神撃のアイシス 悪役令嬢の娘ですが冒険者になりました

レオナール D

文字の大きさ
21 / 43

第18話 転移門

しおりを挟む
 翌日、『戦乙女の歌』の四人は再び冒険者ギルドを訪れた。
 帝国への遠征のため、ギルドにある転移門を使うためである。 
 建物に入っていつものように受付カウンターに行くと……そこには普段は見かけない人間の姿があった。

「ギルドマスター」

 エベリアがわずかに驚いた表情になる。
 そこにいたのは王都ギルドの責任者であるギルドマスターだった。
 デロリー・ルスベンという名前のその男は七十代の老年男性であり、白髪頭にメガネをかけた柔和な顔立ちの人物である。
 好々爺とした外見は荒くれ者の冒険者のまとめ役とはとても思えないが、若い頃は『オーガ殺し』とまで呼ばれた剣の達人だった。

「おお、嬢ちゃん達が依頼を受けてくれたと聞いて、見送りにきたのじゃよ」

「あ、お爺ちゃんだ!」

 ギルドで待ち構えていた老人にアイシスが嬉しそうに声を上げる。

「お爺ちゃん、こんにちは!」

「こんにちは。嬢ちゃん。久しぶりじゃのう」

「うん、久しぶり! 元気だった? 身体とか悪くしてない?」

「大丈夫じゃよ。嬢ちゃんは優しいのう」

 ギルドマスターが相手とは思えないような親しげなアイシスに、デロリーが相貌を緩めている。
 この二人は初対面からこうだった。人懐っこい美少女であるアイシスにデロリーは孫を相手にするようにメロメロになっており、チャンスがあればこうして会いにくるのだ。
 特定の冒険者を特別扱いするのは組織の長としては問題があるのだが……つまらない嫉妬でアイシスにケンカを売った冒険者の末路は無残である。腹パンをされて、胃の中身を地面にぶちまけていた。

「あっちの国はこっちより寒いから、風邪をひかぬように気をつけるんじゃよ」

「うん、気をつけるね!」

「それでは、ギルドマスター。行って参ります」

「ウム。エベリア、嬢ちゃんのことを頼んだぞ。それと……」

 エベリアに向き直ったデロリーが少しだけ声を潜める。

「……依頼主である貴族はおそらく、悪い人間ではない。だが……知っての通り、あの国の現・皇帝とは関わらぬようにな。アレは狂っておる」

「……やはり、そうなのですか?」

「暗君、愚君、それに暴君というのはアレのためにある言葉じゃよ。くだらぬ理由で問題を引き起こして、それを他人のせいにして責任逃れ。自分では火消しもしないくせに周りの人間に文句ばかり。欲と自己保身に濁り切った人型の獣……あまり声を大きくはできぬが本格的に帝国にあるギルドを畳む話が出ておる」

「…………」

 冒険者ギルドが撤退すれば、エイルーン帝国はモンスターの巣窟になるだろう。
 大陸中央の覇者でもあった大国がモンスターによって蹂躙され、滅亡することになる。

「行きは転移門によって送ってやれるが、帰りは徒歩か馬車になるじゃろう。依頼主が治めている領地はセイレスト王国に近いから問題はないじゃろうが、くれぐれも気をつけるのじゃよ。もしものことがあったら、ワシの名前を出しても構わぬからな」

「……ご忠告、感謝いたします」

 エベリアは頭を下げて礼を言った。
 デロリーは会話中こそ真剣な表情をしていたが、すぐに「ニヘッ」と緩んだ顔になる。

「それじゃあの、嬢ちゃん。これはお弁当に食べなさい」

「わっ! フルーツサンドだ! もしかして、大通りのあの店の?」

「そうじゃよ。並ばないと買えないあの店のものじゃよ」

「やったあ! お爺ちゃん、大好きっ!」

「ホッホッホッ」

 アイシスに抱き着かれて、デロリーは先ほどまでとは別人のように鼻を伸ばしている。
 スケベ爺のような顔つきに、ギルド内にいる冒険者や受付嬢から白い視線が突き刺さった。

「……それでは、皆さん。地下室にご案内いたします」

「アイシス、もういいだろう」

「あ、わかった」

 受付嬢が軽く咳払いをしてから、転移門がある地下室へと案内をする。
 アイシスがデロリーから離れて、エベリアの後ろをついていく。

「気をつけるんじゃよー」

「うん、またねー」

 あからさまに残念そうにしているデロリーに手を振ってから、アイシスはギルドの奥にある階段を降りていった。
 受付嬢が鍵を開けて中に入ると、暗く狭い部屋の中には幻想的な光景が広がっている。

「わあっ、すごい……!」

 部屋の中央、床には幾何学的な文様の魔方陣が描かれていた。
 周囲には青い炎が焚かれており、炎の色が流れ込んだかのように魔方陣そのものも淡くにじむような青に染まっている。
 かつて『賢者』と呼ばれた冒険者が生み出した軌跡の産物……『転移門』である。

「すでに魔石の力を流入しています。座標も入力済みですから、いつでも転移できますよ」

「それじゃあ、行ってみようか。みんな、準備は良いか?」

「うん! 大丈夫、早く使ってみよう!」

「転移門、初めて。楽しみ」

「貴重な体験よね。まさか、私達がこれを使わせてもらえるほどの冒険者になるなんて……」

 エベリアの呼びかけに、仲間達の頼もしい声が返ってくる。
 これから暴君が治める異国に行くというのに特に緊張している様子もなかった。

「あ……」

 エベリアがふと気がつく。
 そういえば……アイシスに行き先を伝えていなかった。
 昨日はギャンブルをしていて作戦会議に参加していなかったし、宿屋に戻ってからは遠征の準備でそれどころではなかったからだ。

(まあ、いいか。アイシスだし)

 アイシスならばどこだって平気で受け入れるだろうと、エベリアは説明を先送りにする。

「それでは、転移門を起動します」

 四人が魔方陣の中に入ると、受付嬢が横の壁に手を当てた。
 そこにも同じように奇妙な文様が描かれているが、この中にその意味を読み解くことができる人間はこの場にいない。

「わっ! 綺麗っ!」

 魔方陣が輝きを増して、青い光がアイシス達を包み込む。
 美しい螺旋を描く光に包まれる。鮮やかな色彩にアイシスが瞳を輝かせた。
 次の瞬間、フワリと地面が揺れるような感覚と共に周囲の景色が一変する。

「ここは……?」

 光が消えて、周りの景色がクリアになっていく。
 そこはギルドの地下室ではなかった。広い平原のような場所に移動している。
 だだっ広く、どこまでも野原が広がっている平原。

「グルルルル……」

 そこには……四人に向かって唸り声を上げて牙を剥く、十数匹の魔獣の姿があったのである。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

処理中です...