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第30話 戦争の始まり
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かくして、セイレスト王国がエイルーン帝国に侵攻を開始した。
宣戦布告はしていない。
そもそも、これは戦争などではなくモンスターの巣窟となった帝国を救うための救援。帝国を滅ぼすことが目的ではないため、戦争上の手続きは必要ないというのが、王国側の主張である。
「とはいえ……許可なく他国に軍を進めるのだから、実質的な侵略行為には相違ない」
「でも、何も起こってない。誰も邪魔してこない」
エイルーン帝国の領土内を進みながら、エベリアとレーナが怪訝な顔をしていた。
『戦乙女の歌』の四人は王国軍に随行して、帝国内でのモンスターの掃討を行っている。
今しがたもモンスターとの戦いを終えて、後始末をしているところだった。
あくまでも戦うのはモンスターだけ。人間との戦いには参加しない。そんな契約の下で、彼女達以外にも大勢の冒険者が従軍をしていた。
しかし、実際に帝国内に入ってしまったら拍子抜け。
本当にモンスターとの戦いばかりで、人間との戦いがまるで起こらなかったのだ。
「どこの領主様も素通りで通してくれているし、それどころか、領内のモンスターを退治したことに感謝の言葉すら言ってくる。本当にどうなっているんだ?」
「簡単なことだよ、『戦乙女』の皆さん」
「カーベル殿下……?」
モンスターの死骸の始末をしている四人のところに、王国軍の指揮官であるカーベルがやってきた。
「ほとんどの領主は帝国を見限っている。このまま、帝国に仕えていても泥船で沈むだけだと、理解しているのさ」
当代の皇帝であるルーデリヒ・エイルーンは国内から冒険者は流出させる原因を作っておいて、モンスターによる被害が生じてからまともな対処をしなかった暗君である。
騎士団を使って守っているのも王都周辺と王家の直轄地だけ。王都から離れた辺境地域はほったらかし。
モンスターの被害を直に受けていた辺境の領主にとって、ルーデリヒはもはや崇めるべき主君ではなくなっている。
「加えて、先日、王国に鞍替えしたローテス伯爵らが重用されていることも理由としてあるだろうね。裏切り者として冷遇されることなく待遇を保障されているのだから、我も我もと他の貴族もこちらに付いているよ」
ごく一部、あくまでも帝国に義理立てしている貴族もいるとのことだが、彼らは王国軍が帝国に侵入するよりも前に他の貴族によって叩きのめされていた。
王国に媚びるための良い材料として、手柄にされてしまったわけである。
「おそらく、帝都に着くまでは人間同士での争いはないだろね。引き続き、君達はモンスター狩りに専念してくれたまえ」
「はあい♡ わかりました。殿下あ♡」
カーベルの言葉に、ローナが両手を合わせて華やいだ声を上げる。
「殿下のために、今日も明日もお仕事頑張りますね♡」
ローナは頬を薔薇色に染めて、瞳にハートマークを浮かべていた。
「……悪い病気」
猫なで声で話している妹に、レーナがポツリとつぶやいた。
ローナはホストや役者に入れ込むことからわかるように、イケメン大好きなミーハー女子である。
そんなローナにとって、王族という身分であり、顔も整ったカーベルはストライクど真ん中だったようだ。
冒険者だからと見下さない気さくさ、第三王子という次期国王から遠く、微妙に手が届きそうな地位もプラスに働いたらしい。
ローナはカーベルに入れ込んでおり、事あるごとにアピールを繰り返していた。
「殿下殿下、見てください! このモンスター……レインボーホークっていうんですよ?」
「へえ、そうなのか。綺麗な羽の鳥だね?」
「そうなんですよお。冒険者の間では、このモンスターの羽で服を織って好きな人にプレゼントすると、永遠に結ばれるといわれているんですよお。ロマンチックですよねえ♡」
「ハハハ、それはいいねえ。だったら、この羽で皆さんの分の服を作ってプレゼントしたいな」
「皆さん……ですかあ? そこは私だけにしてくださいよお♡」
「「…………」」
盛りの付いた猫のようになっているローナの姿に、エベリアとレーナが何とも言えない苦い顔になっていた。
仲間があからさまに男に媚びるところなど、できれば見たくはなかった。
そんな茶番が繰り広げられている一方。少し離れた場所で、アイシスが一人、東の空を見つめている。
「アイシス、どうかしたのか?」
「ん、ああ。エベリア」
今、気がついたというふうにアイシスが振り返った。
「ちょっと考え事をしてたんだ……ママのこと」
「アイシスの母親……アリーシャ・レイベルン公爵令嬢のことかい?」
「うん。もう公爵令嬢じゃなくて、名前もアリーシャ・ハーミットだけどね」
アイシスは天真爛漫な彼女にしては、珍しく愁いを帯びた顔をしている。
「私さ、ママに言われているんだ。私の父親は帝国の帝都にいるって」
「…………!」
「これから向かう先に、私の本当のお父さんがいる。育ててくれたパパじゃなくて、ママを無理やり孕ませた父親が」
「アイシス……」
エベリアが気づかわしげな顔で、アイシスの肩を抱く。
「……辛かったら、無理に帝都まで行かなくても良いんだぞ? 私達の仕事はあくまでもモンスター退治なんだから。適当なところで、待っていてくれれば良い」
「ううん、良いんだ」
アイシスが首を振った。
暗い表情から、一転していつもの笑顔に変わる。
「別にお父さんと会うのが怖いってわけじゃないんだ。ただ、どんな人かなって思っただけ。そもそも、誰がお父さんかわからないからね」
アイシスの母親……アリーシャは複数の男性から凌辱を受け、その誰かの子供を身ごもった。
凌辱をした男達の名前は母親から聞かされているが、誰が当たりなのかは不明である。
「だから、どうしたっていうわけじゃないんだけど……少しだけ、楽しみだよ。ママの故郷に行くのは」
「そうか……アイシスが良いのなら、私達は良いんだ」
エベリアはアイシスの肩を叩いて、安堵の溜息を吐く。
「何かあったら、すぐに言ってくれ。私達は同じパーティーに所属する仲間で、家族みたいなものなんだからな」
「うん! ありがと!」
エベリアの言葉に、アイシスは大輪の花が開くように笑った。
宣戦布告はしていない。
そもそも、これは戦争などではなくモンスターの巣窟となった帝国を救うための救援。帝国を滅ぼすことが目的ではないため、戦争上の手続きは必要ないというのが、王国側の主張である。
「とはいえ……許可なく他国に軍を進めるのだから、実質的な侵略行為には相違ない」
「でも、何も起こってない。誰も邪魔してこない」
エイルーン帝国の領土内を進みながら、エベリアとレーナが怪訝な顔をしていた。
『戦乙女の歌』の四人は王国軍に随行して、帝国内でのモンスターの掃討を行っている。
今しがたもモンスターとの戦いを終えて、後始末をしているところだった。
あくまでも戦うのはモンスターだけ。人間との戦いには参加しない。そんな契約の下で、彼女達以外にも大勢の冒険者が従軍をしていた。
しかし、実際に帝国内に入ってしまったら拍子抜け。
本当にモンスターとの戦いばかりで、人間との戦いがまるで起こらなかったのだ。
「どこの領主様も素通りで通してくれているし、それどころか、領内のモンスターを退治したことに感謝の言葉すら言ってくる。本当にどうなっているんだ?」
「簡単なことだよ、『戦乙女』の皆さん」
「カーベル殿下……?」
モンスターの死骸の始末をしている四人のところに、王国軍の指揮官であるカーベルがやってきた。
「ほとんどの領主は帝国を見限っている。このまま、帝国に仕えていても泥船で沈むだけだと、理解しているのさ」
当代の皇帝であるルーデリヒ・エイルーンは国内から冒険者は流出させる原因を作っておいて、モンスターによる被害が生じてからまともな対処をしなかった暗君である。
騎士団を使って守っているのも王都周辺と王家の直轄地だけ。王都から離れた辺境地域はほったらかし。
モンスターの被害を直に受けていた辺境の領主にとって、ルーデリヒはもはや崇めるべき主君ではなくなっている。
「加えて、先日、王国に鞍替えしたローテス伯爵らが重用されていることも理由としてあるだろうね。裏切り者として冷遇されることなく待遇を保障されているのだから、我も我もと他の貴族もこちらに付いているよ」
ごく一部、あくまでも帝国に義理立てしている貴族もいるとのことだが、彼らは王国軍が帝国に侵入するよりも前に他の貴族によって叩きのめされていた。
王国に媚びるための良い材料として、手柄にされてしまったわけである。
「おそらく、帝都に着くまでは人間同士での争いはないだろね。引き続き、君達はモンスター狩りに専念してくれたまえ」
「はあい♡ わかりました。殿下あ♡」
カーベルの言葉に、ローナが両手を合わせて華やいだ声を上げる。
「殿下のために、今日も明日もお仕事頑張りますね♡」
ローナは頬を薔薇色に染めて、瞳にハートマークを浮かべていた。
「……悪い病気」
猫なで声で話している妹に、レーナがポツリとつぶやいた。
ローナはホストや役者に入れ込むことからわかるように、イケメン大好きなミーハー女子である。
そんなローナにとって、王族という身分であり、顔も整ったカーベルはストライクど真ん中だったようだ。
冒険者だからと見下さない気さくさ、第三王子という次期国王から遠く、微妙に手が届きそうな地位もプラスに働いたらしい。
ローナはカーベルに入れ込んでおり、事あるごとにアピールを繰り返していた。
「殿下殿下、見てください! このモンスター……レインボーホークっていうんですよ?」
「へえ、そうなのか。綺麗な羽の鳥だね?」
「そうなんですよお。冒険者の間では、このモンスターの羽で服を織って好きな人にプレゼントすると、永遠に結ばれるといわれているんですよお。ロマンチックですよねえ♡」
「ハハハ、それはいいねえ。だったら、この羽で皆さんの分の服を作ってプレゼントしたいな」
「皆さん……ですかあ? そこは私だけにしてくださいよお♡」
「「…………」」
盛りの付いた猫のようになっているローナの姿に、エベリアとレーナが何とも言えない苦い顔になっていた。
仲間があからさまに男に媚びるところなど、できれば見たくはなかった。
そんな茶番が繰り広げられている一方。少し離れた場所で、アイシスが一人、東の空を見つめている。
「アイシス、どうかしたのか?」
「ん、ああ。エベリア」
今、気がついたというふうにアイシスが振り返った。
「ちょっと考え事をしてたんだ……ママのこと」
「アイシスの母親……アリーシャ・レイベルン公爵令嬢のことかい?」
「うん。もう公爵令嬢じゃなくて、名前もアリーシャ・ハーミットだけどね」
アイシスは天真爛漫な彼女にしては、珍しく愁いを帯びた顔をしている。
「私さ、ママに言われているんだ。私の父親は帝国の帝都にいるって」
「…………!」
「これから向かう先に、私の本当のお父さんがいる。育ててくれたパパじゃなくて、ママを無理やり孕ませた父親が」
「アイシス……」
エベリアが気づかわしげな顔で、アイシスの肩を抱く。
「……辛かったら、無理に帝都まで行かなくても良いんだぞ? 私達の仕事はあくまでもモンスター退治なんだから。適当なところで、待っていてくれれば良い」
「ううん、良いんだ」
アイシスが首を振った。
暗い表情から、一転していつもの笑顔に変わる。
「別にお父さんと会うのが怖いってわけじゃないんだ。ただ、どんな人かなって思っただけ。そもそも、誰がお父さんかわからないからね」
アイシスの母親……アリーシャは複数の男性から凌辱を受け、その誰かの子供を身ごもった。
凌辱をした男達の名前は母親から聞かされているが、誰が当たりなのかは不明である。
「だから、どうしたっていうわけじゃないんだけど……少しだけ、楽しみだよ。ママの故郷に行くのは」
「そうか……アイシスが良いのなら、私達は良いんだ」
エベリアはアイシスの肩を叩いて、安堵の溜息を吐く。
「何かあったら、すぐに言ってくれ。私達は同じパーティーに所属する仲間で、家族みたいなものなんだからな」
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