神撃のアイシス 悪役令嬢の娘ですが冒険者になりました

レオナール D

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第29話 王子様の依頼

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「危ないよ、部屋の中でそんなものを振り回したら」

「貴様……」

 護衛の騎士が驚きに目を見開く。
 アイシスの動きが全く見えなかった。いったい、いつの間に剣を破壊したのだろう。

「やめろ! マリッサ!」

 そこでようやく、カーベルが叫ぶ。

「俺達はあくまでも仕事の依頼をしに来たんだ。アポなしで頼み事をしに来ておいて偉そうな態度を取れる立場じゃない。俺の護衛だったら、少しはわきまえろ」

「……申し訳ございません。つい」

「謝る相手が違うだろうが。わかっているだろう?」

「…………」

 マリッサと呼ばれた護衛の騎士が渋々といったふうにエベリアに向き直り、頭を下げる。

「大変、失礼をいたしました」

「いや……こちらの方こそ、感情的になってしまいました」

 エベリアはわずかに顔を蒼褪めさせながら、ソファに座る。

「ただ……仲間が戦争に利用されるのが我慢ならなかったんです。王子殿下に置かれましては、どうか察していただけると有り難く思います」

「もちろんだ……俺の説明の仕方が悪かったらしい。謝るよ」

 カーベルは咳払いをして、改めて説明を再開させる。

「帝国は滅びる。これは決定事項だから変えようがない。ただ……滅びるにしても、我が国に迷惑が掛からないようにしてもらいたいんだ」

 カーベルは紅茶を一口飲んで、溜息を吐く。

「帝国がどうなろうと知ったことじゃない……そんなふうに対岸の火事を決め込めたら良かったんだが腐っても隣国だ。他人事じゃいられない。すでに我が国には難民が流れ込んでおり、帝国内部で繁殖したモンスターもこちらにやってきている。今の混乱が長く続けば、セイレスト王国にも小さくない被害が生じるだろう」

「その被害を軽くするために戦争……ですか?」

「その通りだ。極めて短時間で帝都を占領することにより、これ以上、我が国に火の粉が降ってこないようにしたいんだ」

 カーベルが頷いて、笑いながら両手を広げた。

「心配せずとも、君らが思っているような戦争にはならない。すでに帝国西部に領地を持った貴族の大部分はセイレスト王国に併合を願い出ている。それほど厳しい戦いにはならないさ」

「だけど……それでも戦争ですよね? まったく被害が出ないとは思えませんが?」

「それは否定しない。だけど、セイレスト王国が帝国を落として誰が困るのかっていう話だよ」

 カーベルは子供に言い含めるような優しい口調で続ける。

「帝都に住んでいる国民は貧窮している。地方の貴族達は横暴な皇帝に振り回されている。誰もが帝国の滅亡を願っているんだ。セイレスト王国が攻め込むことで救われる人間が大勢いるはず。皇帝にも責任を取ってもらわないといけない」

「それで……我々に何をしろと言うんですか?」

「モンスター退治だ。冒険者に依頼をするのだから当然だな」

「戦争は人間同士でやるもの。モンスターは関係ない」

 後ろで話を聞いていたレーナが口を挟んできた。
 王族を敬う様子もない口調に護衛騎士がピクリと眉を動かすが、アイシスを警戒しているのか今度は何もしなかった。

「戦争と直接の関係はないな。だが……知っての通り、今の帝国内部はモンスターの巣窟だ。もちろん、王国の騎士や兵士がモンスターに劣るとは思わないが、無用な戦いで被害を出したくはない。そこで、ギルドの冒険者達に依頼を出して、露払いをお願いしているんだ」

 冒険者への依頼はあくまでもモンスター退治。戦争は兵士の仕事ということである。

「どうだい? やってくれるかな?」

「うーん……でも、私って帝国に入れないんだけど」

「ちょ……アイシス!」

 後ろからアイシスが会話に入ってくる。
 その発言に、エベリアが慌てた。
 アイシスが追放された帝国貴族の娘だと王族に知られたら、面倒事になるかもしれない。

「問題ないんじゃないかな? どうせ滅ぶ国だからね」

 しかし、カーベルはアイシスの発言を気に止めた様子もなく言う。

「そもそも、君は生まれも育ちもセイレスト王国だろう? 帝国人でもないのに、帝国の法や皇帝の命令に従う義務があるのかい?」

「うーん……あれ? もしかして、別に従わなくても良いのかな?」

「良いんじゃないか? 従わなくちゃいけないとしたら、この国の王族である俺の命令だろう?」

「ああ、そうなんだ。そうかも」

 アイシスが納得した様子で頷いた。

(もしかして……)

 そんなやり取りを見て、エベリアは嫌な予感がした。
 もしかすると、カーベルはアイシスの素性を知っているのかもしれない。
 全てを知ったうえで、あえて帝国への遠征に誘っているのではないか。

(何か狙いがあるというのか? アイシスに何をさせるつもり……?)

「ちなみに、ギルドに頼んで強制依頼を出すこともできる。最初から君達に拒否権はないんだけどね」

 カーベルがおかしそうに言った。
 最初から、『戦乙女の歌』のメンバーに断るという選択肢はなかったようだ。

「だったら、どうしてこちらに出向いたんですか? ギルドを通じて、強制的に命令をすればいいじゃないですか」

「頼み事をするのに人伝だなんて不誠実だろう? お願いするのなら、直接、話をしないと失礼じゃないか」

「…………」

 言っていることは立派だが、どうにも信用しがたい人物である。

「……わかった。その依頼を受けさせていただきます。みんなも良いだろうか?」

「……別にいい」

「私も大丈夫だよ。エベリアが決めたことだから」

 レーナとアイシスが了承する。
 ローナはこの場にいなかったが、彼女も拒否はしないだろう。
『戦乙女の歌』の四人が帝国への遠征に参加することが決定して、アイシスは母親の因縁の地に向かうことになったのである。
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