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第二章 クラスメイトは吸血鬼
20.陰陽師1日体験日記⑤
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「いきますよ……式神顕現! 犬神を捕らえなさい!」
華音姉さんが叫ぶと、周囲に浮かんでいた光玉が一斉に飛び出した。
式神はまるで弾丸のような速度で走り、宙を飛び回っている犬神に向かっていく。
『ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタッ!』
だが……恐るべき速さで動き回る犬神を捕らえることはできない。
犬神は式神をすり抜けたかと思うと、まるでパックマンのように丸い身体を上下に裂いて光の玉を呑み込んだ。
『ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタッ!』
「式神が……驚きました。思っていた以上に大物です!」
「大丈夫!? 華音姉さん!」
「お姉ちゃんは大丈夫です。そんなことよりも……弟くんは自分のやるべきことをやってください!」
心配する僕の声に、華音姉さんが叫び返してきた。
お互いの役割分担はできている。
華音姉さんが式神を使って敵を惹きつけ、僕が怪我人や被害者を運び出す。
本当は僕が囮役をやりたかったのだが……華音姉さんの細腕ではここに倒れている複数の男性を運び出すことはできない。
不本意ではあるが、犬神のことは華音姉さんに任せるしかなかった。
「これは気合を入れ直さないといけませんね。お姉ちゃん本気モードです! 式神――『藤裏葉』!」
華音姉さんの前に真っ赤な鎧兜を身に着けた武者が現れた。鎧武者は両手に大太刀を握っており、顔を覆う面の向こうからギョロリと妖しい眼光が放たれる。
見るからに強力なオーラが漂ってくる。どうやら、これが華音姉さんの切り札のようだ。
「この式神は使用制限があって使いづらいのですが……手加減をしている余裕はありません! 行きなさい!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
鎧武者の式神が犬神に斬りかかる。
犬神が素早い動きで大太刀を躱して、反対に鎧武者の腕に噛みつくが……先ほどのようにあっさりやられたりはしない。
鎧武者は平然と犬神を振り払い、反対の手に握られた大太刀を叩きつける。
『ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタッ!』
「おお、すごい!」
僕は怪我人を運び出しながら喝采する。
犬神は相変わらず空を縦横無尽に飛び回っているが、斬られた部分から出血するように黒い粒子が流れ出ていた。
どうやら、ちゃんとダメージが通っているようだ。
「やっぱり華音姉さんはプロの陰陽師なんだな……伊達におっぱいは育ってない!」
「ふっふっふ、そんなに褒めたって何も出ませんよ……あ、ひょっとしたらお乳は出るかもしれませんけど」
うん、何だこのアホみたいな会話は。
僕も華音姉さんも戦いの中で興奮しているのだろうか、アドレナリン爆発の馬鹿みたいな話ぶりである。
それはともかくとして……僕はどんどん怪我人を運んでいく。
この場に倒れているのは工事をしていた作業員。作業員を助けに来てミイラ取りがミイラになった警官と救急隊員。合計で10人ほどである。
いくら僕が勇者として常人離れした腕力を持っているからといって、大の男10人を安全圏まで運び出すとなると一筋縄ではいかない。
華音姉さんにはこのまま頑張って欲しいところなのだが……
「あ!」
『ケタケタケタケタケタケタケタケタッ!』
だが……唐突に均衡が崩れてしまう。
鎧武者が突然、動きが鈍くなって片膝をつき、犬神がここぞとばかりにその首筋に噛みついたのだ。
「クッ……いけません! やはりこの式神は消耗が大きくて……!」
華音姉さんが大きく肩を上下させながら、それでも式神をコントロールしようとする。
どうやら、この式神は強力な代わりに大きく霊力を消耗してしまうようだ。
華音姉さんはどうにかして堪えているが、長くは保ちそうもない。
「ッ……! 姉さん、あとちょっとだけ頑張って!」
僕は最後の怪我人2人を同時に背負い、運び出しながら叫んだ。
この2人を離脱させれば僕も戦闘に参加できる。どうかそれまで耐えてくれ!
「お、弟くん! 弟くんにお願いがあります!」
「え、何だって!?」
こんな時だというのに……華音姉さんが僕に向かって叫んでくる。
「これが終わったらお姉ちゃんのおっぱいに思いっきり甘えてください! そうしてくれれば、お姉ちゃんはもっと頑張れますから!」
「はあっ!? こんな時に何言ってんの!?」
ふざけている場合ではない。
おっぱいにバブバブするのは大歓迎……いや、そうではなくて、こんな状況で弟を誘惑してどうしようというのだ。
「大事なことです! 嘘でもいいから、『イエス』と言ってください!」
「ええ……これって真面目な話なの!? いや、嘘でもいいのなら……イエス。華音姉さんのおっぱいにいくらでも甘えてあげるけど……」
「はい、弟くんの了解をいただきました! お姉ちゃんパワー全開です!」
華音姉さんが嬉しそうに笑ったかと思えば、突風にあおられたように黒い髪がブワリと舞い上がる。
途端、華音姉さんの身体から膨大な量の霊力が噴き出してきた。先ほどまでとは比べ物にならないエネルギー。霊感の全くない人間でも感じ取れるであろう圧倒的な威圧感だった。
「か、華音姉さん……!?」
そういえば……以前、華音姉さんから陰陽術を習う過程で聞いたことがある。
退魔師の中には特定の制約――ルールや縛りを設けることにより、力をブーストする人間がいるらしい。
某有名バトルマンガの念能力のようなものだろう。華音姉さんが陰陽師として活動している際にいつも喪服のような黒い着物を着ているのも制約の一種とのこと。
「弟におっぱいを与えることを制約とした力のブースト………………うん、なるほどなるほど。納得できるか!」
どんな制約だよ。
意味も理屈もまるで通っていない。どうしてそれで元気100倍になっているというのだ。
「いいえ、制約とか関係ありませんよ? ただのお姉ちゃんパワーです。弟に甘えられて力を発揮しないお姉ちゃんなんてこの世界に存在しませんから!」
「お姉ちゃんってスゲエ! いや、やっぱり納得できないんだけどね!?」
ともあれ……パワーアップした華音姉さんの霊力を受けた鎧武者が元気を取り戻した。圧倒的な霊力のオーラを身にまとって立ち上がる。
『オオオオオオオオオオオオオオオッ!』
鎧武者が先ほどよりも力強く、そして鋭く大太刀を振るう。
強烈な斬撃を受け、犬神がバッサリと両断された。
『キャイイイイイイイイイイイイイイイインンッ!?』
犬の鳴き声が響き渡り……空中を飛び回っていた黒い塊が消失したのである。
僕の出番を待つことなく、華音姉さんはほぼ1人で事件を解決してしまったのだった。
華音姉さんが叫ぶと、周囲に浮かんでいた光玉が一斉に飛び出した。
式神はまるで弾丸のような速度で走り、宙を飛び回っている犬神に向かっていく。
『ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタッ!』
だが……恐るべき速さで動き回る犬神を捕らえることはできない。
犬神は式神をすり抜けたかと思うと、まるでパックマンのように丸い身体を上下に裂いて光の玉を呑み込んだ。
『ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタッ!』
「式神が……驚きました。思っていた以上に大物です!」
「大丈夫!? 華音姉さん!」
「お姉ちゃんは大丈夫です。そんなことよりも……弟くんは自分のやるべきことをやってください!」
心配する僕の声に、華音姉さんが叫び返してきた。
お互いの役割分担はできている。
華音姉さんが式神を使って敵を惹きつけ、僕が怪我人や被害者を運び出す。
本当は僕が囮役をやりたかったのだが……華音姉さんの細腕ではここに倒れている複数の男性を運び出すことはできない。
不本意ではあるが、犬神のことは華音姉さんに任せるしかなかった。
「これは気合を入れ直さないといけませんね。お姉ちゃん本気モードです! 式神――『藤裏葉』!」
華音姉さんの前に真っ赤な鎧兜を身に着けた武者が現れた。鎧武者は両手に大太刀を握っており、顔を覆う面の向こうからギョロリと妖しい眼光が放たれる。
見るからに強力なオーラが漂ってくる。どうやら、これが華音姉さんの切り札のようだ。
「この式神は使用制限があって使いづらいのですが……手加減をしている余裕はありません! 行きなさい!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
鎧武者の式神が犬神に斬りかかる。
犬神が素早い動きで大太刀を躱して、反対に鎧武者の腕に噛みつくが……先ほどのようにあっさりやられたりはしない。
鎧武者は平然と犬神を振り払い、反対の手に握られた大太刀を叩きつける。
『ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタッ!』
「おお、すごい!」
僕は怪我人を運び出しながら喝采する。
犬神は相変わらず空を縦横無尽に飛び回っているが、斬られた部分から出血するように黒い粒子が流れ出ていた。
どうやら、ちゃんとダメージが通っているようだ。
「やっぱり華音姉さんはプロの陰陽師なんだな……伊達におっぱいは育ってない!」
「ふっふっふ、そんなに褒めたって何も出ませんよ……あ、ひょっとしたらお乳は出るかもしれませんけど」
うん、何だこのアホみたいな会話は。
僕も華音姉さんも戦いの中で興奮しているのだろうか、アドレナリン爆発の馬鹿みたいな話ぶりである。
それはともかくとして……僕はどんどん怪我人を運んでいく。
この場に倒れているのは工事をしていた作業員。作業員を助けに来てミイラ取りがミイラになった警官と救急隊員。合計で10人ほどである。
いくら僕が勇者として常人離れした腕力を持っているからといって、大の男10人を安全圏まで運び出すとなると一筋縄ではいかない。
華音姉さんにはこのまま頑張って欲しいところなのだが……
「あ!」
『ケタケタケタケタケタケタケタケタッ!』
だが……唐突に均衡が崩れてしまう。
鎧武者が突然、動きが鈍くなって片膝をつき、犬神がここぞとばかりにその首筋に噛みついたのだ。
「クッ……いけません! やはりこの式神は消耗が大きくて……!」
華音姉さんが大きく肩を上下させながら、それでも式神をコントロールしようとする。
どうやら、この式神は強力な代わりに大きく霊力を消耗してしまうようだ。
華音姉さんはどうにかして堪えているが、長くは保ちそうもない。
「ッ……! 姉さん、あとちょっとだけ頑張って!」
僕は最後の怪我人2人を同時に背負い、運び出しながら叫んだ。
この2人を離脱させれば僕も戦闘に参加できる。どうかそれまで耐えてくれ!
「お、弟くん! 弟くんにお願いがあります!」
「え、何だって!?」
こんな時だというのに……華音姉さんが僕に向かって叫んでくる。
「これが終わったらお姉ちゃんのおっぱいに思いっきり甘えてください! そうしてくれれば、お姉ちゃんはもっと頑張れますから!」
「はあっ!? こんな時に何言ってんの!?」
ふざけている場合ではない。
おっぱいにバブバブするのは大歓迎……いや、そうではなくて、こんな状況で弟を誘惑してどうしようというのだ。
「大事なことです! 嘘でもいいから、『イエス』と言ってください!」
「ええ……これって真面目な話なの!? いや、嘘でもいいのなら……イエス。華音姉さんのおっぱいにいくらでも甘えてあげるけど……」
「はい、弟くんの了解をいただきました! お姉ちゃんパワー全開です!」
華音姉さんが嬉しそうに笑ったかと思えば、突風にあおられたように黒い髪がブワリと舞い上がる。
途端、華音姉さんの身体から膨大な量の霊力が噴き出してきた。先ほどまでとは比べ物にならないエネルギー。霊感の全くない人間でも感じ取れるであろう圧倒的な威圧感だった。
「か、華音姉さん……!?」
そういえば……以前、華音姉さんから陰陽術を習う過程で聞いたことがある。
退魔師の中には特定の制約――ルールや縛りを設けることにより、力をブーストする人間がいるらしい。
某有名バトルマンガの念能力のようなものだろう。華音姉さんが陰陽師として活動している際にいつも喪服のような黒い着物を着ているのも制約の一種とのこと。
「弟におっぱいを与えることを制約とした力のブースト………………うん、なるほどなるほど。納得できるか!」
どんな制約だよ。
意味も理屈もまるで通っていない。どうしてそれで元気100倍になっているというのだ。
「いいえ、制約とか関係ありませんよ? ただのお姉ちゃんパワーです。弟に甘えられて力を発揮しないお姉ちゃんなんてこの世界に存在しませんから!」
「お姉ちゃんってスゲエ! いや、やっぱり納得できないんだけどね!?」
ともあれ……パワーアップした華音姉さんの霊力を受けた鎧武者が元気を取り戻した。圧倒的な霊力のオーラを身にまとって立ち上がる。
『オオオオオオオオオオオオオオオッ!』
鎧武者が先ほどよりも力強く、そして鋭く大太刀を振るう。
強烈な斬撃を受け、犬神がバッサリと両断された。
『キャイイイイイイイイイイイイイイイインンッ!?』
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