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第二章 クラスメイトは吸血鬼
15.狼さんは不良少女⑥
しおりを挟むドレッドヘアーのラテン系の男がナズナの身体を抱きかかえ、俺達から距離を取る。
ナズナをどこかに連れて行こうとする男に……月白さんが大声で叫ぶ。
「そんな……私はナズナさんに危害を加えるつもりはありません! ただ話し合いをしたいだけで……」
「ハッハアッ! ウチが経営する店にカチ込みをかけてきておいて、今さらそりゃあねえダロウガヨ!」
ドレッドヘアーの男はゲラゲラと笑って、こちらに向けて中指を立ててきた。
「ヒニクな話ダゼ! 平和を望んで話し合いにキテ、それが宣戦布告になるんだからナ。お嬢様をこんな風にしたんダ。もう平和的な解決は不可能だろうヨ!」
「そんな……私達はそんなつもりでは、戦うつもりはなかったのに……!」
月白さんが絶望に表情を凍らせる。
抗争を避け、平和的に問題を解決しようとやってきたはずなのに……その結果として、かえって戦争を引き起こしてしまった。
月白さんが顔を青ざめさせるのも無理はないことである。
「それじゃあ、俺達は引き上げさせてもらうゼエ。次に会った時には戦場になるダロウ……」
「逃がすかヨ!」
「ウオウッ!?」
俺はすぐさま男に向けて駆けていって短剣を振るう。
ドレッドヘアー男が慌てて飛び退る。あと少し、惜しいところで避けられてしまった。
「おっかねえナア! こんな物騒な用心棒をどこで雇ったんだヨ!?」
「ただのクラスメイツだYO! そんなことより……その先輩を置いていけYO!」
何故か僕もわけのわからない口調になりながら、男に追撃しようとした。
だが……床から出た影が壁のように立ちふさがり、男とナズナへの接近を阻止する。
「くっ……このっ……!」
僕は短剣でザクザクと影の壁を斬り裂き、男との距離を詰めようとした。
近づいてくる僕に男が焦ったような表情になり……チラリとサングラス越しに月白さんの方を見る。
「やれやれ……今時の若者は血の気が強くていけねえナア! そっちがその気なら……そっちだYO!」
「きゃあっ!?」
再び、床から影が蛇のように伸びてくる。
長くのたうつ影が月白さんの足首を掴み、天井近くまで逆さづりにした。
「月白さん!?」
何ということだ。月白さんが捕まってしまった!
そして、逆さづりにされたことで制服のスカートが捲れあがり、パンツが丸見えになっている。
魅力的な三角の布地。色はまさかの黒色だった。
清楚系の少女かと思いきや、黒のレースなんてエッチな下着を着ているなんて……とんでもない衝撃である。
「おまけに上着までまくれ上がってきて、このままだとブラジャーまで……!」
「八雲君、そういう場合じゃないですよ!? エッチな目で見ないでください!」
「そうでした! ごめんなさい!」
短剣で影を斬り裂き、落ちてきた月白さんをキャッチする。
定番な展開としてはここで胸や尻を触ってしまい、ラッキースケベになるものだが……パンツを見せてもらったことだし、それは全力で回避しておく。
「アイツは……逃げられたか」
そして、いつの間にか革ジャンの男とナズナが消えていた。
どうやら、月白さんを捕まえたのは逃げるための時間稼ぎだったようである。
「パンツで気を引いてその隙に逃げ出すなんて、男の心を鷲掴みにする策略を……! 奴は現代に蘇ったパーリーピーポーな孔明なのか!?」
「……八雲君。シリアスな空気で言っていますけど、言葉の内容は最低ですよ?」
月白さんが顔を真っ赤にしてスカートを両手で押さえている。
上目遣いで睨みつけてくる彼女から顔を逸らし、僕はコホンと咳払いをした。
「えーと……話し合いで抗争を回避するという目的は不達成になっちゃったね。すまない……僕の力が足りなかったせいで」
「……それは構いません。あちらも本気だったようですし、どちらにしても戦いを回避することは不可能だったでしょう」
「そっか……これからどうするつもりかな? 平和的な解決を諦めるのかい?」
「…………」
尋ねると、月白さんがフルフルと首を横に振る。
「いいえ。ナズナさんの説得は失敗してしまいましたけど、私はまだ諦めていません。必ず……絶対に、みんなを説得してみせます!」
月白さんは強い決意を込めた眼差しで、先ほどまでナズナがいた場所を見つめている。
月白さんとナズナとの間に何があったのかは知らないが……依頼人がまだやる気であれば、僕も付き合わないわけにはいかなかった。
「わかった、僕も協力するよ。出来ることがあるのなら何でも言って欲しい」
「ありがとうございます……早速ですけど、1つお願いがあるのですがよろしいですか?」
「へ……?」
首を傾げると……月白さんはビックリするほど清々しい笑顔で口を開く。
「今から、私は八雲君のことをパーで叩きますけど……避けないでくださいね?」
「…………押忍」
どうやら……パンツを見てしまったことは許してもらえなかったらしい。
僕は甘んじて両手を後ろに回して直立し、月白さんからの闘魂注入を受け入れるのであった。
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