神撃のアイシス 悪役令嬢の娘ですが冒険者になりました

レオナール D

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第10話 コボルトジェネラル

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 木々を薙ぎ倒し、黒い体毛に覆われた巨大なコボルトが眼前に出現した。
 巨大な怪物の周囲には何匹ものコボルトが付き従っており、まるで王のそばに侍る従者のようだった。

「コボルトジェネラルだって!? 嘘だろう!」

 エベリアが愕然として叫ぶ。
 現れたモンスターはコボルトの変異種の中でも特に厄介な存在。
 上位ランク冒険者がパーティーを組んで相手にするような強力なモンスターだったのである。

「私達が勝てるような相手じゃない……! みんな、バラバラになって逃げるぞ。散って逃げれば少なくとも全滅は……」

「……エベリア、いったいどこに逃げるの?」

「え……?」

「逃げ場、ない」

 レーナの冷静な声に周囲を確認したエベリアは息を呑む。
 いつの間にか、周りには無数のコボルトが集まってきていたのだ。
 先ほどまで一方的に駆られていただけのコボルト達が、今は獲物を狙う狩人の目になって四人を睨みつけていた。

「これは……いったい、どうすれば……」

「嘘、でしょ? こんなの、勝てるわけがない……」

 エベリアは絶望に表情を沈め、ローナも涙目になる。
 レーナはまだ冷静だったが、それでも顔を蒼白にさせていた。

「グヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!」

 コボルトジェネラルが嗤うように鳴いた。
 避けられない『死』を前にして心が折れた女達を嘲笑っているのだ。
 周囲にいるコボルト達もジリジリと距離を詰めてくる。
 襲いかかってくることがないのは、群れのボスからの許可を待っているのだろう。

「ガアッ!」

「「「「「ワオオオオオオオオオオオオンッ!」」」」」

 コボルトジェネラルが短く吠えると、無数のコボルトが嬉々として襲いかかってくる。
 哀れな四匹の獲物に群がり、皮を裂き、肉を喰らわんとヨダレを垂れ流しながら。
 数秒後には彼らのイメージ通りの展開となっていたことだろう。
 抵抗する意思すら無くした娘達がコボルトに群がられ、血肉を貪られていたに違いない。

「えいっ!」

 だが……そんな未来は永遠にやってこなかった。
 コボルト達は勘違いをしていた。彼らはどれだけ数を増やそうとも、『彼女』にとっては軽く払える程度の塵芥に過ぎなかったのだ。

「は……?」

 エベリアと、抱き合うレーナとローナ。
 三人の目の前で……コボルト達が粉々に破裂した。
 粉々に……そう、文字通りに『粉々』である。
 四人をなぶり殺しにしようとしていたコボルトは一匹残らず、粒子状になるまでバラバラに分解されてしまったのだ。

「あのさ、もう倒しちゃっても良いんだよね?」

 震える『戦乙女の歌』の三人が見つめる先、白い発光体となったアイシスが立っていた。
 アイシスは手足に尾を引く流星のような光を纏っており、襲いかかってきたコボルトを一撃で消滅させたのだ。

「さっき撤退って言ってたから逃げた方が良いのかなって迷っていたんだけど……逃げるのは中止ってことだよね? コレ、やっつけちゃっても良いんだよね?」

「あ、アイシス……?」

「やっ!」

 アイシスが光輝を纏った足で周囲を薙ぐ。
 回し蹴りによって包囲していたコボルトの大部分が同じように塵となり、空気に溶けるようにして消えていった。

「その力は……いったい……」

 エベリアが呆然としてつぶやいた。
 光を纏って戦う……始めて見る光景である。
 極められた魔力による身体強化を行うと、身体の周囲を蒸気のようなオーラが包み込むことがある。
 だが……今のアイシスのように発光まではしない。
 光を帯びた手足を武器にして戦うアイシスの姿はまるで神の御使い。
エベリア達のパーティーネームの由来にもなった『戦乙女』のようである。

「それじゃあ、私はあの大っきいのをやっつけるね。残った小っちゃいのはよろしく!」

「あ……」

 エベリアが止める暇もなく、アイシスがコボルトジェネラルに向かって走っていく。
 パーティーリーダーとしては止めるべきなのだろうが……奇跡のような光景を目にしたせいか、アイシスが負ける姿が想像できない。

「エベリア……」

「わかっている、レーナ。ローナも無事か?」

「ど、どうにかね……」

 エベリアが呼びかける。レーナがローナに肩を貸して立たせている。
 周囲にはアイシスによってかなり数を減らされているが、まだコボルトが残っていた。

「アイシス一人に戦わせるわけにはいかない! 私達もやるぞ!」

「わかった」

「了解っ!」

『戦乙女の歌』の三人が戦意を取り戻し、周囲にいるコボルトを剣で斬り、弓と魔法で減らしていく。
 コボルトジェネラルとの戦いには参戦できなくとも、せめてアイシスの邪魔はさせない。
 冒険者としての矜持。パーティーネームに恥じぬよう、戦乙女の援護をするために必死になって奮闘していたのである。
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