神撃のアイシス 悪役令嬢の娘ですが冒険者になりました

レオナール D

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第13話 悪役令嬢の娘、パーティーを組む

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 アイシスが冒険者として活動を始めて、三ヵ月が経過した。
 最初の依頼中にコボルトジェネラルという大物を打倒したアイシスであったが、やはりその功績が冒険者ギルドに認められることはなかった。
 コボルトジェネラルの死体すら残っていないのだから、仕方がないことである。
 だが……たとえその功績が無かったことになったとしても、構うことかとばかりにアイシスは冒険者として台頭していく。
 次々と強力なモンスターを打ち破って、一流冒険者の階段を駆け上がっていったのである。

「アイシス! そっちに行ったぞ!」

「うん、わかってるよー」

 エベリアの叫びにアイシスが気の抜けた声で答えた。

 場所はとある洞窟の中。
 暗く湿った地面と壁。頭上からは鍾乳石が垂れ下がって伸びている。
 そして……アイシスの前に迫ってきているのは巨大な四本足の爬虫類。『ストーンバジリスク』という名前のモンスターだった。

「GYAAAAAAAAAAAA!!」

 巨大なトカゲが唾液を撒き散らしながら、アイシスめがけて駆けてくる。
 その獰猛な顎は細身のアイシスのことなど一飲みにしてしまえるほど大きく、鋭い牙が生えそろっていた。

「えいっ」

 そんな怪物を前にしながら、アイシスの様子はいつもと変わらない。
 気楽そうな声と共に上から下へと拳を振り下ろす。

「GYAN!?」

 ストーンバジリスクが頭部を砕かれ、顎下を地面に叩きつけられる。
 小さな拳と固い床の間でサンドイッチにされてバキボキと骨が砕ける音が鳴る。
 しばらく手足と尻尾をばたつかせていたが、すぐにグッタリと力なく臥して動かなくなった。

「フウ、仕事おしまい! 今日はちょっと大変だったね!」

「大変だったのはここに来るまでの山歩きだろう? まったく、こんな怪物を素手で殴り殺すとか常識離れしているな」

 腕で額の汗をぬぐうアイシスにエベリアが呆れた様子で声をかける。

「ん、アイシスは常識がない。ローナの次に」

「アンタに言われたくないわよ! レーナのくせに生意気よ!」

 すぐに洞窟の奥から他の二人も現れた。レーナとローナ、仲の悪い双子の姉妹である。
 最初のコボルト狩りで知り合ってから、アイシスは『戦乙女の歌』に加入して行動を共にしていた。
 リーダーであるエベリアから誘われて、特に断る理由もなかったので二つ返事で受けたのだ。

 アイシスを加えた『戦乙女の歌』の活躍は目覚ましかった。
 元々、全員がCランクパーティーとして実績を挙げていたのだが、今一つ伸びきれない、殻を破りきれない部分があった。
 それがアイシスの活躍によって大きく弾けて、先日、Bランクパーティーに昇格をした。
 冒険者ギルドには個人のランクだけではなくてパーティーごとのランクがあるのだが、Bランクはギルドの主力として認められるほどの実力に相当する。
 個人のランクもレーナとローナの双子はまだCランクだが、エベリアとアイシスはBランクになっている。
 特にアイシスはギルドから目をかけられており、そう遠くない未来にAランクに昇格するのではないかと言われている。

「みんなのおかげで倒せたよ! 敵をいぶりだしてくれてありがとっ!」

 アイシスが片手を上げて、無邪気な笑みで仲間達の活躍を称える。
 今の『戦乙女の歌』はアイシスの圧倒的な強さによって支えられているが、おんぶにだっこというわけではない。
 むしろ、常識はずれで猪突猛進、拳で何でも解決しようとするアイシスを三人が支える場面の方が多かった。

 アイシスはあらゆる点で抜けている。
 まず、金銭感覚がなくて平気で大金を投げ出そうとする。
 薬屋で回復役を購入する際に店主が冗談で「はい、金貨十枚ね」と口にしたところ、「あ、やっぱり魔法のお薬で高いんだー」と言われたとおりの金額を支払おうとした。
 レストランでフォークを落とした際、新しいものと取り換えてくれた店員にチップで金貨を支払おうとする。
 街中で物乞いの子供を見つけたら、ギルドで受け取ったばかりの報酬が入った袋……金貨二十枚以上が入っているそれをまとめて施そうとしたこともあった。

 そんな金回りが良いお人好しのアイシスを騙そうとする者も少なくはなく、そのたびに仲間三人が奔走することになっている。
 今回の依頼もそうだった。
 岩山の洞窟に隠れているストーンバジリスクの討伐が今回の目的だったのだが……依頼を受けた当初、アイシスは岩山ごとぶち壊して敵を生き埋めにしようとしていたのだ。
 ストーンバジリスクの能力『石化の蛇眼』を防ぐために思いついた解決策であるが……もちろん、そんな暴挙は許されない。
 そんなことをされたら麓にまで崖崩れが発生してしまう可能性があるし、ストーンバジリスクが生き埋めになって討伐証明部位を得ることもできないのでタダ働きになってしまう。

(この子は私がいないとだめだ……!)

(アイシスは放っておいたらヤバい……!)

(私達がフォローしてあげないと酷いことになる……!)

 三人の意見は一致していた。
 アイシスにとって救いだったのは、その三人がアイシスを利用しようなどとは考えず純粋に支えてくれたこと。
 アイシスに置いていかれないようにと必死になって努力しており、この三ヵ月で見違えるほど冒険者としての腕を上げていた。
 今では四人とも一流の冒険者として認められており、王都の人々からも一目置かれていたのである。

「それにしても……辛子で蛇眼を封じるなんて、レーナはよく思いついたね。もしかして、天才なんじゃないの?」

 アイシスはレーナが考え、実行した作戦を褒めちぎる。
 今回、岩山の洞窟の奥深くに隠れているストーンバジリスクをおびき出すため、レーナが粉状にした辛子を魔法で巣穴にぶち込んでいた。
 風の魔法によって拡散した辛子によってストーンバジリスクは目をやられて石化の蛇眼が使えなくなってしまい、狭い巣穴から出てきてしまった。
 巣穴から出たストーンバジリスクをエベリアとローナがアイシスのところまで誘導する。
 そして……広くて戦いの余波で崩落を起こす心配がない場所で、待ち構えていたアイシスが退治するという作戦である。

「これくらい当然。ブイ」

 アイシスに褒められたレーナが得意げにⅤサインをした。

「エベリアさんもローナも、目が見えなくなったストーンバジリスクを私の方に誘導するとか、よくそんな器用なことできるよね。私だったら、絶対にできなかったよ」

「まあ、アイシスよりも長く冒険者をやっているからな。経験の差だ」

「私は狩人だから。獲物を追いかけるのは得意なのよ」

 アイシスに褒められて、エベリアとローナも嬉しそうに笑うが……全員、心の中で「すごいのはお前だ」と考えている。
 固いストーンバジリスクの頭部を砕くだなんて、特大の金属ハンマーを使わなければ難しいことだ。
 それを十五歳の少女が素手でやってのけたのだから、改めて化物じみている。

「フウ……仕事しちゃったらお腹空いちゃった。今日はもう帰ってご飯にしない」

「おいおい……アイシス、せっかくのモンスターの素材を剥ぎ取らずに行くつもりか?」

「私が背負っていくから大丈夫だよー。麓までだったら楽勝だから」

「……私達が剥ぎ取りをする。お前はそこで座って干し肉でも齧ってろ」

「ングッ」

 エベリアがアイシスの口に保存食を押し込んだ。
 アイシスが素直に肉を食んでいる間に、他の三人が手早く必要な素材を切り分けていく。
 素材の剥ぎ取りや採取もアイシス以外の仕事である。
 前にアイシスがやらせたところ、腕力まかせでザクザクに切断したせいで貴重な素材の売却価格が下がってしまった。

(まあ、この子が万能じゃなくて良かったよ……)

 エベリアが鱗を削ぎ落としながら思う。
 もしもアイシスが戦闘以外も完璧にこなすことができる超人であったのなら、三人は必要とされなかったかもしれない。

(戦闘以外は欠点まみれのおかげで、私はこの『戦乙女』の力になることができるんだ。万物を彼女に与えなかった神に感謝だな)

 エベリアは……他の二人も、確信していた。
 アイシスは必ず、将来的に大きなことを成し遂げて英雄になることだろう。歴史に残るような偉業を達成するはず。

(私は英雄になれるような力のない凡人だけど……それでも、その英雄を傍で支えていたんだという名誉が欲しい。彼女の活躍を見守って、『戦乙女』の剣の一本になりたい)

「エベリアさん、この干し肉美味しいよ。みんなも休憩して食べない?」

「私達は後で良い。もう一本お食べ」

「わーい! やったあ!」

 ハムハムと肉をかじっているアイシスの姿に、エベリアは母親のように慈悲深い表情を浮かべるのであった。
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