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第8話 戦乙女の歌
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『戦乙女の歌』は結成から五年になる中堅の冒険者パーティーである。
何度かメンバーが加入・脱退したことはあるが、大きなトラブルに見舞われることなく今日まで活動を続けていた。
現在のパーティーメンバーは三人。
リーダーのエベリアは剣士。ミスリル製の鎧を装着しており、片手に剣、片手に盾を持っている。パーティー内での役割はタンクで後衛を守るガーダーだった。
同じく、パーティーメンバーとしてレーナとローナの二人がいる。
よく似通った容姿の二人は双子の姉妹らしいのだが、髪と瞳の色がレーナは青色、ローナは赤色のため印象が大きく異なっていた。
レーナは魔法使いで杖を持っており、ローナは斥候役も兼ねたアーチャーで弓矢とダガーナイフで武装している。
「レーナとローナは五人姉妹で全員が冒険者をしているんだ。二人の姉がかつてこのパーティーに所属していたのだけど、結婚をすることになって引退してしまってね。入れ替わりに二人が入ってきたんだ」
「へー、五人姉妹なんだ。そんなに姉妹がいるなんていいなあ」
依頼先である森に向かう移動中。
エベリアの説明を聞いて、アイシスが羨ましそうな顔をする。
「アイシスには兄弟姉妹はいないのか? 辺境の出身だと言っていたな?」
「うん。もうじき弟か妹が生まれる予定だけどね。優しいお姉さんとか、私も欲しかったなー」
「姉妹なんていても良いことないわよ。ご飯の時はおかずの取り合いばっかりだし」
「馬鹿な妹を持つと辛い。大変」
「性格の悪い姉を持って苦労しているのは私よ! 偉そうにしないでっ!」
レーナとローナが口論を始める。
二人は性格も真逆のようで、姉のレーナは冷静沈着で表情が乏しい。妹のローナは表情豊かで癇癪を起こしやすいようである。
正反対であまり仲が良いとは言えない姉妹をメンバーとして抱えて、エベリアの苦労が透けて見えるようだった。
「まあまあ、二人ともみっともないところを見せるんじゃない。ほら、森が見えてきたぞ」
城門を出て三十分ほど歩いた場所にある森に到着した。
王都から近いその森は薪などの燃料、山菜やキノコ、薬草を採取するための場所として重宝されているそうだ。
しかし、最近になって森にコボルトというモンスターが棲みついてしまい、森に入った人間が怪我をさせられていた。
「コボルトは少なくとも十匹はいるらしい。彼らを倒し、依頼達成の証明として尻尾を斬り落として持ち帰る……これが今回の依頼内容だ」
「何ができる? 武器、持ってない」
レーナが短く区切った口調で訊ねる。
どうやら、アイシスが手ぶらなことが気になったようだ。
「私? 私はモンスターをぶつよ」
「ぶつ?」
「うん、超殴る」
「格闘家なのかな? だったら、手を保護するために籠手などを装備した方が良い。金属製のものならば攻撃力も増すからね」
言いながら、エベリアはアイシスがあまり戦力にならないであろうことを予想した。
自分自身の身体を武器にする格闘家や武闘家は冒険者でもたまにいる。
だが……その多くは中途半端な戦力になりがち。武器を持っていない分だけスピードは速いが、攻撃力不足で活躍できないことが多かった。
魔力による身体強化である程度補うことはできるが、モンスターの固い体毛や装甲に人間の拳など通じないのだから。
「そうなんだ。でも、私はわりと強いから大丈夫だよ」
「……そうか。他にできることはあるかな? 魔法とかは使えないのかい?」
「光魔法だったらできるよ。ほら」
アイシスが人差し指を立てると、そこに柔らかな白い光が灯った。
「……そうか、光魔法か」
これまた微妙な属性の魔法である。
光魔法は暗い場所を照らしたり、アンデッドを浄化したりと便利ではあるのだが、攻撃力は地水火風の四元素を操る魔法に遠く及ばない。
火魔法のように敵を焼き尽くす熱量が無く、水魔法や土魔法のように敵を押し潰す質量を持たない。風魔法のような汎用性もない中途半端な魔法……それが光魔法である。
「ゴーストやゾンビとの戦いでは役に立ちそうだね。必要な場面になったら頼らせてもらうよ」
エベリアがフォローを入れる。そんな場面は滅多にないだろうが。
(どうやら、あまり戦力としてアテにはできないようだ。今回の依頼が終わればそれきりかな?)
エベリアが心の中で身も蓋もない評価を下す。
もしもアイシスが戦力になるようならば勧誘して、『戦乙女の歌』に勧誘するつもりだったのだが……残念ながら、彼女にそれほどの価値はないようである。
(うーん、前衛メンバーが足りなくて探していたんだけど……やはり女性冒険者は後衛が多いからな。なかなか見つからなくて困る)
『戦乙女の歌』はガーダーであるエベリアをリーダーに、後衛のレーナとローナの二人がいるだけ。
出来れば、剣や槍などを武器にする前衛のアタッカーがあと一人は欲しいところである。
「モンスターの気配がするわ。みんな、気をつけて」
エベリアが考え込んでいると、ローナが警戒を呼びかける。
四人が立ち止まって身構えると……ガサガサと木々をかき分けて、二本足で歩く獣が現れた。
「グルルルル……」
「コボルトだ。みんな、気をつけろ」
エベリアが剣と盾を構える。
現れたのは茶色の体毛をまとった二本足の犬。体長は一メートル五十センチほど。
コボルトと呼ばれる獣型のモンスターである。
「相手は一体か……取るに足らないな」
コボルトは強いモンスターではない。
群れを成せばそれなりに厄介ではあるが、上位互換である『ワーウルフ』というモンスターと比べるとパワーもスピードも低レベル。
新人冒険者でも複数体でなければ問題なく倒せる敵だった。
「アイシス、せっかくだから君の力量を見せてくれないかな。ここは君が戦ってみてくれ」
「えいっ」
「大丈夫、危なくなったらちゃんと助けて…………へ?」
エベリアが言い切るよりも先に、アイシスは前に踏み出していた。
襲いかかってこようとしているコボルトの顔面めがけて拳を振り抜く。
「ギャッ!?」
コボルトが短い悲鳴を上げて頭部を爆散させる。
首から上が粉々に砕け散り、真っ赤な鮮血が森の木々を赤く染めた。
「倒したよ。これで良いんだよね?」
「…………嘘お」
思ってもみない光景を目の当たりにして、エベリアは唖然として言葉を無くした。
顔を引きつらせているエベリアにアイシスは不思議そうに首を傾げたのである。
何度かメンバーが加入・脱退したことはあるが、大きなトラブルに見舞われることなく今日まで活動を続けていた。
現在のパーティーメンバーは三人。
リーダーのエベリアは剣士。ミスリル製の鎧を装着しており、片手に剣、片手に盾を持っている。パーティー内での役割はタンクで後衛を守るガーダーだった。
同じく、パーティーメンバーとしてレーナとローナの二人がいる。
よく似通った容姿の二人は双子の姉妹らしいのだが、髪と瞳の色がレーナは青色、ローナは赤色のため印象が大きく異なっていた。
レーナは魔法使いで杖を持っており、ローナは斥候役も兼ねたアーチャーで弓矢とダガーナイフで武装している。
「レーナとローナは五人姉妹で全員が冒険者をしているんだ。二人の姉がかつてこのパーティーに所属していたのだけど、結婚をすることになって引退してしまってね。入れ替わりに二人が入ってきたんだ」
「へー、五人姉妹なんだ。そんなに姉妹がいるなんていいなあ」
依頼先である森に向かう移動中。
エベリアの説明を聞いて、アイシスが羨ましそうな顔をする。
「アイシスには兄弟姉妹はいないのか? 辺境の出身だと言っていたな?」
「うん。もうじき弟か妹が生まれる予定だけどね。優しいお姉さんとか、私も欲しかったなー」
「姉妹なんていても良いことないわよ。ご飯の時はおかずの取り合いばっかりだし」
「馬鹿な妹を持つと辛い。大変」
「性格の悪い姉を持って苦労しているのは私よ! 偉そうにしないでっ!」
レーナとローナが口論を始める。
二人は性格も真逆のようで、姉のレーナは冷静沈着で表情が乏しい。妹のローナは表情豊かで癇癪を起こしやすいようである。
正反対であまり仲が良いとは言えない姉妹をメンバーとして抱えて、エベリアの苦労が透けて見えるようだった。
「まあまあ、二人ともみっともないところを見せるんじゃない。ほら、森が見えてきたぞ」
城門を出て三十分ほど歩いた場所にある森に到着した。
王都から近いその森は薪などの燃料、山菜やキノコ、薬草を採取するための場所として重宝されているそうだ。
しかし、最近になって森にコボルトというモンスターが棲みついてしまい、森に入った人間が怪我をさせられていた。
「コボルトは少なくとも十匹はいるらしい。彼らを倒し、依頼達成の証明として尻尾を斬り落として持ち帰る……これが今回の依頼内容だ」
「何ができる? 武器、持ってない」
レーナが短く区切った口調で訊ねる。
どうやら、アイシスが手ぶらなことが気になったようだ。
「私? 私はモンスターをぶつよ」
「ぶつ?」
「うん、超殴る」
「格闘家なのかな? だったら、手を保護するために籠手などを装備した方が良い。金属製のものならば攻撃力も増すからね」
言いながら、エベリアはアイシスがあまり戦力にならないであろうことを予想した。
自分自身の身体を武器にする格闘家や武闘家は冒険者でもたまにいる。
だが……その多くは中途半端な戦力になりがち。武器を持っていない分だけスピードは速いが、攻撃力不足で活躍できないことが多かった。
魔力による身体強化である程度補うことはできるが、モンスターの固い体毛や装甲に人間の拳など通じないのだから。
「そうなんだ。でも、私はわりと強いから大丈夫だよ」
「……そうか。他にできることはあるかな? 魔法とかは使えないのかい?」
「光魔法だったらできるよ。ほら」
アイシスが人差し指を立てると、そこに柔らかな白い光が灯った。
「……そうか、光魔法か」
これまた微妙な属性の魔法である。
光魔法は暗い場所を照らしたり、アンデッドを浄化したりと便利ではあるのだが、攻撃力は地水火風の四元素を操る魔法に遠く及ばない。
火魔法のように敵を焼き尽くす熱量が無く、水魔法や土魔法のように敵を押し潰す質量を持たない。風魔法のような汎用性もない中途半端な魔法……それが光魔法である。
「ゴーストやゾンビとの戦いでは役に立ちそうだね。必要な場面になったら頼らせてもらうよ」
エベリアがフォローを入れる。そんな場面は滅多にないだろうが。
(どうやら、あまり戦力としてアテにはできないようだ。今回の依頼が終わればそれきりかな?)
エベリアが心の中で身も蓋もない評価を下す。
もしもアイシスが戦力になるようならば勧誘して、『戦乙女の歌』に勧誘するつもりだったのだが……残念ながら、彼女にそれほどの価値はないようである。
(うーん、前衛メンバーが足りなくて探していたんだけど……やはり女性冒険者は後衛が多いからな。なかなか見つからなくて困る)
『戦乙女の歌』はガーダーであるエベリアをリーダーに、後衛のレーナとローナの二人がいるだけ。
出来れば、剣や槍などを武器にする前衛のアタッカーがあと一人は欲しいところである。
「モンスターの気配がするわ。みんな、気をつけて」
エベリアが考え込んでいると、ローナが警戒を呼びかける。
四人が立ち止まって身構えると……ガサガサと木々をかき分けて、二本足で歩く獣が現れた。
「グルルルル……」
「コボルトだ。みんな、気をつけろ」
エベリアが剣と盾を構える。
現れたのは茶色の体毛をまとった二本足の犬。体長は一メートル五十センチほど。
コボルトと呼ばれる獣型のモンスターである。
「相手は一体か……取るに足らないな」
コボルトは強いモンスターではない。
群れを成せばそれなりに厄介ではあるが、上位互換である『ワーウルフ』というモンスターと比べるとパワーもスピードも低レベル。
新人冒険者でも複数体でなければ問題なく倒せる敵だった。
「アイシス、せっかくだから君の力量を見せてくれないかな。ここは君が戦ってみてくれ」
「えいっ」
「大丈夫、危なくなったらちゃんと助けて…………へ?」
エベリアが言い切るよりも先に、アイシスは前に踏み出していた。
襲いかかってこようとしているコボルトの顔面めがけて拳を振り抜く。
「ギャッ!?」
コボルトが短い悲鳴を上げて頭部を爆散させる。
首から上が粉々に砕け散り、真っ赤な鮮血が森の木々を赤く染めた。
「倒したよ。これで良いんだよね?」
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