神撃のアイシス 悪役令嬢の娘ですが冒険者になりました

レオナール D

文字の大きさ
20 / 43

第17話 ギャンブル鬼アイシス

しおりを挟む
「さて、みんなはどこに…………あそこか」

 受付カウンターから離れたエベリアが仲間の姿を探す。
 他の三人はテーブルでポーカーをしているようだった。

「うきゃあああああっ! また負けたあああああああっ!」

「フ、雑魚」

 ローナがテーブルに突っ伏して悶絶して、レーナが嘲笑を浮かべている。

「うう……今月のお小遣いが。推しの役者さんの姿絵を買おうと思ってたのに……」

「ローナって賭け事、弱いよね。全部顔に出てるけど?」

 ニコニコ顔のアイシスの前には大量のコインが積まれている。
 ローナだけではなく、テーブルにいる男の冒険者達もそろって項垂れていた。

「畜生……また負けた。アイシスちゃん、オーガ強え……」

「何でこんなに強いんだ……イカサマをしてるわけでもないだろうに」

「クソッ、大勝ちして晩飯に誘おうと思ってたのに……」

 テーブルに積まれているコインの枚数を見るに……アイシスが圧勝。大きく差をつけて次点がレーナ。ローナと男三人は惨敗のようだった。
 意外なことかもしれないが……アイシスは賭け事が強い。とんでもなく強い。
 決してポーカーフェイスというわけでもないのに手札の引きが鬼強いのだ。
 カードの交換無しでロイヤルストレートフラッシュを平気で引くのだから、対戦相手はやっていられないだろう。

(生まれつきの運が良いというか、運命とかに愛されている気がするな……)

 絶対にやってはいけないことだが、然るべき場所で賭け事をすれば家一軒くらい変えそうな気もする。
 やってはいけないというか、ダメ人間になるからやらせるつもりはないのだが。

「三人とも、遊びはそれくらいにしておけ。仕事の話だ」

「あ、エベリア」

「良い仕事、見つかった?」

「まあ、な。その辺りの話をするからこっちに来てくれ」

 アイシスとレーナの言葉に、エベリアが別のテーブルを指差した。

「うん、いいよ」

「待て待て待て! 勝ち逃げは許さねえ!」

 頷くアイシスに、男性冒険者の一人が勢い良く立ち上がって背中の剣を抜いた。
 まさか暴力で負け分を取り返そうとしているのかと緊張が走るが……男は剣をテーブルに置いた。

「この愛剣を賭けるから、もう一勝負してくれ!」

「ええ……それがないと困るんじゃないの?」

「勝てば良いんだ、勝てば! 絶対にアイシスちゃんを負かして、金と引き換えにデートの約束をこぎつけてやる!」

「どんな理由だ。そんなことに剣を賭けるな冒険者」

 エベリアが半眼になってツッコんだ。
 どうやら、この男性冒険者はアイシスに対して好意を抱いているらしい。
 冒険者の命である武器を賭けるのは特殊だが、アイシスを好いている男自体は珍しくもなかった。
 圧倒的な強さを持ちながらも偉ぶらず、奔放で天真爛漫でありながら顔は貴族の令嬢のように整っている……アイシスは王都の男性冒険者の間でアイドルのような扱いを受けていた。

「えーと……私は勝負しても良いんだけど……?」

 アイシスがエベリアの顔を見て、「どうしよっか?」と目で訊ねる。
 エベリアは大きく溜息をついて、処置無しとばかりに首を振った。

「……相手をしてやれ。私達はこっちで作戦会議をしておくから」

「あ、良いの? それじゃあ、私には……」

「誰を殴ればいいのかだけ教えて……だろう?」

「そうそう。敵が決まったら教えてね」

 ニッコリと笑うアイシスに頷いて、エベリアがローナの首根っこを掴む。

「ほら、お前も行くぞ」

「ま、待ってリーダー! 私はまだやれる。まだ賭けられる……!」

「どうせ負けるだけだ。小遣いは使い果たしたんだろう?」

「だ、大丈夫……そう、次は服を。上着を賭ければ……」

「……お前はもうギャンブルをするな」

 スッポンポンになるのがオチである。
 どうして、こんなにギャンブルが弱いくせに嵌まっているのだろう。
 賭け事にまるで興味のないエベリアには理解できない。
 レーナと二人がかりでローナを引きずっていき、別のテーブルで依頼内容について説明した。
 話を聞くと……二人はエベリアと同じように微妙な顔になる。

「エイルーン帝国……大丈夫?」

 レーナが眉間にシワを寄せる。やはりあの国は信用できないようだ。

「百パーセント大丈夫だとは言えないな。だが……一応、ギルドが調査をしたところ、依頼人の貴族には悪い噂を聞かない」

 むしろ、領民に慕われている良い領主とのことだった。
 帝国が腐敗しているのは紛れもない事実であるが、全ての貴族が悪いわけではなかった。

「私は受けても良いと思うわ……お金、ないし」

 ローナは負けが重なった暗い表情のまま言う。
 金が無くなったのはお前の自業自得だとエベリアとレーナは思った。

「エイルーン帝国だって、先代の皇帝までは良い国だったんでしょ? 悪いのは今の皇帝だけじゃない」

「私も同意見だ。報酬は前払いのようだし、受けて良いと思う」

「……二人が良いなら、私も問題ない」

 ローナが頷いて、この依頼を受けることが完全に決まった。

「アイシスは……まあ、聞くまでもないか」

 アイシスにとって重要なのは誰を殴るかであって、依頼人になど興味はない。
 エベリアが視線を横に向けると、いつの間にか男性冒険者三人がパンツ一枚で土下座をしていた。
 アイシスが困ったような顔で彼らを見下ろしており、勝負の結果は明白である。

「……明日はエイルーン帝国に遠征だ。このパーティーでの初めての国外遠征。絶対に成功させようか」

 エベリアが締めて、この場はお開きになった。
 その日は依頼を受けることなく引き上げることにしたのだが、帰りにレストランに寄ることにした。
 あぶく銭を手にしたアイシスが奢ってくれたため、ローナが少しでも負けを取り戻すためにデザートを三品も頼んでお腹を壊すことになるのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...