダム』を名乗る超能力者の組織の総帥だった。
 組織の目的は既存の人類を殲滅して、サイキッカーという進化した『超人』のための世界を築き上げること。
 そのために仲間を増やしながら暗躍していたのだが……ボクらの前に立ちふさがったのは、同じくサイキッカーの集まりである『ユニオン』だった。

 旧人類の猿共ならまだしも、どうして同胞であるはずのサイキッカーから妨害を受けなくてはいけないのだろう?
 理解しがたい彼らの行動原理に頭を悩ませていたボクであったが、『ユニオン』との戦いの中で思わぬ宝物を見つけた。
 彼女の名前は日下部風夏。ボクが持っている『創造』の超能力と対になる『破壊』の力を持った少女である。

『キングダム』は常々、人類の殲滅のために動いていたが、具体的なプランは見出せていなかった。
 超能力を使って1匹1匹旧人類を殺していくのには無理がある。奴らは無駄に数だけは多く、あちこちに逃げては隠れてしまうから。
 核爆弾などの近代兵器を盗み出し、世界中に降りそそぐというプランも考えたが……それでは使用後に世界が放射能で汚染されてしまう。ボクらのものになるであろう世界を汚すなど、とても受け入れられるものではない。

 そんな中で現れた希望の光。世界を浄化する『メギドの火』――それが愛しいイヴが持っている『破壊』の力だった。
 彼女の能力は森羅万象、万物を跡形もなく消すことができるのだ。「壊す」でも「燃やす」でもなく、文字通りに消滅させてしまう。
 おまけに、自分が消し去る存在を詳細に選択することができる。例えば、麦と米を混ぜた中から、麦だけを消し去るなど。

 日下部風夏の能力があれば、無数の人類の中から旧人類だけを消し去ることができる。
 美しい世界を、自然を破壊することなく余分な『汚れ』だけを取り除くことができるのだ。

 何という素晴らしい力だろう!
 旧世界の破壊者である彼女は、新世界の創造主であるアダムボク花嫁イヴにふさわしい!

 そう思ってイヴ――日下部風夏を捕らえようとした私であったが……ここでもまた、『ユニオン』の裏切り者共が邪魔に入ってきたのだ。
 おまけに、日下部風夏の確保を邪魔しようとした女を殺したところ、肝心の彼女から憎しみの感情を向けられるようになってしまった。
 愛に障害は付き物であるとはいえ……愛し合う2人が引き裂かれなければならないとは、何という理不尽なことだろう!

 まあ、彼女もいずれはボクの大義を理解してくれるはず。
 愛で彼女の頑なな心を溶かすためにも、一刻も早く彼女を手に入れなくてはならない。

 そんな折、仲間と潜伏していた隠れ家の1つに『ユニオン』が襲撃を仕掛けてきた。
 襲撃者の中には日下部風夏もいて、ようやくチャンスが周って来たかと喝采の声を上げたものである。
 だが……あと少しで彼女を手中に収められるというところで、「あの男」が邪魔に入ってきたのだ!
 忌々しい……どんな能力かもわからぬその男は、ボクの切り札である『キング・アーサー』を討ち滅ぼし、おまけにボクの本体を葬ったのだ。

「次こそは必ずイヴを手に入れてみせる! どんな手段を使ってでも……!」

「そのことだが……以前から研究を進めていた『例の力』について解析が終わった」

「何だと……!?」

 同志・ヨハネの言葉に、ボクは大きく目を見開いた。
『ユニオン』の襲撃によって多くの同志を失い、「あの男」によって1度殺されたタイミングで、ボクの野望を叶えるための研究が実ろうとしている。
 ボクにはそれが運命のように感じられ、歓喜に唇を吊り上げた。

「そうか……「あの男」に邪魔されたことも、全てが1つの運命だったと言うのか! この試練を乗り越え、我らはさらなる高みへと昇る! 全ては世界の浄化のため、この世を選ばれし者達の手に取り戻すため!」

「然り。全ては我らが悲願の成就のため。同志・アダムに従おう」

 同志・ヨハネが膝をつき、ボクに深々と頭を下げてバスローブを差し出してきた。

 ボクは受け取ったバスローブを肩に羽織りながら、これから手に入れるであろう『大いなる力』に思いを馳せたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...