異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D

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第一章 日下部さん家の四姉妹

43.四女はエッチな悪魔ちゃん⑦

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 この世界の隣にはもう1つの世界が存在する。

 僕が転移したような異なる時空にある世界とは違う。
 ここでいう『もう1つの世界』とはコインの裏表のことであり、僕達の世界と同じ場所でありながら、決して歩いていくことはできない異なる空間に『裏側の世界』は存在していた。

 裏側の世界の住人には、表側の住人と異なり実体がない。
 肉体を持たない魂だけの存在であり、それゆえに肉体に縛られた表の住人よりも大きな力を有していた。
 裏側の住人はたびたび表側にやってきている。肉体を持たぬがゆえに人々の身体に憑依して、様々な事件を引き起こしていた。

 表側の住人は、裏側の住人をこう呼んだ――『悪魔』と。


     〇          〇          〇


「私がこの世界にやって来たのは、もう7年近くも昔のことになります。ちょうど、日下部家の皆様が山にハイキングに訪れたときのことです」

 謎の怪物高校生の襲撃から十数分後。僕達は町はずれにある公園にやってきており、話をしていた。
『僕達』というのは僕と、美月ちゃん……日下部美月の名前と身体を借りた悪魔のことである。

「日下部家の皆様……四姉妹と両親が山に訪れたとき、ちょうど私はこの世界にやってきていました。そして、器となる肉体を探していたところ、偶然にも両親と末っ子の娘が崖から転落した場面を目撃しました。両親の身体は無数の骨折があって頭部もグチャグチャになっていましたが……奇跡的なことに、両親に抱きかかえられていた末っ子の娘は原形を留めていたのです」

 公園のブランコに腰かけて、美月ちゃんがぶらぶらと脚を揺らしながら説明する。
 俺はジッと黙り込み、いつもと異なり流暢な声で語られる説明に耳を傾けた。

「とはいえ……その娘もすでに魂が抜け落ちていました。心肺機能は修復可能な程度の損害でしたけど、魂が抜けている以上はもう助かりません。そこで……私は幼かったその娘の身体に憑依して、もらい受けることにしたのです」

「まさか……そんなことがあったなんて……」

 美月ちゃんが語っているのは、かつて起こったという両親の死についてである。
 華音姉さんからその話は聞いていたが……まさか、その時に日下部美月も絶命しており、悪魔が乗り移っていたとは思わなかった。

「ちなみにだけどさ、普段から無口なのはボロを出さないように演技してるってことかな?」

「いえ、悪魔のエネルギーである邪力を温存しているために感情の起伏が抑制されてしまっているのです。演技というわけではなく、あれは私の別人格……たとえるなら『スリープ美月』というところでしょうか?」

「ふうん……それは何というか、ホッとしたような?」

「私は「日下部美月」として3人の姉と共に生きてきました。悪魔であることを悟られぬよう、隠しながら」

「えっと……さっきの3人も悪魔ってことでいいのかな? 君の故郷であるというその……世界の裏側からやって来たっていう」

「はい、その通りでございます。彼らは『表世界』を侵略するためにやってきた尖兵。悪魔の雑兵です。私はこの身体を自由に動かせるようになったときより、彼ら……悪魔軍と戦い続けてきました。人間達が生きるこの世界を守るために」

「……何というか、その設定って大丈夫なのか? 昭和の名作マンガと一緒なんだけど?」

 その設定でいくとなると、美月ちゃんは最終的に守り続けてきた人間の手によって大切な存在を奪われ、絶望して全てを無に帰そうとするのだが……うん、メタいからこれ以上は考えるのをやめておこう。

「それにさ……どうして悪魔である君が人間サイドに立って戦っているのかな? 君が奴らと同じ悪魔だって言うのなら、アッチにつくほうが自然だろう?」

「……実のところ、最初はそのつもりだったのです。私は悪魔軍の上級兵士として人類を殺戮するために『表世界』に送り込まれました」

 美月ちゃんはキュッと唇を噛んで、「だけど!」と強い口調で言う。

「私は人間の美しさを、温かさを知ってしまったのです! 私が偽物であることを知らず、愛情を注いでくれる3人の姉と出会って、血のつながりもないのに全身全霊で私を愛してくれるお兄様と出会って……悪魔よりも人間のために戦いたいと思うようになったのです!」

「ふーん、そうなんだ……」

 血を吐くように辛そうな表情で語る美月ちゃんであったが……そんな顔を見て、俺は却ってホッと安堵した心境になっていた。

 ずっと大切な妹のように思っていた少女が実は偽物で、おまけに悪魔だった。
 うん、衝撃的なことだと思う。受け入れがたい真実のはずだ。
 しかし、僕が驚いていたのは最初だけ。事情を知った今では、『二度あることは三度あるって言うし、四回目もあるんじゃね? やっぱり美月ちゃんもそうだったのかー』という程度の感慨しかなかった。

 だって、そうだろう?
 僕と兄貴が日下部家の隣に引っ越してきたのは5年前。つまり、僕らが出会った頃には美月ちゃんはすでに悪魔だったのだ。
 幼くして亡くなってしまった本物の日下部美月は気の毒に思うが……僕にとって本物の美月ちゃんは目の前にいる幼女である。他にはいなかった。

「悪魔であろうと何であろうと……僕にとっては君が美月ちゃんだよ」

「お兄様……」

「理由や経緯は関係ないよ。君に僕の愛情が伝わっていたことが嬉しいよ」

 だから、僕は素直な感想を口にした。
 美月ちゃんはずっと無表情で言葉も少ない。僕の思いが伝わっているのか心配だったのだが……そんな思いがまさに成就した気分だ。

「やはりお兄様は敬愛すべき男性です。私の思った通り、聖人のように清らかで尊い御方……」

「そこまで言われるとちょっと照れるんだけどね。家族を愛していることを、そこまで褒められるのは大袈裟だよ」

 僕は肩をすくめて、「コホン」と咳払いをして説明の続きを促した。

「ところで……さっきの3人も悪魔に憑依されているってことでいいんだよね。元から悪魔だったわけではなくて」

「はい、先ほどの3人は間違いなく悪魔に憑りつかれていました。私は裏切り者として悪魔軍に命を狙われていますから。彼らはお兄様ではなく私を狙っていたのでしょう」

「その割には僕のことを「殺す殺す」言ってたけどなあ」

「彼らは『日下部美月』のように死亡して魂を失っているわけではありませんから。1つの肉体に人間と悪魔の2つの魂が同居しているため、人間としての感情や記憶に引っ張られてしまったのでしょう。あの3人に恨まれる覚えはありますか?」

「あー……無きにしも非ずかな? 完全な逆恨みだけど」

 あの3人がいつ悪魔に憑かれたのかは知らないが……悪魔の力を使ってまで復讐されそうになったのだから、迷惑な話である。

 溜息を吐いた俺を見て、美月ちゃんは申し訳なさそうに眉をへの字にする。

「おそらく、これからも悪魔軍は私に刺客を送って来ることでしょう。今回の3人は倒しましたけど、本体の悪魔は逃げてしまいました。場合によっては、私に助力したお兄様も狙われてしまうことになるかもしれません」

「オッケー。事情は分かったよ。それで……これからどうする?」

「どうすると言いますと……?」

「夕飯、寿司を食べに行くんだろ? 気分が変わってないのなら、風夏に連絡してこのまま行っちゃうけど?」

「フフッ……」

 シリアスな話から夕飯の話題にシフトチェンジすると、美月ちゃんが破顔する。

「食べに行きましょう。戦ったら、お腹がすいてしまいましたわ」

「ん、それじゃあ風夏に連絡するよ。あんまり連絡が遅いとまたツンデレ妹に怒られちゃうからね!」

 僕はおどけたようにアヒル口になりながら、ポケットのスマホを取り出した。
 風夏にMINEのメッセージを送って駅前で待ち合わせをする旨を伝えて、制服の胸ポケットにスマホを滑り込ませる。

「よし! それじゃあ、行こう。美月ちゃん!」

「はい、おにいさ……!?」

 美月ちゃんの表情が驚愕に染まった。
 普段は無表情だが、正体を明かしたことで感情が豊かになっている幼い美貌が戦慄に凍りついている。

「っ~~~~!?」

 理由を問おうとして口を開き……そこで僕は、ようやく声が出ないことに気がついた。
 遅れて、胸から痛みが込み上げてくる。恐る恐る視線を下ろすと、胸元から奇妙なオブジェが植物のように生えていた。

「ッ……!?」

 いや、違う。
 生えているんじゃない。刺さっているんだ。

 ナイフは明らかに心臓を貫いている。どう考えても致命傷である。
 身体から全ての生命力が抜け落ちていくのを感じ取り、僕は最期の力を振り絞って美月ちゃんに手を伸ばした。

「みつ、ちゃ……にげ、ろ……!」

 僕は辛うじてそうつぶやき、うつ伏せになって倒れたのであった。






 八雲勇治の次回作にご期待ください。

 DEAD END
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