神撃のアイシス 悪役令嬢の娘ですが冒険者になりました

レオナール D

文字の大きさ
28 / 43

第24話 ハーピーの巣

しおりを挟む
 その後も、四人は危なげなくモンスターを倒していった。
 森に棲んでいるモンスターは数が多いが、そこまで強力なものはいない。強い個体でもせいぜいCランクというところ。
 Bランクパーティーである『戦乙女の歌』の四人にとっては、問題なく対処できる敵ばかりだった。

「あ、でっかい木があるよ」

「本当ね。かなり古そうな大木じゃない」

 アイシスが指差した方角を見て、ローナが目を丸くした。
 この森にある木々よりも、倍近くもある大きな木が見えてきたのだ。
 近づいてみると、その木の幹は大人十人が手をつないでようやく囲めるほど太く、高さも百メートル以上はあった。

「ああ……アレは世界樹の若木だな。珍しい」

「え? 知ってるの、エベリア?」

「有名だからな。二人も聞いたことがあるんじゃないか?」

 エベリアがローナとレーナを振り返ると、二人とも頷いた。

「名前だけはね。世界各地にある大きな木のことでしょう?」

「空から種が落ちてくる……そういう話」

 どうやら、レーナの方が詳しいようだ。説明のために口を開く。

「空の上から、大きな種が落ちてくる。その種が芽吹いて、百年くらいで見上げるような大木になる。木はどんどん大きくなっていって、千年もすると天を衝くような世界樹になる。育ち切った世界樹からは不老不死をもたらす魔法の実が成る……そういう伝説」

 レーナが世界樹の若木を見上げて、やや興奮した様子で鼻息を荒くする。

「この木はたぶん百年くらい経ったもの。育ち切った世界樹はエルフの国と北大陸の魔王の国、それから天空の王国にしかない」

「天空の王国?」

「空に浮かぶ島にあるという伝説の国。種はそこから落ちてくる」

「わっ! そんなのがあるんだ!」

 アイシスが瞳を星空のように輝かせた。

「空の上の王国……見てみたい! みんなで行ってみようよ!」

「それが見つけることができたら、歴史に残るような冒険者になれるだろうな……」

 エベリアが肩をすくめた。
 天空の王国はこれまで多くの人間が探し出そうとして、結局、誰一人として発見できていない伝説の場所である。
 この世界にはそういったおとぎ話で語られるような空想の土地が幾つもあり、神話の時代から残っている冒険者の本に伝承として記載されていた。

「海底にある都市、東の果ての黄金郷、月の裏側の都……なんて話もある」

「へえ! そんなのもあるんだ!?」

「ん、後で本を貸す」

「ありがとう、レーナ!」

 アイシスとレーナが和やかに話している。
 そんな二人の横で、世界樹の若木を見上げていたローナが目を細める。

「……いたわ。あんなところにハーピーが」

「え?」

 つられてアイシスが頭上に目をやると……確かに、世界樹の枝のところに人型の鳥の姿があった。

「どうやら、あの木を巣にしているみたいね。随分と高い場所に……」

「うーん、あそこでは手が出せないな」

 エベリアが眉根を寄せる。
 若木とはいえ、世界樹は百メートル近い高さがある。
 登るのは簡単ではないし、登っていったとしてもすぐに飛んで逃げてしまうだろう。

「下まで降りてくるのを待つか? とはいえ……奴らは知能が高い。私達を警戒している可能性もあるな」

 ハーピーの例にもれず、人型のモンスターは獣型よりも知能が高い。
 中途半端な罠には引っかからない。かえって警戒を深めてしまうだろう。

「あ。それじゃあ、私だけでちょっと登ってやっつけてくるよ。一人だったら、見つからずに近づけると思うし」

 アイシスが片手を挙げて提案する。

「おいおい、アイシス。あまり無茶を言うなよ」

「そうよ。落ちたら危ないでしょう?」

 エベリアとローナが一緒になって窘める。
 いくらアイシスの身体能力が高いとはいえ、百メートルもある木を上って、そこにいるモンスターを倒せるわけがない。
 そう思った二人であったが……アイシスがニッコリと笑う。

「大丈夫だよ。私、木登りは得意だから」

「あ!」

 アイシスが地面を蹴り高々と跳躍する。十メートルほどを一気に飛び上がり、木の瘤に片手で掴まった。

「ちょ……アイシス! 危ないぞ!」

「平気だって。そんなに騒いだら気づかれちゃうから、ちょっと静かにしててね」

「ああっ!」

 三人の仲間が見つめる中、アイシスが太い巨木をスルスルと登っていく。
 否、それは登るなんて言葉で表せるものではない。アイシスは木の幹を走っていた。ほぼ垂直に。

「えっほ、えっほ」

 幹の出っ張った部分に足をかけては上に跳び、足をかけては上に跳び……時折、手を使ってバランスを整えては、どんどん天辺に向かって上がっていく。
 猿だってこんなに華麗に木登りはできまい。地上に残された三人はそろって唖然とする。

「……すごい」

「まさか、これほどとはな……」

 アイシスの超人ぶりはまだまだ底を見せていなかったようである。
 三人が見つめる先で、アイシスが世界樹の頂上付近……ハーピーの巣があるすぐ傍へと到着した。

「ピュイッ!?」

「あ」

 しかし、そこでハーピーがアイシスの接近に気がついてしまった。
 慌てて巣から飛び立ち、左右の翼をはためかせて何処かに飛んでいこうとしている。

「逃がさないよ!」

 だが……そこでアイシスが予想外の攻撃に出る。
 木の幹から跳んで、空中のハーピーに躍りかかったのだ。

「うわあっ!」

「アイシス!」

「ッ……!」

 下から見上げていた三人が、愕然として悲鳴を上げる。
 あの高さから飛び降りるだなんて自殺行為。どう考えても死んでしまう。

「ピュウッ……!」

「やっ、と!」

 けれど、アイシスがそのまま落下することはなかった。
 空中で思いきりハーピーの背中を踏みつけて、それを足場にして世界樹の幹へと戻っていったのだ。

「みんな、そっちに行ったよ! 後はよろしくっ!」

「お、おお!?」

 アイシスに踏みつけられたハーピーが墜落してきた。
 三人が慌てて移動して場所を開けると、ズドンと大きな音を鳴らして地面に衝突する。

「ピュ……イ……」

 ハーピーはまだ息があったが……完全な虫の息になっている。
 生きていることが不思議なくらいだ。放っておいたとしても、二度と空を飛ぶことはできないだろう。

「……トドメを刺すか」

 衝撃の光景を目にして思考停止しつつあったが、エベリアがどうにか剣を抜いてハーピーに振り下ろした。
 ハーピーは珍しいモンスターであり、飛んでいるため討伐も難しい。
 色鮮やかな羽は高値で取引されるため、思わぬ臨時報酬である。

「おーい、みんなー! こっち、すごい眺めが良いよー!」

 樹上からアイシスの声が聞こえてくる。

「みんなも登ってこない!? ここでお弁当、食べようよー!」

「……無理に決まっているだろうが」

「……不可能」

「……無理ね。絶対に」

 三人はそろって表情を暗くさせて、遠く小さくなったアイシスの姿を見上げる。

「危ないことをして……あとでお説教だな。タップリと」

「異存ない」

「間違いないわね」

 ハーピー討伐の功労者であるはずのアイシスは、帰りの道中で長々と説教をされることになる。
 危険で身勝手な独断行動を三人から咎められ、アイシスはすっかり涙目になるのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...