13 / 43
第11話 神撃
しおりを挟む「ごめんね? 待った?」
まるで待ち合わせに遅刻してしまったようなセリフを口にして、アイシスがコボルトジェネラルの前に進み出る。
「君は襲ってこないのかな? さっきから見ているだけだけど?」
聞きようによっては煽っているような言葉を受けながらも、コボルトジェネラルは動かない。
唸り声を漏らしながら、警戒した様子でアイシスを睨みつけていた。
「グルルルル……」
この状況に困惑しているのはむしろコボルトジェネラルの方である。
簡単な狩りのはずだった。人間の雌を四匹ほど殺して、肉を食う。ただそれだけのシンプルな作業。
彼女達には随分と手下を狩られてしまったが……人間、特に冒険者と呼ばれている者達の血肉は魔力が豊富で栄養価が高い。
彼女達を喰らえば、すぐに繁殖して数を補うことができるだろう……コボルトジェネラルはそんなふうに考えていた。
だが……結果を見ればどうだ。
女達を包囲していたコボルトは目の前の雌一匹に大半が殺されてしまった。
残りも現在進行形で駆逐されている。もはや群れは壊滅といえるだろう。
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」
それでもコボルトジェネラルが逃走を選ぶことなく高々と吠えたのは、いずれ『王』となるべき者の誇りである。
コボルトジェネラルは本能から知っていた。
多くの獲物を喰らい、同胞すらも屠って上位の変異種となった己であったが……その進化がまだ止まっていないことを。
己はいずれさらなる上位種族……『コボルトキング』に上り詰めることができる器であると確信していたのだ。
「ふえ?」
「グガアッ!」
ゆえに、コボルトジェネラルは逃げない。
逃げることなく……背中に背負っていた大剣を引き抜き、アイシスめがけて斬りかかった。
「え? え? ええっ!? モンスターが剣を使うの!?」
「ガアッ! ガアッ! ガアッ!」
困惑するアイシスにコボルトジェネラルが連続して斬撃を浴びせかける。
アイシスは驚いて目を見開きながら、左右へのステップで大剣を回避した。
その大剣は以前、とある冒険者を倒した際に入手したものである。
剣技は見様見真似のブサイクなものであったが、筋力が人間を遥かに凌いでいるため、どうにか様になっていた。
「すごいっ! 剣を使うことができるだなんて、都会のモンスターって頭良い!」
アイシスが見当違いなところで感動の声を上げて、横薙ぎに振るわれた斬撃を頭を下げて回避する。
「ガアッ!」
「わっ!」
しかし、それはコボルトジェネラルにとって計算通りだった。
体勢を低くしたアイシスめがけて、地面の泥を蹴りつけたのである。
「わっぷ! 汚いっ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」
顔に泥を浴びたアイシスが怯んだ隙に、コボルトジェネラルが渾身の斬撃を振り下ろす。
コボルトとして生を受けて変異種になり、剣を手にしてから最高の一撃。
全身全霊を込められたその攻撃をアイシスは躱しきれず、右腕を斬り飛ばされる。
「ああっ……!」
「アイシスさん!」
悲鳴を上げたのは周囲のコボルトを倒し終えた『戦乙女の歌』の面々である。
自分達の希望であったはずのアイシスの腕が宙を舞うのを見て、またしても絶望的な顔になってしまう。
「いったーい! もう、何するのっ!」
しかし、腕を斬られたアイシスの反応は思いのほかに軽かった。
まるで道で人に足を踏まれたようなリアクションである。
「あうう……油断したよう。『格下でも舐めてかかるな』ってパパにも言われてたのに……」
気の抜けるような声で言って、アイシスが顔についた泥を落とす。
今しがた斬り落とされたはずの右腕で。
「ガウッ!?」
その瞬間をコボルトジェネラルは見た。
アイシスの右腕を落として勝利を確信した直後、腕の断面が輝いて新しい腕が生えてきたところを。
それは何らかの魔法によってもたらされたものなのか。それとも、本当に神の御業だったというのだろうか。
それを理解する時間はコボルトジェネラルには残されていない。
彼は今まさに、今際の際を迎えているのだから。
「うーん、都会に出てきたばかりで浮かれてたのかな? 油断せずちゃんと殺さないと『メッ!』だよね」
「ッ……!」
アイシスが両手を天に向けて掲げると……何もなかったはずの空間から金属でできた純白の籠手が出現して、腕を覆っていく。
まるで神が授けた武器のようなそれをコボルトジェネラルは魅入られたように見つめた。
目の前で何が起こっているのかはわからない。
「グルルルルルル……」
だが……わからないなりに確信する。
自分は戦ってはいけない相手にケンカを売ってしまったのだ。
王を目指すのであれば、森の奥深くに籠ったまま、人間と戦うことなく己を磨き上げるべきだったのだ。
「『神撃』」
アイシスが短くつぶやいて右手の拳を振るう。
コボルトジェネラルの巨体の中央に大きな穴が穿たれ、その身体が塵となって跡形もなく消滅していった。
46
あなたにおすすめの小説
私ですか?
庭にハニワ
ファンタジー
うわ。
本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。
長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。
良く知らんけど。
この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。
それによって迷惑被るのは私なんだが。
あ、申し遅れました。
私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。
潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる