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第31話 帝都の城壁
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こうして、戦争というにはあまりにも安穏としながら、セイレスト王国の帝国侵攻は進んでいった。
王国軍はほとんどの貴族の領地を素通りして、帝国の奥へ奥へと踏み込んでいった。
しかし……さすがに、皇帝のお膝元である帝都はそうもいかなかった。
帝都のすぐ傍まで到着した王国軍は、そこで立ち往生を強いられることになる。
帝都は高い城壁に囲まれており、城壁の上には多くの兵士の姿があった。
皇帝は辺境にいる貴族の領地を守ることなく、動かせる戦力を王都に総動員させたらしい。
紛いなりにも大国の兵士。城壁に詰めた彼らを倒して、帝都を制圧するのは至難の業。
ここまで無傷で侵攻してきた王国軍であったが……ここで初めて、命がけの戦いが強いられる場面がやってきたのである。
「さて……これから帝都を攻めるわけだけど、どうやって城壁を攻略しようか?」
王国軍の最高指揮官であるカーベルが口を開く。
場所は帝都から少し離れた場所に設置した王国軍の野営地。
中央に張られた天幕には指揮官が集められており、軍議の真っ最中である。
軍議には『戦乙女の歌』の四人の姿もある。同行している冒険者の代表として、参加を求められたのだ。
「誰か、意見がある人はいるかな? 遠慮なく発言して欲しい」
「やはり、時間をかけて落とすしかありますまい。幸い、こちらには武器も兵糧がタップリとある。負けることはないでしょう」
将官の一人が答えた。髭を生やした年配の男性である。
「すでに帝国内のほとんどの貴族が王国に服従を願い出ている。いくら城壁に籠ったところで、帝国軍は孤立無援。援軍の来ない籠城戦に勝ち目はありますまい。無理に攻める必要はないので、ただ囲んで敵の兵糧が尽きるのを待ちましょう」
「お待ちを。戦いが長引けば、他の国々も欲を出すかもしれません」
別の将官……最初に発現した人物よりもやや若い男性が反対意見を示す。
「我々は周辺諸国が帝国を攻めるよりも先んじて、こうして軍を進めて参りました。しかし、戦いが長引けば他国も戦の準備を終えて、帝国の領地を切り取りにかかるでしょう。我らに服属を示している貴族の領地が攻められたら、我らも対処せざるを得ません」
「私も同意見だ。いくら攻城戦であるとはいえ、兵数も士気も我らの方が上のはず。セイレスト王国が帝国に代わって大陸中央の覇者となったことを示すためにも、兵糧攻めなどという消極的な戦いをするわけにはいかぬ!」
「だが……無理に攻めれば、我が軍からも被害が出てしまう。大きな打撃を受ければ、それこそ周辺諸国の思うがまま。せっかく手に入れた帝国の領土を維持することができず、奪われてしまうぞ?」
将官が次々と意見を出すが、話し合いはなかなか纏まらなかった。
兵士の犠牲を覚悟に短期決戦で決着をつける。
確実かつ安全に勝利するために長期戦で兵糧攻めをする。
どちらにもリスクがあり、メリットがあった。
「ねえねえ、これってどういう状況なの?」
アイシスは話についていけてないようで、エベリアの袖を引いて訊ねる。
エベリアは話し合いの邪魔にならないように小声でそっと答えた。
「……どうやって帝都を攻め落とすかを話しているんだ。強引に力ずくで落とすか、時間をかけて相手の食料が尽きるのを待つか」
「フーン、それってどう違うのかな?」
「力押しすれば王国軍から被害が大きいが、すぐに戦争を終わらせられる。時間をかければ被害が出ないが、後々、様々な問題が生じる可能性がある」
「様々な問題って……例えば?」
「例えば……」
エベリアが少しだけ、考え込む。
他国が介入してくること。国の威信が損なわれること。
理由を出せば枚挙にいとまがないが、どれもアイシスにとっては理解できないものだろう。
アイシスにとってわかりやすい理由といえば……一つである。
「……帝都にいる民が死ぬことになる」
「え……?」
「長期の兵糧攻めをすれば、帝都に住んでいる人々も兵士と同じように飢えることになる。当代の皇帝は自分のことばかりで、民のことを少しも考えていないようだから、住民の食料を力ずくで奪う可能性すらあるな。帝都を攻め落としたときには、城壁の向こう側は餓死者の山ができていることだろう」
「地獄絵図……」
「酷い……」
会話を聞いていたレーナとローナも、痛ましげな表情になっている。
「…………」
アイシスもまたショックだったのか、瞳を見開いて固まっていた。
「……そっか、そんなことになっちゃうんだ」
「ああ……その可能性が高い」
「だったら……早く、戦争は終わらせなくっちゃいけないよね」
「アイシス?」
いつになく決意を固めたアイシスの様子に、エベリアが首を傾げる。
「だったら……私がどうにかするよ!」
その言葉は思いのほか、大きな声で放たれた。
議論を紛糾させていた将官が何事かと、アイシスの方を向く。
「私があの城壁をぶっ壊すよ! アレを壊しちゃえば、そんなに被害も出さずに帝都をやっつけられるんでしょう?」
「は……?」
突如として放たれた宣言に、軍議に参加していた者達がそろって唖然とした顔になった。
王国軍はほとんどの貴族の領地を素通りして、帝国の奥へ奥へと踏み込んでいった。
しかし……さすがに、皇帝のお膝元である帝都はそうもいかなかった。
帝都のすぐ傍まで到着した王国軍は、そこで立ち往生を強いられることになる。
帝都は高い城壁に囲まれており、城壁の上には多くの兵士の姿があった。
皇帝は辺境にいる貴族の領地を守ることなく、動かせる戦力を王都に総動員させたらしい。
紛いなりにも大国の兵士。城壁に詰めた彼らを倒して、帝都を制圧するのは至難の業。
ここまで無傷で侵攻してきた王国軍であったが……ここで初めて、命がけの戦いが強いられる場面がやってきたのである。
「さて……これから帝都を攻めるわけだけど、どうやって城壁を攻略しようか?」
王国軍の最高指揮官であるカーベルが口を開く。
場所は帝都から少し離れた場所に設置した王国軍の野営地。
中央に張られた天幕には指揮官が集められており、軍議の真っ最中である。
軍議には『戦乙女の歌』の四人の姿もある。同行している冒険者の代表として、参加を求められたのだ。
「誰か、意見がある人はいるかな? 遠慮なく発言して欲しい」
「やはり、時間をかけて落とすしかありますまい。幸い、こちらには武器も兵糧がタップリとある。負けることはないでしょう」
将官の一人が答えた。髭を生やした年配の男性である。
「すでに帝国内のほとんどの貴族が王国に服従を願い出ている。いくら城壁に籠ったところで、帝国軍は孤立無援。援軍の来ない籠城戦に勝ち目はありますまい。無理に攻める必要はないので、ただ囲んで敵の兵糧が尽きるのを待ちましょう」
「お待ちを。戦いが長引けば、他の国々も欲を出すかもしれません」
別の将官……最初に発現した人物よりもやや若い男性が反対意見を示す。
「我々は周辺諸国が帝国を攻めるよりも先んじて、こうして軍を進めて参りました。しかし、戦いが長引けば他国も戦の準備を終えて、帝国の領地を切り取りにかかるでしょう。我らに服属を示している貴族の領地が攻められたら、我らも対処せざるを得ません」
「私も同意見だ。いくら攻城戦であるとはいえ、兵数も士気も我らの方が上のはず。セイレスト王国が帝国に代わって大陸中央の覇者となったことを示すためにも、兵糧攻めなどという消極的な戦いをするわけにはいかぬ!」
「だが……無理に攻めれば、我が軍からも被害が出てしまう。大きな打撃を受ければ、それこそ周辺諸国の思うがまま。せっかく手に入れた帝国の領土を維持することができず、奪われてしまうぞ?」
将官が次々と意見を出すが、話し合いはなかなか纏まらなかった。
兵士の犠牲を覚悟に短期決戦で決着をつける。
確実かつ安全に勝利するために長期戦で兵糧攻めをする。
どちらにもリスクがあり、メリットがあった。
「ねえねえ、これってどういう状況なの?」
アイシスは話についていけてないようで、エベリアの袖を引いて訊ねる。
エベリアは話し合いの邪魔にならないように小声でそっと答えた。
「……どうやって帝都を攻め落とすかを話しているんだ。強引に力ずくで落とすか、時間をかけて相手の食料が尽きるのを待つか」
「フーン、それってどう違うのかな?」
「力押しすれば王国軍から被害が大きいが、すぐに戦争を終わらせられる。時間をかければ被害が出ないが、後々、様々な問題が生じる可能性がある」
「様々な問題って……例えば?」
「例えば……」
エベリアが少しだけ、考え込む。
他国が介入してくること。国の威信が損なわれること。
理由を出せば枚挙にいとまがないが、どれもアイシスにとっては理解できないものだろう。
アイシスにとってわかりやすい理由といえば……一つである。
「……帝都にいる民が死ぬことになる」
「え……?」
「長期の兵糧攻めをすれば、帝都に住んでいる人々も兵士と同じように飢えることになる。当代の皇帝は自分のことばかりで、民のことを少しも考えていないようだから、住民の食料を力ずくで奪う可能性すらあるな。帝都を攻め落としたときには、城壁の向こう側は餓死者の山ができていることだろう」
「地獄絵図……」
「酷い……」
会話を聞いていたレーナとローナも、痛ましげな表情になっている。
「…………」
アイシスもまたショックだったのか、瞳を見開いて固まっていた。
「……そっか、そんなことになっちゃうんだ」
「ああ……その可能性が高い」
「だったら……早く、戦争は終わらせなくっちゃいけないよね」
「アイシス?」
いつになく決意を固めたアイシスの様子に、エベリアが首を傾げる。
「だったら……私がどうにかするよ!」
その言葉は思いのほか、大きな声で放たれた。
議論を紛糾させていた将官が何事かと、アイシスの方を向く。
「私があの城壁をぶっ壊すよ! アレを壊しちゃえば、そんなに被害も出さずに帝都をやっつけられるんでしょう?」
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