異世界で勇者をやって帰ってきましたが、隣の四姉妹の様子がおかしいんですけど?

レオナール D

文字の大きさ
67 / 103
第二章 クラスメイトは吸血鬼

7.僕が美少女と通学しているワケ②

しおりを挟む

 時間は少しだけ、さかのぼる。

 月白真雪は吸血鬼である。
 僕がその事実を知らされたのは、1週間前に襲われていた彼女を助けた直後のこと。
 その時も月白さんは狼男のような怪物に襲われており、高校に通学途中だった僕がそれを助けたのである。

「さあ、上がって。遠慮せずに寛いでいいから」

「はい……失礼します」

 玄関を開けて、自宅に月白さんを招き入れる。
 朝の通学路で襲われていた月白さんを助けた僕は、そのまま彼女を自宅へと連れて帰ってきた。最近はほとんど日下部家の家で寝泊まりしているため、自宅に帰ってきたのは何気に久しぶりだったりする。

 独り暮らしの家に女の子を連れ込んだりしたらお隣さんがうるさそうだが、今日は四姉妹はこぞって留守にしている。
 義務教育の三女と四女はもちろん学校。長女は仕事で出かける用事があると朝食の席で話していた。
 問題は次女なのだが……こちらは大学の講義は休みらしく、隣家にいるはずである。
 しかし、飛鳥姉は大学が休みの日は昼まで起きないため、高校をズル休みして女子と密会しても見咎められることはないだろう。

「ウチにお客さんなんて久しぶりだな。兄貴が死んで以来か」

「お兄さん、お亡くなりになったんですか?」

「1年前にね。ウチは両親もいないから独り暮らしなんだよ……あ、別に変なことをする気はないから安心してくれ!」

 僕は慌てて両手を振った。
 日下部家に入り浸っていて感覚が麻痺していたが、家族のいない自宅に女子を招き入れるなんて結構な事件ではないか。

 クラスメイトの女子を家に連れてくるなんて小学校以来。もちろん、下心から招いたわけではない。
 月白さんは狼男のような怪物に襲われていたのだ。人外のクリーチャーに襲われていた女子を普通に学校にやるわけにはいかなかった。
 狼男の爪で斬られたのか、月白さんが着ている制服のスカートは破れて太腿が見えていたりする。
 月白さんのような美少女が性犯罪の被害者みたいな恰好で学校に行けば、とんでもない騒ぎになるに違いない。そう思ったから自宅に連れてきたのである。

「ええっと……とりあえずリビングで待っててくれるかな? スカートはないけど、ズボンとかあるから持ってくるよ」

「あ、お構いせずとも大丈夫です。体育で使うジャージを持ってますから、後で着替えますので」

「え、そう? だったら良いんだけど」

「はい……そんなことよりも先ほどは危ういところを助けてもらい、ありがとうございます。おかげで何事もなく済みました」

 月城さんがペコリと頭を下げた。
 艶々とした美しい黒髪が滝のように下に流れる。

「女の子がスカートを破られたのを「何事もない」とは言わないと思うけどね……それで、君は僕に事情を話すつもりはあるのかな?」

「それは……」

 月白さんは視線をさまよわせて逡巡するような仕草を見せた。
 どうやら、彼女もまた何かしらの秘密を抱えているようだ。僕は無理に聞き出すことなく、月白さんをリビングの椅子に座らせる。

「別に無理して話さなくてもいいよ。気がついていると思うけど、僕も普通の高校生とは言いづらい事情があるから」

「やっぱり……貴方だったんですね。あの夜、私を助けてくれたのは」

「あの夜……? ああ、思い出した。そういえば駅前で助けたっけか?」

 僕は異世界から帰ってきた夜に、駅前で不良に襲われかけている月白さんを助けていた。
 パーカーで顔を隠していたため気がつかれていないと思っていたが……今回の件で芋ずる式にバレてしまったらしい。

「校舎裏で絡まれていた時にも助けてもらいましたし、これで八雲君に救われるのは3度目です。三度みたび危ういところを救われておいて、事情を話さないなどという無礼はいたしません。全てお話します」

 月白さんはリビングの椅子に座ったまま居住まいを正し、「スウッ」と息を吸う。

「私は吸血鬼です。厳密には吸血鬼を祖先に持つ混血児です」

「…………」

 僕は黙り込む。
 黙り込んで月白さんの言葉の意味をたっぷりと咀嚼して……

「あれ? それだけ?」

「え……それだけとは?」

「いや、宇宙がどうとか異世界がどうとか、秘密結社による世界征服とか……そういう話はないのかな?」

「ええっと……驚かないのですか?」

「うーん……ごめん。あんまりビックリはしてないかな?」

 四姉妹の秘密を知った後だからか、月白さんが吸血鬼であると聞かされても驚きはなかった。むしろ、「あ、だからそんなに美人なんだ。おまけに色白だもんね」と納得した心境ですらある。
 異世界には血を吸うモンスターはいたし、『リビングデッド』という人間と変わらない姿のアンデッドもいた。さほど驚きはなかった。

「そうなのですか……やはり八雲君は豪胆なのですね」

「豪胆というか……単なる経験かな? 非現実的な事件にちょっとだけ慣れていてね? 耐性がついているんだよ」

「なるほど……ですが、これから先の話は驚くと思います。この町には私以外にも人外の一族が暮らしているのです。『人狼』、『夢魔』、そして『天狗』の一族がそれぞれ暮らしています」

「へ……?」

 それは確かに驚きの情報である。
 子供の頃から暮らしていた町に4種類もの人外の一族が存在していたなんて、驚くべきことだろう。
 それだけで1本マンガが描けてしまいそうな設定である。

「吸血鬼に人狼、夢魔、そんでもって天狗ね……なんとなくだけど、天狗だけちょっと場違いっぽい気がするね? それだけ日本の妖怪だし」

「はい、より正確に言うのであれば、この土地には元々、天狗の一族だけが住んでいたのです。他の3つの怪物は後から移住してきたもの。町に住む人間を傷つけないことを条件にして移り住むことが許された者達なのです」

「ふーん……続けて?」

「私の……吸血鬼の一族はかつて大きな戦いに敗れ、生き残った者達の一部がこの地まで流れてきたのです。天狗の頭領に頭を下げ、配下となることを条件にして匿ってもらいました。人狼と夢魔の一族も似たようなものです。4つの一族は争うことなく共存し、今日まで隠れ潜んできました。ですが……」

 月白さんはグッと奥歯を噛みしめ、端正な表情を歪める。

「数年前、天狗の一族の頭領が亡くなったことがきっかけで均衡が崩れました。千年を生きている古の大妖怪を失ったことがきっかけとなり、他の3つの一族が争うようになったのです」

「争うって……随分と物騒な話だな。まさか戦争でもしているのか?」

「まだそこまでは。ですが……このままでは本当に戦争に発展するかもしれません」

 月白さんは僕の言葉を肯定して、血を吐くような表情で断言する。

「町の裏社会を支配する3つの一族……つまりは怪物のギャングです。この町では3つのギャングが争い、抗争が勃発しかけている真っただ中なのです!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...