神撃のアイシス 悪役令嬢の娘ですが冒険者になりました

レオナール D

文字の大きさ
19 / 43

第16話 見放された国

しおりを挟む
「…………!」

 受付嬢の言葉にエベリアは大きく目を見開いた。

 エイルーン帝国。『見放された土地』。
 それは冒険者の間で、悪い意味合いで有名な国名だった。

 エイルーン帝国はかつて大陸中央の覇者として栄華を誇っていた大国である。
 名君と謳われた皇帝の下で平和が築かれており、臣民が豊かに安心して暮らしていた。
 しかし……皇帝の急死と代替わりによって繁栄の歴史に終わりがやってくる。
 新たな皇帝は逆らう臣下を次々と処刑して、民を富ませる法律や制度を撤廃。国に混乱をもたらしたのだ。

 周辺各国から『愚帝』と称される皇帝の影響は冒険者にも及んでいる。
 冒険者を保護・優遇する取り決めが撤廃されたことにより、多くの冒険者がエイルーン帝国から離れていった。
 今では、才能ある若者は国を出て他国の冒険者ギルドで登録をするほど。
 一応、ギルドの支部はまだ残っているが……近いうちにエイルーン帝国から完全に撤退するという噂も聞こえてくる。

 それが冒険者から見放された土地……エイルーン帝国である。

「帝国の貴族がわざわざ隣国のギルドに依頼を出しにきたのか?」

「……はい、自国の冒険者は実力も人間性もあてにできないからと」

「それは何というか……どの口でと言いたくなるな」

 エベリアは苦笑した。
 実力も人間性も伴わない半端者だけしか残らなかったのは、そちらの責任ではないか。冒険者を冷遇した帝国が全面的に悪い。

「そうですねえ、それは私も同感です。だけど、その貴族の人はかなり多額の報酬を……しかも全額前金で用意してくれているんです。信用ができる冒険者に限定してという話ですけど。おまけに転移門を使用するための費用まで前払いしてきまして」

「転移門……まさか、そこまで……!」 

 エベリアが驚いて息を呑む。
 転移門というのはかつてギルドの創設者の一人である魔術師が生み出したマジックアイテムであり、大陸のありとあらゆる場所に一瞬で転移することができるのだ。
 一度に転移することができるのは数人。おまけに使用するためには大量の魔石が必要となるため緊急時以外には使われることはほとんどない。

「それはそれは……よほど切羽詰まった状況なんだろうな」

「ええ……あの国は王様がアレだから騎士団がモンスター退治もしてくれないらしくて、本当に滅亡の危機にあるみたいですね……」

 受付嬢が報酬の金額を紙に書いて提示する。
 それは相場を遥かに凌駕する金額。ローンではなく即金で家を購入できるような額だった。

「これは……!」

 その数字にはエベリアも思わず唾を飲む。
 これだけの金があれば、欲しかったパーティーのホームを購入することができる。

(エイルーン帝国は信用できないが、末端の貴族まで全て腐っているわけではないはず。前金で報酬全額となれば騙しようがない。依頼の内容が問題といえば問題だが……)

 依頼書には『領内にいるモンスターの掃討』とあって、具体的な数字や種類が書かれていない。
 とんでもなく強力な個体が出るのかもしれないし、大量のモンスターが棲みついているのかもしれなかった。

「ちょうど、信用ができて実力もあるパーティーが『戦乙女の歌』以外、出払っているんですよ。もしも皆さんが気に入らないというのであれば、この依頼は断るつもりですけど……」

「……いや、やろう。私達が受ける」

「いいのですか? エベリアさん、他の皆さんに相談しなくても?」

「ああ、三人とも依頼の詳細には興味を持たず、私に任せているからな。アイシスなんて、『誰を殴ればいいかだけ教えてくれたらいいよ』などと言っているほどだ」

「ああ、なるほど」

 受付嬢が苦笑をした。
 確かに、美貌のわりに脳筋なアイシスならばそんなふうに言うだろう。

「それじゃあ、依頼主には良い返事を出しておきます。転移門の準備があるから、明日になったらまたギルドに来てください」

「わかった。それじゃあ、よろしく頼む」

 エベリアは軽く手を上げてから、受付カウンターを後にした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...